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15 Happy Valentine’s Day -3-

「奥山七海、カバンに入っている物を全部出して机の上に置きなさい」

 名指しされて奥山さんの顔が蒼くなる。ああ、挙動不審だったから目をつけられちゃったんだ。

「急いで!」

 一喝されて奥山さんは渋々カバンを開け、中の物をひとつひとつ机に置く。ほとんどがチョコレートの包みだった。


 先生はその横に立って、机に置かれる包みを一個一個検分する。

「これは梅組の西本佐織宛てだな? 西本佐織と君は同じ寮のはずだが、なぜわざわざ規則を破ってまで学校にこういうものを持ってこようと思うんだ?」


「あの……」

 奥山さんの声は聞き取れないほど小さい。

「自宅生や他の寮の子にもあげるので……ひとりだけ渡さないのはかわいそうかなって……」

「なるほど。他の包みは保科翠、山藤桜、石上絵梨佳だな」

 先生はシールに書いてある名前をメモしている。他の四人も後で呼び出しされるなあ、きっと。でも四個は多いよ、奥山さん。その規模なら放課後交換で良かったと思うよ。


「では、これはすべて没収する。原稿用紙三枚以上の反省文を持って、今週中に生徒指導室に取りに来るように。期間を過ぎたら破棄する」

 言い渡されて、奥山さんは卒倒しそうな顔をしていた。


 続いて何人かが名指しされ、荷物検査をされる。動揺が顔や態度に出ていると即見抜かれて名前を呼ばれてしまうから、先生の観察力ってすごいなと思う。

 ロッカーの中に隠していた子もいたけれど、そちらも開けさせられて結局没収。

 私は諦観してしまったせいか名前を呼ばれず、このまま逃げ切れるかとも思ったんだけど。


「それでは、残り全員も自分の荷物を机の上に出すように」

 やっぱりそう来るよね。先生がそんな中途半端なことするわけないもんね。



 私はもうあきらている。ラッピングした包みを、堂々と教科書とノートの上に置く。

 他にもチョコレートの包みを机の上に出している子たちがいたが、みな一様に絶望した表情を浮かべていた。


「六田亜美。添付したメッセージカードを読み上げるように」

 あーあー。六田さん泣きそうだ……。

「泣いて誤魔化しても無駄だ。代わりに私が読み上げても構わないが?」

 六田さんは鼻声になりながら自分で読んだ。チョコレートは人気のある五年生のお姉さま宛てだった。


「さて、雪ノ下忍。君は確か風紀委員だと思っていたが」

 いよいよ私の番である。

「申し訳ありません」

 言い訳のしようがないのであやまるしかない。


「あやまればいいというものではない。君はもっと信頼のおける生徒だと思っていたが、失望させられたな。それでこのメッセージカードはどうする? 自分で読み上げるか?」

 私は首を横に振った。さすがに私もそこまでの度胸はない。


 先生は怪訝そうな顔をする。

「では私が代わりに読み上げることになるが」

 私はうなずいた。


 それを不審に思ったのか、先生は警戒した様子でメッセージカードに手を伸ばした。封筒を開け、中のびんせんを取り出す。

 ちらりと見ただけで先生はそれを封筒に戻した。


「授業時間もなくなるし、このくらいにしておくことにする。雪ノ下忍は原稿用紙六枚以上の反省文。中島心菜、その包みは没収。反省文は原稿用紙三枚以上。班目真琴、それを渡しなさい。反省文……」


 うんうん。先生も自分あてのラブレター(と言うほどのことは書いてないけど)を、みんなの前で読み上げたくはないんだろうなあ。

 六田さんは可哀想だったけど、中島さんと班目さんは救えたので私の違反も少しはクラスのためになったと言えるのではないだろうか。


 先生からの信頼は失っちゃったと思うので、せめてそのくらいの良いことがないと私もやっていられない。

 先生はその後、『規則を破るという人間として恥ずべき行いについて』ひとしきりお説教をした。授業時間は結局、十分くらいしかなかった。



 昼休みにひかりちゃんに謝り倒された。

 そうなんだよね、ひかりちゃんはチョコレートを持ってきてないからノーダメージなんだよ。最終的に持ってくると決めたのは自分だから、私が悪いんだけど。


「何だ、あれは十津見先生宛てだったのか。道理で反応がおかしいと思った」

 美空ちゃんが話を聞いて笑い転げた。

「忍、平然としてるからすごいと思ったよー」

 都ちゃんに感心されるが、みんなと違って私は渡したい人にチョコが渡っただけだから。

 でもまあ……ひかりちゃんの見ている前で告白しなくて良くなったから、これでもいいか。


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