10 弾丸を放つ -2-
授業が終わるとすぐに教室を飛び出した。寮の部屋にカバンを置き、すぐにまた外へ出る。
行く当てがなくてしばらく敷地内の人気のない場所をうろうろした。
誰にも会いたくなかったし、誰にも見つけられたくなかった。
自宅通学の子が坂を下りてしまった頃を見計らって、校門から外へ出た。外出届は書いていないけど、もうどうでもいい。
「あら、雪ノ下さん買い物?」
坂の途中に嵯峨野先生が立っていた。私はうなずいてそこを通り過ぎた。
どうして今日に限って嵯峨野先生なんだろう。十津見先生だったら何か変わったかもしれないのに。
商店街を抜け、住宅地の間にある少し大きな公園に入った。
植込みの間の細道を通って一番奥のベンチに行く。公園の出入り口は北に一か所しかないのに、奥行きは南に向かってかなり深い。そんな設計だから、ここまで来る人はあまりいない。犬の散歩の人だって、面倒だから途中でUターンしてしまう。
垣根の陰に隠れるように置いている白いベンチに座ってひとりで泣いた。
やっぱりどこに行っても同じなのだ。小学校の友達から必死に逃げてここまで来たけれど、百花園に入っても結局私は変わっていない。
私には友達なんかできない。出来たと思っても、すぐにみんな離れて行ってしまう。
私にも問題がある? そんなの言われなくても分かってる。きっと私はみんなから見たらどこかが特別おかしいんだろう。どこがおかしいのか分かれば直そうと努力することは出来るだろう。だけど自分ではどこがおかしいのだか分からない。だからどうにも出来ない。
泣いたって何にもならない。ただ目と鼻が痛くなるだけだ。友達が帰ってくるわけじゃない。分かっているのに涙が止まらない。
涙を止めようとして出来ないでいるうちに、日は西に傾いてゆっくりと沈んでいった。公園はどんどん薄暗くなっていく。ぽつんぽつんと立てられた街灯の、光が届かない場所から風景が黒い闇に食われていく。
私のいる場所もすぐ暗くなった。それでも立ち上がる決心がつかなかった。寮に帰りたくない。学校に戻りたくない。
このまま世界から消えたい。
ぐずぐずしているうちに時間はどんどん過ぎていく。珍しく奥までやってきた犬の散歩の人をごまかすように手に取ったスマホのロック画面を見ると、時計が十八時十五分を指していた。私はのろのろと立ち上がった。
寮生は夕食が始まる十九時にはきちんと食堂の椅子に座っていなくてはならない。そして一年生は配膳をする仕事があるので、遅くてもその二十分前には寮内に戻っていないといけない。
結局、私は戻るんだ。
こんなにあの場所に戻りたくないと思っているのに。
夕食に間に合わなくて無断外出がバレたら寮母さんから警察と親に連絡が行くし、配膳の仕事をさぼったらまたみんなにいろいろ言われるし。
そんな風に人の目を気にして戻っていくなら、最初からこんなところに来なければいいのに。消えたいなんて嘘ばっかり。自分で自分をかわいそうに思っているだけじゃないか。
どうして私は、こんなにバカで意気地なしなんだろう。
人気のない真っ暗な公園をぺたぺたと歩いた。誰もいないのは怖くない。知っている人に会ってしまう方が怖かった。
だけどこんな真っ暗になった後、用事もないのに外を出歩いている百花園生なんて私の他にいるはずもない。
公園を出て、商店街を歩く。学校の近くの店はおじいちゃんおばあちゃんが経営しているところが多い。もう半分以上がシャッターを閉めてしまっていた。途中のコンビニとドラッグストアだけが皓皓と灯りをつけている。
その前を足早に通り過ぎた。もうパトロールの時間は終わったのだろう、通学路に立つ先生方の姿はない。
学校に続く坂道を上がろうとした時、
「おい」
後ろから肩を乱暴に掴まれた。傷跡の残る右肩に痛みが走って、私は顔をしかめながら振り返る。
ひげの生えたあごに見覚えがあった。新年最初の登校の時、私とお姉ちゃんに声をかけてきたどこかの記者さんだ。
「ああ、やっぱりあの時の子だ」
記者さんは何だか嬉しそうな顔をした。
「今日はひとり?」
「え、あの……」
私は怯む。この人にはあまりいい印象を持っていない。
「あの……すみません、離してください。私、もう学校に帰らないと」
「まあそう言わないでよ。探してたんだよ。君一人なら面白い話を聞かせてくれそうだからね。学校の規則なんてどうでもいいじゃん。いい子ちゃんぶらなくていいんだよ。好きなものおごってあげるから、おじさんとご飯食べに行こう?」




