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13 信じて踏み込む -4-

「私、意地悪だったよね。本当は自分でも八つ当たりだって分かってた」

 ひかりちゃんは沈んだ口調で言った。

「忍が、玲人も俊くんもみんな取って行っちゃうような気がして。私なんか要らないって言われた気がして寂しかった。忍ってさ、うんと近くにいるつもりでも何だか遠く感じる時があるんだよね。私の声なんか届かない気がすることがある」


 ……それは、どんな時なのだろう。

 私が私を離れて、世界になってその声を聴いている時なのか。

 友達の心をのぞいてしまわないように、力が働いてしまわないように押さえつけている時なのか。

 全てを力のせいにしてしまうのはズルいかもしれないけれど、確かに私は今いる場所から遠く離れてしまうことがある。


 人を遮断してしまうのも、自分を離れてすべての人を等質な『世界』と認識することも、隣りにいる人からすれば同じなのかもしれない。

 どっちにしろ失礼なんだな、私って。


「私ね、忍を守るって調子に乗ってたけど、ホントはそんな必要ないんじゃないかってあの事件の時に思ったの。忍は本当は私よりずっと強いんじゃないかって気付いて、友達だったらそれを喜ばなくちゃいけないのに怖かったの。いつか要らないって言われそうで……私の努力なんかバカみたいだったって笑われそうで。だから自分から絶交しようと思ったのかも。置いていかれるのが嫌だから、自分から切り捨てたつもりになりたかったのかも」


 ひかりちゃんの言うことは、ひとつひとつ先生の言葉と符合していて心が痛んだ。

 本当に私はどれほど、この友達を傷付けてきたんだろう。

「私は私の方が、いつか要らないって言われるんじゃないかと思ってた。私はひかりちゃんにはふさわしくないって思ってた……」


 友達なのに互いに互いを怖がっていた。

 威嚇しあう動物みたいに、ぐるぐる回りあって。

 外から見ている人がいたら、きっとバカみたいだったろう。


「先生の言ったとおりだった」

 私は長いため息をつく。

「もっと人を信用しろって言われた。もっと人を頼れって言われた。私は自分に自信がなさすぎて、誰のことも信頼してなかったんだね」

 そうして周りの人を傷つけて。なんて情けないヤツだろう、私って。


「十津見にそんなこと言われたの? 今のって十津見のことだよね」

 ひかりちゃんはきょとんとした顔をした。

「そうだけど」

 私は少し顔を赤くした。

「ごめん。一人じゃどうしようもなくて、先生に相談しちゃったの。そうしたら私が悪いって言われた。私が心を開くのを怖がっているから、みんなを不安にさせてるんだって」


「あ、別に相談したのはいいんだけど。それだけのことを私はしたし」

 と言いつつも、ひかりちゃんはまだ変な顔をしている。

「びっくりした。忍と十津見って思ってたよりずっと仲が良かったんだ」


 そう言われて私の方がびっくりした。

「普通じゃない? 私がいっぱい迷惑かけてる分、少しはみんなより話をしてもらってると思うけど」

「違うよ」

 ひかりちゃんはきっぱりと首を横に振った。

「忍のね、一見やわらかいんだけど簡単に本音を見せてくれないところとか、弱そうに見えて実は自分一人で何でもやっちゃうところとか……そういうことを知ってるのは私くらいだと思ってた。都も美空もそこまで気付いてないと思う。私はずっと忍の一番近くにいたからそれに気付いたし、一番近くにいたからそれを寂しいと感じるんだって思ってたのに。十津見なんか担任でもないくせに、何でそんなこと分かるのよ。ずるい」

 なんか怒ってるみたい。


「え、えっと……ほら、大人から見るとよく分かるんじゃない?」

 私はフォローしてみる。私のせいで先生が評判を落とすのでは申し訳ないことこの上ない。

「そうかなあ」

 ひかりちゃんはまだ疑わしげだ。

「そういうのってじっくり忍と付き合わないと分からないと思う。そっかー、そうだったんだ」

 ちょ、ちょっとひかりちゃん。何か誤解してませんか。その言い方は、なんて言うか問題があると思う。


「ち、違うよ? そりゃ私は十津見先生が好きだけど。あと、普通の先生と生徒よりちょっとだけ友達寄りかもしれないけど」

「あーあー。悔しいなあ」

 ひかりちゃんは私の言い訳を無視してがっくりと肩を落とす。

「私は忍の一番の親友になりたいのに、忍は私だけのものじゃないんだよね。悔しいな。あんなに意地悪したから仕方ないけど、でもやっぱり悔しい」


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