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15 Happy Valentine’s Day -1-

 その日の放課後、ひかりちゃんと調理部に行った。

 調理部は百花園生の九割以上が部員登録していると言われるマンモス部だ。ひかりちゃんと私も部員である。


 部活の掛け持ちが認められる、ゆるい校風だから出来るんだけど。通年で活動している『本気部員』と言われる人は十人程度であるらしい。

 残りは、自分の作りたい料理を作る時だけ参加する『天災部員』(忘れたころにやってくるからということらしい)、勝手に来て好きな料理を作って帰っていく『ゲリラ部員』、おいしそうなにおいがするとやってきてつまみ食いしていく『野良猫部隊』(肉食系、菜食系、甘味系、雑食系に分類される)などで構成されているという話である。私はゲリラ系かなあ。


 この時期は手作りチョコを作りたい『天災部員』と『ゲリラ部員』で混み合うので、調理室を使いたければあらかじめ希望を出さなくてはならない。部長から通知が来ていた。お姉さまたちからうかがってはいたけれど、かなり大変そうだ。


 部室に行くと、

「チョコ作りだったら、そこにあるノートを見て希望の日時に名前を書いておいて」

 本気部員のお姉さまにそう指示された。部員が多すぎるので、私みたいにたまにしか来ない子は覚えてもらえていない。当たり前だけど。

「希望が多すぎたら上級生を優先していくから、承知しておいてね」

 とも言われた。百花園はお姉さま絶対社会、一年生はヒエラルキーの一番下。うん承知してます。


 と言っても早い人はもう年末から予約を入れているので、一週間前にのこのこやって来た私たちが入れる日はもうそんなに残っていない。

 ノートをめくって空き時間を探していると、

「あれ?」

 毎日毎日ぎっしり予約枠を使っていく六年生の名前が。いや、うちのお姉ちゃんなんだけど。オーブンを使用できる三枠のうち、一枠がほぼ独占状態だ。お姉ちゃん……六年生特権を使いすぎ。



 私たちが材料を持って調理室に行った日も、やっぱりお姉ちゃんはいた。

 オーブンの前には、ものすごく大量のチョコクッキーが積み上げられていた。


 うちのお姉ちゃんはクッキーを焼く人だ。それも大量に作る人だ。長期休暇で家に帰って来る時も、よく異常な量のクッキーを作っていた。

 本人は『考え事がある時にクッキーを焼くとまとまりやすいのよ。単純な作業をしていた方が頭が働くでしょ?』と言う。


 だけど、そのために焼き上げられた大量のクッキー・おおよそ十人前を、二人で消費しなくてはならない家族の気持ちもちょっとは考えてほしい。ちなみにお姉ちゃんは生産力は高いが消費は人の半分くらいしかしない。

 そんなお姉ちゃんは調理部で『クッキー部員』と呼ばれている。お姉ちゃん以外該当する人がいない、ただ一人のためのカテゴリーである。


「お姉ちゃん。それ、全部北堀さんにあげるの?」

 いくら何でも婚約者さんも困るのではないだろうか。そう思って聞いてみたところ、

「北堀さん? 誰それ? 人の振袖姿を見ても『赤いですね』としか言わない三十男のことかしら?」

 とてもいい(怖い)笑顔で返された。ケンカでもしたの、お姉ちゃん。


「あの人が女子高生の手作りお菓子なんかに価値を感じるわけないでしょう。これはお友達と寮の皆さんと、お世話になった先生方の分」

 だそうだ。

「それにしても多すぎない? 予約ノート見たけど、お姉ちゃんったら毎日ここを使ってるじゃない」

 迷惑なのではという気持ちがちょっと口調に出てしまった。が、やはりこういうことは身内がきちんと言っておくべきだろう。


「オーブンは六台あるんだし、型抜きチョコを作る方はオーブンを使わないでしょう? 私は一台しか使ってませんわよ、忍さん。本当は二台使いたいところですけれど、他にも使いたい方がいらっしゃるでしょうから遠慮していますの」

 と言って、よそ行きの上品な微笑みを浮かべるお姉ちゃん。

 譲歩してるみたいな言い方してるけど、お姉ちゃんがこれだけやってるとみんな遠慮してオーブンを使いにくくなると思うよ?


 そう指摘したところ、

「いいじゃないですか、もうすぐ卒業なんですから。この調理室にも思い出を残したいんですのよ」

 だって。

 ずっと百花園しゃべりなのは上級生として下級生の私を威圧してきているのだと思われる。

 でもさ、下級生である前に私は妹なんだから、それくらいじゃ遠慮しないよ? 他のお姉さまの目もあるから言葉遣いには気を付けるけど。


 しかしとりあえずお姉ちゃんが『六年生特権』を存分に使うつもりであることと、他人に迷惑をかけることも承知の上でやっていることは分かった。

 仕方ない、『本気部員』のお姉さま方には私があやまっておこう。

 妹だからね。お姉ちゃんが自由すぎる行動をしていたら、家族がフォローしないとだもんね。


 部長の梨乃お姉さまが調理室を出て行くときに追いかけて、こっそりあやまったら爆笑された。

「いいのよ、千草お姉さまはちゃんと下級生にも配慮してくださるから。『オーブンを空けていただけませんか』とお願いすれば、いつでも空けてくださるし。あなたが気にしなくても大丈夫」


 お姉ちゃんも一応、最低限の気遣いはしているのだろうか。それなら良かったけど。

 でももう一度、ご迷惑おかけしてますと言っておいた。


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