14 幸せな毎日 -2-
「それじゃあさ」
って……ひかりちゃんが私を見る目になんか嫌な予感がするなあ。
「私も勇気出すから、忍も勇気出そう。地学準備室までついて行ってあげるから、バレンタインに十津見に告白しなよ」
うわあ、変な話になった。こういうのを『人を呪わば穴二つ掘れ』って言うのかな。違うか、呪ってないか、じゃあなんだろ。『ミイラ取りがミイラになる』? 何だか縁起悪いことわざしか出てこないな。
「いやあの、学校にチョコを持って行くのは禁止でしょ?」
「大丈夫大丈夫。みんなこっそり持って行ってるって四年の由依お姉さまが言ってた」
とひかりちゃんは言うのだが。
由依お姉さまはさあ……。何というか軽くていらっしゃるというか、ものごとをあんまり深く考えないいうか、そういうタイプだし。
あと私、実はもう告白したことある……とか言うと面倒くさくなるなきっと。
「待って。私の方が重いことになってない?」
「そんなことないよ。私なんか家に帰ったら毎日顔を合わせなくちゃならないんだよ。こっちだって相当勇気がいるよ」
それもそうかもしれないけど。
チョコ渡して改めて告白とか、それはやっぱり……緊張する。
抵抗はしたが結局、当日までに手作りチョコを作って私は十津見先生に、ひかりちゃんは俊くん(と玲人くん)に渡すことが決まってしまった。
どうしてこうなった。がっくりしているとドアがノックされ、寮長の春香お姉さまが顔を出す。
「あと十五分で消灯時間ですよ。お二人とも携帯電話はもう寮母さんに提出なさった?」
「あ、まだです」
ひかりちゃんと私はあわてて立ち上がった。もうそんな時間か。
「早く電話持って行かなきゃ。じゃ、忍、明日ね。春香お姉さま、おやすみなさいませ」
「ひかりさん。仲の良いお友達同士でも丁寧な言葉遣いを心がけるのが百花園の伝統よ」
注意を受ける。
「あっ、はい。え、えーと、忍さん、また明日。おやすみなさいませ」
「ええ、ひかりさん。おやすみなさいませ」
百花園言葉で話すのは、お芝居の練習みたいな感じがしておかしい。ひかりちゃんと目があったらお互いに吹き出しそうになった。春香お姉さまがいるから我慢するけれど。
「じゃあ忍さんも急いでね」
ひかりちゃんを見送って、春香お姉さまも立ち去ろうとする。
「承知いたしました。おやすみなさいませ、春香お姉さま」
「おやすみなさいませ。……仲直りできたみたいね」
その言葉にびっくりして春香お姉さまの顔を見る。お姉さまは微笑んでいた。
「女の子ばかりのところだから、寮でも学校でもいろいろあると思うけれど。互いを尊重する気持ちがあればやっていけるものですから頑張ってくださいね。それじゃ」
お姉さまが立ち去った後の部屋で、私は今の言葉を反芻していた。
そうか。ケンカして悲しい思いをしたり、それを乗り越えて仲直りしたりするのは私たちだけじゃないんだな。みんなこの学校でそれぞれ、ぶつかり合ったり認め合ったりしながら六年間を過ごしているんだろうか。
春香お姉さまもきっと、いろいろな経験をしてこられたのだろう。
私はまだ何も知らない小さな子供なんだなと、また改めて思った。
携帯を寮母室のセーフティボックスに預けに行こうとして、ふと思い出す。連絡を忘れてた。
大急ぎで『天馬さん』にメールを打つ。
『今日はありがとうございました。ひかりちゃんと仲直りしました』
十秒で返信が来た。
『お人好し。さっさと寝なさい』
とだけ書かれていた。
それだけで私はすごく嬉しくなる。
『おやすみなさい』
返信の返信を打つ。
『大好きです』
これはほら、バレンタインデーの予行練習。
『君は馬鹿か』
またすぐに返信が来る。
『消灯時間だろう。くだらないメールを送っていないで寝なさい』
二回も寝ろと言われてしまった。
くだらなくはないんだけどなあ。私にとってはとても大事なことなんだけど。
今日はすごくいろいろなことがあった。
最悪だと思ったし、消えてしまいたいと思ったし、記者の人は本当に気持ち悪かったけど。
今はこうやって、幸せな気分で眠る前の時間を過ごすことが出来ている。
大切な人に出会えて、見守ってもらえて。
優しい友達に出会えて、ケンカしてもまた仲直り出来て。
私はやっぱり幸せな女の子なんだなって、改めて思った。




