12 世界の声 -1-
改めて確認すると、ずいぶん時間が経っていた。
寮の食事はとっくに片付けられてしまっているはずだ。途中のコンビニで先生がおにぎりと飲み物を買ってくれた。明日、学校でお金返さなきゃ。
「先生、パトロールで疲れてますよね。それなのにごめんなさい」
学校まで送ってくれる先生にそう言った。本当なら、きっととっくに家に帰っている時間なんだと思う。
「今更そんなことを気にするなら、困った時は最初から私を呼びなさい」
先生はむすっとして言った。それから、
「君、もしかしてそれを気にしていて最近は私に話しかけなかったのか?」
と私の顔をまじまじと見た。
気付かれてたのか。私が先生に話しかけるのにちょっと臆病になっていたことに。
また頬が赤くなる。先生の顔をまっすぐ見るのが恥ずかしくなって目をそらした。
「えっと、そんな感じです……」
本当はそれだけじゃないんだけど。でも全部話すのは恥ずかしいから、今はそういうことにしておこうと思ったんだけど。
「また何か誤魔化そうとしているな」
すぐにバレてしまった。
「君に隠し事をさせておくとろくなことにならない。そして大概は私が迷惑をこうむることになるんだ、洗いざらい話しなさい」
本気で話をさせようと決めた時の先生の追及は厳しい。結局私は先生が言う通り洗いざらいぶちまけることになった。
冬休みに彩名ちゃんに聞いてしまったことにすごくびっくりして、パパやママとどんな風に話したらいいか分からなくなってしまったこととか。男の人は前から苦手だったけど、そのせいでますます近寄りにくく感じるようになってしまったこととか。
先生と話したい気持ちはあったけど、そのことを思い出すとちょっと緊張してしまったこと、あと過去の自分の愚行を思い出すと恥ずかしくなってしまったこと。
さっき記者の人の心の中を見てしまって吐き気がするほど気持ち悪かったことや、そのせいで秋の事件の時に彩名ちゃんの彼氏に何をされそうになったのかが今更分かって怖くなったこと。
全部話してしまった。
「そ、そうか……」
先生は困ったような顔をして、そして少し黙ってしまった。
あー、微妙な空気になった。だから言いたくなかったんだけど。そういうこと話すの、さすがに私も結構恥ずかしかったし。
「その。だから筧彩名とは早く縁を切れとあれほど」
と思ったら先生は私の方を見ずにしゃべりだした。何だかすごく早口。
「それと。実際に怖い思いをしたのだから仕方ないかもしれないが、さっきのごろつきやあの島田という男は悪い方の特殊例だからな。ああいう輩のようなのを男の代表と思われては困る。私は相手の意思を尊重するし」
「そうですよね」
私はうなずいた。やっぱり先生はあんな人たちとは違うんだ。良かった。
何だか安心して、一歩だけ先生の隣りに近付く。
最初から素直に言えば良かったな。そうしたらあんなに不安にならなくて済んだかもしれないのに。
「あー、ただ男性に対して警戒心を持つようになったのはいいことかもしれない」
先生は少しだけ話す速度を緩めて話を続ける。
「君は本当に警戒心がないからな。さっきの男ほどではなくても良からぬ下心を持つ男はそこらにもいるから、十分に気を付けるよう。それから、遠山ひかりの友人だの身内だのという頭の悪い男子生徒たちから今後も身勝手な呼び出しをされるようなら私に報告するように。時間があれば出向いて行って直接諭す」
「え、そこまで先生にご迷惑はかけられません」
あわてて言った。私がきちんと断れば済んだ話だし。
「いや、もちろん時間があればの話だが」
先生は咳ばらいをした。
「とにかく困ったことがあれば今後はきちんと報告するように。それが結局、一番面倒がない」
きっぱりと言われてしまった。結局、今回も先生にがっつり迷惑をかけてしまった自覚はあるから反論できない。
……あれ、でも私、結局どっちにすればいいんだろう。男の人を警戒した方がいいのか、さっきの記者の人みたいなのはあんまりいないのだから警戒しないでいいのか。
先生の話は基本すっきりして分かりやすいんだけど、たまに分かりにくい時があるなあ。私の理解力が足りないのかな。
「あの」
恐る恐る確認したらにらまれた。そして、
「あー、ああいう輩は少数だが確かに存在する。普段は何食わぬ顔で生活しているから、どいつが悪質でどいつが無害か表面上で判別は難しいだろう。だからよく知らない相手は全員警戒しておけということだ」
きつい口調でそう言われた。やっぱりちゃんと聞いていればわかる話だったのかな?
だけどよく知っている相手とよく知らない相手の境目はどの辺なんだろう。
パパ方の従兄とか、よく知ってはいるけれど小さい時からさんざんいじめられたから私は会うたびに警戒してるし。うーん難しい。




