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エピローグ おとぎ話のようではなく -1-

 その週の土曜日。

「雪ノ下忍、放課後生徒指導室……いや地学研究室へ」

 十津見先生から呼び出しされた。


 私、最近何かやったっけ。バレンタインの日の校則違反はいつもどおりメールで家に連絡が行き、私がチョコレートを学校に持ち込んだと知ったママから、

『誰にあげたの? 誰にあげたの? 素敵な先輩とか? それとも他の学校に好きな男の子がいるとか?』

 とハイテンションで尋問をくらって結構なダメージだったけど。友達と交換しただけだよって誤魔化したけど。


 でも十津見先生と話が出来るのはいつでも嬉しいので、放課後は喜んで地学研究室へ行く。

 ノックをして返事を待った。

「どうぞ」

 という声を聞いてから一礼して入室する。


「来たか。……あー」

 机で何か仕事をしていた先生は手を止めて、私の方を向いた。何か言いにくそう?

「その、先日の没収物の件だが。君だけまだ受け取りに来ていないのだが、覚えていると思うが今日が保管期限だ」


「え」

 私はびっくりした。私、もう渡したつもりになってたんだけど。

 先生は律儀に待っていてくれていたのか。あ、メールでちゃんと言えば良かったのかな。


「反省文は?」

「えっと、書いてません……」

 要らないと思ってたし。


 先生は不機嫌な表情になった。

「つまり君は全く反省するつもりがないというわけか。いい態度だな忍くん」

「も、申し訳ありません」

 いつもあやまっているみたいだが、毎回あやまる理由がたくさんあるのだから仕方ない。


 先生は黙って眼鏡の奥からじっと私をにらみ、大きくため息をついた。そのまま何も言わない。時間だけが過ぎていく。



 え、ええと。私、何か先生を怒らせちゃったのかな。規則を破ってチョコレートを持ってきたのは悪かったけど、先生の分だし大目に見てもらえるって思ってたんだけど。

 それって、自分に都合よすぎた?

 だんだん不安になってくる。


 がたんと音を立てて先生が立ち上がった。その音にびくっとする。

「反省する気のない人間に何を言っても時間の無駄だな。もういい、帰りなさい。ああ、これも返しておく」

 差し出されたのは私が先生のためにラッピングした包み。開けられてもいないそれを、先生は私に向かって突きつける。

 え、そんな……。没収されるのは全然気にならなかったけど、返されるのは困る。すごく困る。


 手をつかまれて、包みを無理やり握らされた時には泣きそうになってしまった。

 せっかく頑張って作ったのに。渡すのを楽しみにしていたのに。

 先生、要らないのかな。私が風紀委員なのに違反したから嫌いになった?



「何か言うことはあるか?」

 と聞かれた。

「……ごめんなさい」

 やっとそれだけを言う。

「申し訳ありませんでした。もう校則違反はしません」


「当たり前だ」

 先生は馬鹿にしたように言った。

「そんな言葉は信用していないが。君に限らずここの生徒は規則を破るためのものだと勘違いしているからな。それに君の謝罪は聞き飽きた」

 何度もそう言われてる……。それだけ先生の信頼を裏切ってるんだ、私。

 ひかりちゃんと仲直り出来て浮かれてた。こんなんじゃ先生に嫌われたって仕方ない。


「泣くのか? 君の泣き顔も見慣れている。それくらいでは誤魔化されないぞ」

「そ、そんなつもりじゃ」

 涙をこらえようとするが、余計に目の周りが熱くなってきた。ああもう、すぐ泣いてしまう自分が子供で、本当にイヤだ。


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