9 不安と激励 -4-
「イヤじゃないです……」
私は小さな声で言った。十津見先生が風紀委員会の顧問だから、いつも風紀委員に立候補している私だけれど。そうじゃなかったら、図書委員の仕事もいいなあってきっと思っていただろう。
「じゃあ、よろしく。いつも利用してるから、ここのルールは分かってるよね。一応、私がやってたことはこのノートに書いておいたけど」
紗那お姉さまは『柊実文庫運営指南』と表紙に油性ペンで書かれた大学ノートを差し出す。
「でも忍さんの好きにやっていいから。私も前にここを管理していたお姉さまのやり方にはあんまりこだわらず、自分の好きなようにやったからね。その時にはちゃんと管理する人もいなくて、この部屋は半分放りっぱなしになってたんだけどさ」
その状態から紗那お姉さまがひとりで本を整理し、皆に利用しやすいようにここまで環境を整えてきたのか。
どれほど地道で報われることの少ない努力だったのだろう。誰にも知られることがなくてもただ黙々と仕事を続け、誰かのためになることを祈って次の者に引き継いで。
それはまるで、おばあちゃんの血筋が代々受け継いできたあの力と同じような。
「……やります。やらせてください」
私はそう言ってノートを受け取った。
紗那お姉さまのようには出来ないかもしれない。けれどお姉さまがこの場所にかけた愛情を、これから入ってくる下級生たちに伝えるくらいのことは出来るかもしれない。
「うん、そう言ってくれると思ってた」
紗那お姉さまは笑った。
「腹をくくった忍さんは最強だから。あのね、女子同士いろいろあると思うけどその時はこのことを思い出して。あなたは他の誰より強いよ」
ドキッとした。
紗那お姉さま、気付いて……いるよね。私、寮の他の一年生から露骨に避けられているもの。
「あの、お姉さま」
「誤解しないでね」
紗那お姉さまはぴしゃりと言った。
「私は本のことでは妥協しないよ。この仕事を託せると思ったのがあなた以外にいなかったのは本当だから。だからそれを含めて忘れないでって言ってるの。あなた自身を大切にするようにこの部屋を大切にしてほしい。自分を大事にできない人に、他の物を大事にすることは出来ないんだからね」
その言葉は力強く温かかった。
私はありがたくそれを受け取り、その後は消灯時間まで本の管理についてのレクチャーをお姉さまから受けた。




