11 海風の吹くところ -3-
心を閉ざす……。
私の方が、みんなに心を開いていなかったんだろうか。
みんなが私を嫌うのじゃなく、私がみんなを遠ざけている?
「君はどうだか知らないが、世の中は無心で誰かの傍にいられる人間ばかりではない」
先生は私から顔を背け、また海の方を見る。
「相手の役に立っているとか、自分の気持ちが通じているかとか……何というか、そういう手ごたえみたいなものがないと自信が持てないというか……居場所がないと感じてしまう人間もいる。相手にとって自分が価値がないのだと感じてしまう」
その口調はいつもの先生のはっきりしたものとはちょっと違っていた。私は思わず先生の顔を見直したが、海を向いた表情は影になってよく見えない。
「間島美空や遠山ひかりもそう感じることがあるのではないかな。君の傍に自分がいる意味があるのか、君にとって自分は価値のある人間なのか。だからと言って、度の過ぎた嫌がらせを君にする理由にはならないが」
私が……私の友達を傷付けてる? 不安にさせている?
私が友達のちょっとした一言に嬉しくなったり悲しくなったりするように、みんなも私の言葉や態度に嫌われたのではないかと怯えたり、必要とされていないと感じたりすることがあるのだろうか。
私にとって価値があるかなんて、答えは決まっているのに。
ひかりちゃんも美空ちゃんも、大切な大切な失いたくない友達なのに。
「とにかくだな、君は周りの者をそういう風に不安にさせる傾向があるから少し気をつけなさい」
先生に言われて、
「そんなこと思ってもみませんでした……」
驚いた気持ちのままでそう言ってしまった。
「何がだ。また、自分にはそんな価値がないとかそういうことを言い出すつもりか?」
先生はこちらを見て軽蔑したように言う。
「普通、付き合う価値がないと思う人間とは付き合わないだろう。自分にとって価値がある相手だと思うから友人付き合いもする。……ああ、そういえば君は、どう考えてもトラブルしか呼び込まないだろう筧彩名を未だに『お友達』とか称する度し難い人間だったな」
「あ、いえ、それもなんですけど」
私が考えていたのはそれとは別のことで。
「先生が『不安』っておっしゃったのがちょっと意外で」
先生はいつも自分の意見をはっきり持っていて、簡単に妥協しない。とっても強い人だと思っていたから、そんな言葉を口にすることがあるなんて思わなかった。
「わ、悪いか」
先生はちょっとあわてた。
「その、私だってだな。敬意を払うべきだと認めた相手には自分のことも評価してもらいたいと思うぞ。それは普通だろう。その、どうでもいい相手に好かれたいとは特に思わないが。ああ、いや私がどうとかではなく一般論としてそういうものだという話だ……君、何を笑っている」
え。私、笑っていただろうか。
「わ、笑ってません」
「いや笑っている。にやにやしているぞ。何がそんなにおかしい、君は大変失礼だ」
先生は不機嫌な顔になってしまった。
困ったな。笑ったつもりじゃなかったんだけど。
でも私が笑顔だったとしたら、それはきっと嬉しかったから。
先生みたいにきちんとした強い大人でも、やっぱり大切な人には嫌われたくないって思うんだ。それは別に恥ずかしいことじゃないんだな。
それに私のことを友達だって言ってくれた先生は、私のことを『付き合う価値がある人間』だって認めてくれているんだ。
それが私にどれほど勇気をくれるのか、先生はきっと知らない。
大好きな人にそんなことを言ってもらって、立ち上がれない人なんてきっといない。




