13 信じて踏み込む -3-
「私も……。私、みんなといろいろ違うから……みんなみたいに出来ないから、昔から友達が出来てもすぐうまくいかなくなっちゃって。小学校ではだいぶいじめられたから、家には帰りたくない……。ううん、家の中はいいんだけど、家から外に出るのが怖くて……」
ためらいがちにそう打ち明ける。
いじめられてたなんて言ったらバカにされたり引かれたりするかもしれないけど。
もう隠し事をして他の人を傷つけるのは嫌だから、勇気を出して言ってみる。
「だから百花園の方が好き。ここにずっといたい」
「……あのね忍」
ひかりちゃんは私を見て、眉を一文字にした。
「忍がいじめられるのは、全部いじめる方のひがみ。あんたは悪くない」
「え」
すごくはっきり言い切られて、私は目を丸くする。
「絶対そうだから。……昼まで忍のこといじめてた私が言うんだから、間違いないから」
そう言ってひかりちゃんは、顔を赤くして下を向いてしまった。
「あのね。私、男ばっかりに囲まれて育ったからかもしれないけど、女の子らしくないし、性格も言葉もきつくて。ちょっとしたことですぐ腹立つし、そしたらケンカするし意地悪もしちゃう。でもそういう自分が嫌だなってずっと思ってて。それでここへ来たら、みんなお嬢様じゃん。私も頑張って女の子らしくならなくちゃって、ずっと無理してて……」
そうなんだ。
「別に気にならなかったよ?」
「私がなったの! ……忍はこんなだしさあ」
え。私はまた何か、知らないうちに友達の心を傷つけていたのだろうか。
「ほら! 自分が悪いみたいな顔しない。そうじゃなくてね、忍ってすごくお嬢様じゃん」
「いや、普通だと思うけど」
力とかパパとかあの辺は普通じゃないかもしれないけど、お嬢様って言うほどお嬢様じゃないと思うんだけど。
「普通じゃないよ! 忍はさ、もの静かで落ち着いてておとなっぽくて、人に意地悪することなんか考えたこともないって感じじゃん。何かさ、この学校に来て忍と会ってさ、こんな子も世の中にはいるんだなって思って感動して」
「大げさだよ」
「そんなことないって! 私さ、男子とばっかり遊んでたから女子の友達が少なくて。小六の時のクラスでは正直浮いてたんだ。それで女の嫌なとこたっぷり見た後だったから、忍に会って本当に感動したの。こういう心のきれいな人もいるんだなって」
いや……本当にそんな大したものじゃないんだけど。ほめられすぎて顔が赤くなる。
「私はただ不器用なだけだよ。私の方こそ、ひかりちゃんに会えて嬉しかったよ。明るくて社交的ですごく親切で」
「……忍みたいになりたいって思ったの」
ひかりちゃんは顔を真っ赤にして、もう一度下を向いた。
「全然ダメだったけど。忍みたいに落ち着いて女の子らしい、心のきれいな人になりたかったの。それで、忍をいじめるやつがいたら私が守ってあげようって思ったの」
「守ってくれたじゃない」
私が小林さんたちのグループに目をつけられた時も、いつもひかりちゃんが助けてくれた。私のために、ひかりちゃんが叩き合いのケンカまでしたこともあった。
「ううん。全然ダメ」
ひかりちゃんはぶんぶんと首を横に振った。
「だって自分で自分を裏切った。最後まで忍を守らなかった。……あのね。玲人と忍が一緒にいる写真を小学校のクラスメートが私に送ってきたじゃん。あれ、嫌がらせなんだよ。私、小学校の時に玲人と付き合ってるって噂にされたことがあったから、いい気味って思って送って来たんじゃないかな。あいつらと全然仲良くなかったもん。なのにさ、そんなのに乗せられてさ、私」
そうだったんだ。
ひとつの悪意は伝染して、他の人の気持ちも歪めてしまう。
あの時、ひかりちゃんの気持ちはきしんで悲鳴を上げていたんだね。それに気付かなかった私の心も、きっと歪んでいたんだろう。
「裏切られた気がしたの。忍のことを勝手に自分のものみたいに思ってた。なのに忍が私に大事なことを何も教えてくれていなかった、本当のことを言ってくれなかったって思って、それがすごく悔しくて腹が立って、何も考えられなくなった」
「ごめん」
それは先生に指摘されたことだ。やっぱり私は、ひかりちゃんを不安にさせていた。
「私、ひかりちゃんに嫌われたくなかった。もう大事なお友達を失いたくなかった。秘密を勝手にのぞき見するようなことをしたって分かったらきっと嫌われると思って、それで何も言えなくて……」
逆に相手をもっと傷付けた。
最初からごめんと謝ることが出来ていれば、あんなことにならなかったかもしれないのに。




