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11 海風の吹くところ -1-

「急にどうした」

 私が大泣きし始めたので、先生はあわてた。

「ここでは人目につく。場所を変えよう」

 先生と一緒にいると寮に連絡してから、二人でさっきの公園へ逆戻りする。入口に近いメインのコースは犬の散歩やウォーキングの人がまだ通るので、脇道に入った。


 その奥は海を望む高台になっている。昼間でも行く人が少ない、舗装されていない暗い坂道を先生に手を引かれて登った。

 そこは海の見える小さな展望台だ。小さな古い石のベンチに並んで腰を下ろした。

 吹いてくる風は頬を切り裂くように冷たかったけれど、ようやく私は人目を気にせず泣くことが出来た。先生は私が落ち着くまで黙って横にいてくれた。



 泣くだけ泣いた後、私は鼻水をすすり咳き込みながら起こったことをすべて話した。

 ひかりちゃんにワンダーパークに誘われた時のこと。男の子が来るなんて知らなかったこと。玲人くんとひかりちゃんの仲の良い様子に、何だか寂しさを感じたこと。その後の玲人くんからの一方的な呼び出しとお願い。俊くんの話。ひかりちゃんの家の事情。誤解されてしまったいきさつ。

 勝手に話してはダメだと忘れようとしていたひかりちゃんと俊くんのことも全部話してしまうと、やっと胸のつかえが取れた気がした。


「遠山ひかりの家は再婚家庭だったな。入学時に提出された資料で見た覚えがある」

 そう言ってから先生は眉間を軽く指で押さえ、

「君が悪い」

 私をまっすぐに見て、バッサリと言った。


「どうして良く知りもしない男子生徒の言いなりになる。興味はないと言っていたが、本当はそいつに気があるのじゃないか」

「そ、そんなことないです」

 私は全力で首を横に振る。

「俊くんとは大して話もしてないし、玲人くんは正直言って苦手です。ひかりちゃんの友達なのに悪いけど、出来たらもう会いたくないです」


「どうだか」

 先生は眉を上げた。

「だったら尚更、そんなやつらの言葉に従う必要はないだろう」

「でも」

 私はまたうつむく。

「ひかりちゃんのためだって言うから……」


「君はそいつらのために遠山ひかりと友達づきあいをしているのか」

 先生は容赦なく斬りつけてくる。私の欺瞞を、私の愚鈍さを、冷酷に斬り捨てる。

「違います」

 また私は首を横に振る。


 百花園で出会って、隣りの席になって、一番最初に話しかけてくれたひかりちゃん。

 いつも親切で、傍にいるとおひさまに当たってるみたいに暖かい気持ちになれるひかりちゃんのことを、私は大好きだから。好きだったから友達でいたいと、ただそれだけで。


「だったら君と遠山ひかりの友情に他人がどうこう言う余地などないだろう」

 先生は呆れたようにため息をつく。

「その男子生徒が遠山ひかりと長い付き合いだろうがそんなことは関係ない。君たちの関係は君たち二人だけのものだ。他の人間にくちばしをはさむ権利はないし、まして指図される謂れなどひとつもないだろう」


 ……そうか。

 そうなのか。

 それで良かったのか。


「それに友達の友達だから仲良くしなくてはいけない理由もひとつもないぞ。誰の友人だろうが気に食わない奴は気に食わないし、遠山ひかりにだってそれをどうこう言う権利もない。君は相手も相手の提案も気に食わないとはっきり表明するべきだった」


 そうか。それをしなかったから。

 玲人くんが苦手な気持ちを無理やり押し込めて、いい顔をしようと思ったから。

 自分の中にもやもやしたものが残ったんだ。


 でもそれは、

「ひかりちゃんを悲しくさせたくなかったから……」

 違う。それもまだ欺瞞だ。

「いえ。ひかりちゃんに、嫌われたくなかったから」


 ひかりちゃんの役に立ちたかった。

 ひかりちゃんの大事なお友達と波風を立てたくなかった。

 私もひかりちゃんの大事な友達でいたかった。

 もう友達に嫌われたくなかった。


「君はバカか」

 先生は肩をすくめる。

「犯罪者には平気で向かっていくくせに、どうして自分の友達を怖がる」


 だってそれは。

「近くにいる人の方が……怖いです……」

 私は、ずっと誰にも言えなかった心の底の本音を口にしている。

「悪い人には嫌われたってかまわない。でも好きでいて欲しい人にはそうじゃないから……」

 だから、いつだって迷ってしまう。どうしたら一番良いのか、すぐに分からなくなってしまう。


 私は本当にバカだから。自分のことしか考えない自己中心的な人間だから。

 いつだって周りの人に嫌われたくない、ただそれだけを考えて。

 結局、道を見失って途方に暮れる。その繰り返し。


 また涙がこぼれそうになる。さっきあんなに泣いたのに、まだ涙は涸れない。

 それどころか一度泣いたせいで涙腺がゆるくなったみたいで、ちょっとの心の揺れですぐに泣き出しそうになってしまう。

 こんなに弱くて子供っぽい自分が、本当に恥ずかしい。


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