1 天国と地獄 -2-
携帯を充電する前に、おばあちゃんと伯母さんに無事に着きましたという報告と泊めてもらったお礼をメールでしておく。
学校の友達とやっている SNS のグループにも『帰って来たよ』と入れておく。みんなと少しの間やり取りして、充電が切れそうになったので落ちる。
先生ともこんな風にやりとり出来たらいいのにな。
無理なのは分かっているけれど、ついそんな風に思ってしまう。
十津見先生は学校の先生で、私のとても大切な人だ。
去年の秋、学校で大変な事件があった。私も巻き込まれていろいろ心配をかけてしまったけれど、その分だけ私は先生にちょっとだけ近付くことが出来た。
私のことを『危なっかしい』『無茶ばかりする』と言う先生は、ちょっと心配症だと思う。
でも、そんな風に心配してもらうのも本当はすごく嬉しい。大好きな人が私のことを気にかけてくれるのだから、自分はとっても幸せな女の子だなと思ったりもする。
だけど先生のことを思い出したら、別の友達のことが頭に浮かんだ。
小さい頃からの遊び友達だった彩名ちゃん。小学校に入ってからは嫌われてしまって、うんといじめられたりもしたけれど。
秋の事件で私は、彩名ちゃんが家で辛い目に遭っていたことを知った。彩名ちゃんはお母さんとその恋人にケガをさせられ、死ねばいいと罵られて、本当にもうちょっとで死ぬところだった。
それにお母さんの恋人は彩名ちゃんとも付き合っていて、彩名ちゃんのおなかにはその人の赤ちゃんがいた。……ケガのせいで流産してしまったのだけれど。
私はまだ本当に子供だから、男の人と付き合ったことはない。おなかに赤ちゃんが出来るなんてどんな気分なのか、想像もできない。
でも、そのことで彩名ちゃんがすごく苦しんで傷付いたことは分かった。
だからあの事件以来、時々連絡を取り合っている。
どうしているのかな。事件の後、彩名ちゃんは保護者のいない子供が行く施設に行った。
寂しい思いをしていないか気になって、おばあちゃんの家から帰ってきたことだけを短くメールした。
後で考えると、そんなことをしない方が良かったのだけれど。