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13 信じて踏み込む -2-

「ごめんね」

 私はもう一度言った。

「あのね、玲人くんに呼び出されて行った時、俊くんも来てたの。それで、ひかりちゃんのおうちの事情を聞いてしまって、だから本当のことを言いにくかったんだ」

 私も出来るだけ頭を下げる。

「勝手に話を聞いちゃってごめん」


「そうだったんだ……」

 ひかりちゃんは振り上げかけたこぶしをまた膝の上に置いた。

「どうせ玲人がひとりでぺらぺらしゃべったんでしょ。忍のせいじゃないよ。私こそごめん、黙ってて」


 私は首を横に振る。

「言いたくないことってあるよね。私もパパのこと秘密にしてた」

「あっ、そうそれ! 忍ってハーフだったんだよね、何で秘密にしてたの? すごくびっくりした」

 ひかりちゃんの声がまた大きくなって、それから、

「……最初から信用されてなかったのかなって思った。忍にとっては私なんか特別な友達じゃなかったのかなって」

 すごく小さくなった。

 ああ。やっぱり先生の言葉はいつも正しい。


「ごめん。うちのパパって金髪でも背が高くもイケメンでもなくて、見た目アジア系だし太ってておなか丸いし、でも日本語はあんまり上手くないの。小さい時からパパの悪口を言われることが多くて、だからここでは言いたくなかったの」

 ひかりちゃんから携帯を返してもらい、画像を探す。

「ほら、これがうちのパパ」

「えっ、本当に? 近所にこういうオジサンいたよ、日本人だったけど」


 言っちゃってから失礼だったかもしれないと思ったらしく、ひかりちゃんはまた『ごめん』と言った。

 私は首を横に振る。実際、うちのパパって見た目はちょっと日に焼けた日本人にも見えるんだ。日本語がもっと上手かったら、外国人だなんて誰も思わないかもしれない。


 次の写真を見せる。 

「これ、パパ方のおばあちゃん」

 アフリカ生まれのおばあちゃんを見て、ひかりちゃんは目を丸くする。

「ホントに? 忍と似てな……似てな……似てるかな。でも、この人は完全に外国人だよね」

「パパの方の家って国際結婚が多い家系なの」

 その結果がパパの東南アジア的ルックスであり、ぎりぎり地黒な日本人で通用する私の顔なわけなんだけど。


「おばあちゃんの家ってすごく田舎なの。そのせいで私も英語がなまってて。恥ずかしいから、あんまり人前で話したくないんだ」

 おばあちゃんの家の近所の人ならいいんだけど。今日のシスターみたいに、都会から来た人の前ではしゃべりたくない。


「ああ、何度もシスターに聞き直されてたね。英語でもなまりとかあるんだ」

 ナチュラルに聞き返されて、余計に恥ずかしい。

「普段の授業の時は平気なんだけど、癖になってて英語で考え始めるとなまっちゃうの」

「英語で考えるっていうのがすごいけどなー」

 そういえばひかりちゃんは、英語が苦手だった気がするな。


 小一から英語教室に行ってる都ちゃんの方がペラペラだったとか、英語についてのおしゃべりをしばらくした後に、

「……私もさ。お母さんが生きてたら習い事とかしたかもしれないんだけど」

 ひかりちゃんがぽつりと言った。


「小さい時に死んじゃったから、お母さんのことはあんまりよく覚えてないの。すごく優しくて、大好きだったことだけ覚えてる。その後はお父さんと二人だったから習い事とかあんまり行けなくてさ。お父さんが仕事から帰ってくるまで、いつも玲人と遊んでた」

 そうだったんだ。きょうだいみたいなものって言ってたのは本当なんだね。

 お姉ちゃんと私より、ひかりちゃんと玲人くんの絆の方が強いかもしれない。


「でもさ。私もだんだん大きくなって家のこととか出来るようになったし、お父さんと二人で頑張っていけると思ってたんだ。だから、再婚のこと言われた時はすごくショックだった」

 ひかりちゃんはうつむく。

「俊くんのお母さんが嫌いなわけじゃないんだよ。いい人なんだろうと思うよ。でもやっぱりあの人は他人だもん。それにお母さんの居場所がなくなっちゃうような気がして、何だかすごく悲しかった」


 私は身近な人の死を体験したことがない。

 身内で亡くなっているのはパパの方のおじいちゃんだけだ。それも私が二歳の頃の話だから、思い出は全然ない。

 秋の出来事がなければ、死は私にとってとても遠い出来事だった。

 でもひかりちゃんは違う。ずっと亡くなったお母さんと一緒に生きてきたんだろう。


「仕方ないのは分かってる。私がわがままなんだろうってことも分かってる。だけどやっぱり、あの人と一緒に暮らして『お母さん』って呼ぶのはイヤなんだよ」

 そんな風に言うひかりちゃんの気持ちが伝わってくる気がして切なかった。


「俊くんも悪い子じゃないのは分かるけど、そういうのがあって打ち解けにくくて。それに、同じ家に同い年の男の子がいるっていうの、やっぱりお互い落ち着かないし。だからお父さんが百花園に入る手続きをしてくれてホッとしたんだ。長いお休みの時だけ我慢すればいいんだから、学校にいるとずいぶん楽」


 そうか。事情は全然違うけど、百花園に来て救われたのは私だけじゃないんだな。


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