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9 不安と激励 -1-

 そうして私は一人になった。

 ひかりちゃんは、同じ寮の一年生やクラスの子に私の悪口を言い触らしている。

 みんなが私を『そんな子だったんだ』という目で見て、私が通ると後ろでくすくす笑う。


 玲人くんにひかりちゃんに説明してくれと頼んだが、反応は冷淡だった

『別にいいじゃん。ホントのこと言うと、俊のこと頼んだのがばれちゃうし』

 それどころじゃないんだっていくら説明しても、ちっとも分かってくれない。

『ひかりは怒りっぽいからさ、いつものことでしょ? 落ち着いたら俊のこと聞いといてよね』

 全然こちらの言うことを聞いてくれない。

 私もあきらめるしかなかった。この問題で玲人くんを頼っても無駄なんだ。きっと彼は誤解を深めるようなことしかしてくれない。


 けれどそうなると、最後の頼みの綱が切れてしまったことになる。俊くんだってダメだろう。そもそも俊くんがひかりちゃんと喧嘩してるんだから。

 ひかりちゃんと元の関係に戻れることは、もう絶対にないんだ。そう思うと涙が出た。



 被服部の都ちゃんと演劇部の美空ちゃんだけが、クラスで私と話してくれる人になった。

「どうしてこじれたかは聞かない」

 クラス委員でクール女子の美空ちゃんは、そう言って肩をすくめる。

「小林や星野の時も思ったんだけど、忍はもっと自己主張した方がいいんじゃないかな。忍は責められるとすぐに声を小さくして、うつむいて黙り込んでしまうだろ? あれじゃあ告発を認めていると思われても仕方ない」


「……ごめん」

 美空ちゃんの指摘には思い当たることが多すぎる。

 私も自分なりに反論しようとはするのだけれど、それを聞いてもらえないとすぐにどうしたらいいのか分からなくなってしまうのだ。

「ほら、また謝る」

 美空ちゃんは眼鏡の位置を直しながらため息をついた。

「忍は舞台度胸はあんなにいいのに、何で日常ではそんなにうじうじしてるのかな」


「サロメすごかったよねー。伝説の舞台だもんねー」

 都ちゃんが文化祭を思い出すように言う。

「あれは鳥肌ものだった」

 うなずく美空ちゃん。

「ぜひ演劇部に入部してもらいたい。だからずっと勧誘しているのに、ちっとも良い返事をくれないんだよなあ。忍は本質的には頑固だし、手厳しいところがあるだろう。そういうところを、もっと普段の生活で出していけばいいのに」


 そう言われても。それとこれとは別だと思う。

「だって演劇のことはよく知らないし、派手なことも向いていないよ」

 あと、私はそんなに手厳しくないと思うんだけど。そうだったら、もっとはっきりものを言うことが出来るようになっていると思う。


「誰でも最初は素人だよ」

 美空ちゃんは熱心に言った。

「演劇部員の私たちだって、プロの大人から見たらまるっきりの素人だ。それに向いているか向いていないかを決めるのは君じゃない。観客だ」

 いや、私にも決める権利を与えてほしいんだけど。


「あんまり気にしなくていいよ。小林さんの時もそうだったし、星野さんと古川さんの時もそうだったじゃない? 忍ってきっと、絡まれやすいタイプなんだよね。そういう個性なんだよ。だからそれはそのままでもいいんだよ」

 都ちゃんがものすごくおおらかにフォローしてくれたけれど、そんな個性はそのままにしない方がいいんじゃないだろうか。ううん違う、そんな個性は私が嫌だ。変えたい。


 都ちゃんの優しいフォローは、残酷な真実も言い当てている。

 そうだ、私はいつだって周りを敵に回してしまう。仲の良かった友達が次から次に私をいじめる側になっていく、私の小学校時代はそんなことばかりだった。

 だからこのまま私が変われなければ、目の前にいるこの二人もいつかは。


「席につけ。うるさいおしゃべりはやめなさい。予鈴はとっくに鳴ったぞ」

 十津見先生が教室に入ってきて厳しい声で言った。みんなあわてて自分の席に飛んで帰る。私も、ひかりちゃんの隣りの席は気まずいけれど、そこへ戻る。


「先日の小テストだが。最初に言っておくと、このクラスの成績は最悪だった」

 先生は不満そうに続ける。

「学校に残った君たちのことを、教頭は粒よりの愛校心の持ち主と評価しているがな。こんな結果を見ると、よその学校でやっていく自信がなかった者が残っただけではないかと邪推したくなる。君たちはまじめに勉学をする意思があるのか? それとも理科という教科を必要ないとでも思っているのか?」


 お説教をしてから、先生はひとりひとりに小テストを返した。……良かった、私の点はそれほど悪くなかった。他の科目はともかく、十津見先生の担当教科だけはいい成績をとりたいので頑張って勉強している。その成果が出ていてホッとした。


 授業の間、私はずっと先生の姿を目で追ってしまう。先生の声も話し方も好きだ。何ていうか、すごく落ち着く。

 先生に話を聞いてもらえないかなと、もう一度思った。去年の秋にもいろいろなことを相談して、それで私はすごく救われた。立ち向かうための勇気をもらった。だから今回もきっと……。


 授業が終わると教壇に飛んでいった。バカにした笑いと『カムフラージュ必死』って言葉が聞こえるけど、気にしない。気にしない。

「先生、荷物を持ちます」

 先生が持ってきた機材を運ぶのを手伝う。

「そうか。次は空きだから、地学準備室までになるぞ。君も次の授業があるだろうから途中まででいい」

 うなずいて先生の後について歩き出した。教室を出る時に、また後ろから笑い声がした。


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