14 幸せな毎日 -1-
それからひかりちゃんと、もっといろいろ話をした。
私が新年になって前より地学準備室に行かなくなった理由とか。
「それは先生が忙しそうだから遠慮して……」
「だって忍、前は遠慮とかしないでぐいぐい行ってたじゃん。どんなに冷たくあしらわれても絶対めげなかったじゃん。なのに急に行かなくなったから、私も何かあったのかって邪推しちゃったんだよ」
前の私ってそんなに先生につきまとってたのか。それって先生にしてみたらどれだけ迷惑だったのか。もっと反省しよう……。
「ひ、ひかりちゃんだってまだ話してくれてないことあるよ。俊くんのこと、何であんなに怒ってたの?」
ひかりちゃんはうっと変な声を出す。
「そ、それは……。冬休みで家に帰ってた時、俊くんも当たり前だけど家にいて……」
「うん」
「寮に戻る準備をしてた時に、お気に入りの服が乾燥機の中にあるから取りに行ったら、ちょうど俊くんもそこにいて」
「うん」
ひかりちゃんは真っ赤になる。そしてとても言いにくそうに、
「そ、その時、俊くんが私の、パ、パンツを持ってて……」
「うわ」
変な声出た。
「それはやだ」
俊くん、ごめんなさい。あなたは悪い人ではないと思ってる。
一緒の家で暮らしていたら、そういうことが起きることもあるのかもしれない。
でもそれはアウトだ。女の子的に絶対にアウトだ。
「わ、わかってくれる?!」
ひかりちゃんはすがるような目で私を見た。
「分かるよ。それはないよね。それは私でも絶対に嫌だ」
「よ、よかったあ」
ひかりちゃんは心底安心した表情になる。
「俊くんはさ、自分の洗濯物を探しててたまたま手に取っちゃったんだって言うんだけど。そういう問題じゃないよね」
「うん分かる。そういう問題じゃない」
「忍だけだよ、そう言ってくれるの! お父さんもさ、事故なんだから許してあげなさいとか言うし。玲人もさ、俊くんから聞いたのかもしれないけど、『バカじゃねーの、ひかりのパンツなんか誰も欲しくねーよ。大丈夫大丈夫、お前って女の魅力全然ないから』とか言うし!」
「うっわー」
また変な声が出ちゃった。何と言うか玲人くんはもっとアウトだな。
「あ。忍、引いてる?」
「ドン引きだよ」
「今更なんだけどさ。忍ってもしかして、玲人のこと嫌い?」
「そこまでじゃないけど、正直なところ苦手ではある」
「あー。ごめんね、それなのに付き合ってるとか勝手に思い込んで……」
「ひかりちゃんのせいじゃないよ。主に玲人くんのせいだと思う」
でも、おかげでいろいろ分かった。俊くんが私の前で謝ろうとした時に、ひかりちゃんがあんなに怒ったわけも。
何も知らない友達の前でパンツのことなんか謝られても、私だって困る。
……でも。
「ホントは俊くんとも仲直りしたいんじゃない?」
聞いてみると、ひかりちゃんはあからさまに挙動不審になった。
本当に俊くんが嫌いならあんなに情緒不安定にならなかったんだと思うんだ。
ひかりちゃんと俊くんの関係はとても難しい前提に立っているから、普通の友達同士のようにはきっといかなくて。それでも怒る気持ちと仲直りしたい気持ちの間でひかりちゃんはきっと揺れていた。
「一応、家族、だし。いつまでもケンカしてるのも気まずいんだけど、どうやって仲直りしたらいいのかよく分からないし」
恥ずかしそうに言うひかりちゃんはとっても可愛いなと私は思った。
ひかりちゃん、自分は女の子らしくないなんて言っていたけど。こんなに可愛い女の子じゃないか。
「今度会ったら普通に話せばいいんじゃないかな。俊くんも仲直りしたがってるんだし」
玲人くんが余計なことをしなければこじれなかったんじゃないかと思うのは、私の偏見だろうか。
「でも緊張する」
ああそうか。だからワンダーパークの時、ひかりちゃんは私に一緒に来て欲しがったんだ。
「ひかりちゃんが勇気を出すんなら付き合ってもいいけど」
私は提案する。
「来週はバレンタインだから、チョコをあげたらいいんじゃない? 家族だったらチョコを渡すのも普通でしょ?」
私も毎年パパにあげてるし。
「えっ……」
ひかりちゃんは固まってしまった。
「家族だってアピールするのにいいと思ったんだけど」
「で、でも俊くんとは血はつながってないし。お、同い年だし」
「ただの家族チョコだって言えばいいんじゃないかな」
「だけど」
かなり逡巡している。事情が込み入っているから無理もないと思うけど、
「わ、わかった。でもお父さんとか玲人にあげるついでだからね!」
十分以上迷ってから、ようやくひかりちゃんは決意した。玲人くんにあげる方がハードル低いんだ。やっぱり限りなく弟扱いなんだな、玲人くん。




