8 暗転 -3-
「結婚するの自体は、前々から決まってたんだ。でも俺とひかりは小学校も別々で友達じゃなかったし、急に一緒に暮らすとか言われても互いに気まずい。それで何度も話し合って、再婚は小学校を卒業してからにしてもらって、俺たちはそれぞれ寮のある学校に行くって決めたんだ。だから、あんまり一緒に暮らしたことはないんだけど」
家族であるのには違いない、と俊くんは重い口調で言う。
「俊は地元離れてこっちに来たから、友達がいないじゃん? だから俺がさ、隣の家のよしみで最初の友達になろうって思ったんだ」
対照的に朗らかな口調の玲人くんは、いい人なのかもしれないとも思うけれど。
やっぱり、どこか苦手だなって感じちゃうんだよなあ。
「それで、この前の冬休みに……。俺がひかりを怒らせちゃって」
俊くんはそう言って、口を閉ざす。
「どうしてですか?」
ひかりちゃんがあんなに怒るんだから、ちょっとしたことじゃなかったんじゃないだろうか。
「その辺は、ほらプライバシーってことで」
玲人くんが軽く話を遮る。
「でもさ、もう一ヶ月も経つだろ。そろそろ気持ちも落ち着いただろうと思って、仲直りさせるためにこの前の企画を立てたんだよ。なのにあれだろ? どうしろっつーんだよって思うだろ?」
だろ? と言われても、まだ事情がよく分からなくて話が全然飲み込めない。
私がぼんやりしているうちに玲人くんは話を続けた。
「だからさ、忍に協力してもらおうと思って。ホントのところ、ひかりがどう思っているのか何とか聞き出してよ。もちろん俺たちに頼まれたことは内緒でさ」
「えっ」
そんなの、どう考えても無理だと思う。ひかりちゃんはすごく怒っていて話しかけるのもはばかられる雰囲気なのに、怒りの元の俊くんのことを事情も言わずに聞き出せだなんて。
「無理ですよ……」
何とか声を絞り出す。玲人くんは眉間にしわを寄せた。
「えー何で? ひかりの親友だろ? それくらい聞いてよ、ケチ。ひかりと俊が本当の家族になるためなんだよ」
そんな。そんなこと言われても、無理なものは無理だし。
でも正面から否定されてしまって、私の喉からはもう声が出ない。体が固まってしまったようで、首を横に振ることも出来ない。
「ねーいいでしょ。いいよね? じゃあよろしく」
「迷惑をかけるけど、ごめん」
男の子たちは勝手に私が了承したことにしてしまった。
俊くんがトイレに行くといって席を立つ。
私は何を言ったらいいのか分からないまま、下を向いている。
こんなんじゃダメなのに。ちゃんとはっきり『出来ない』って言わなくちゃいけないのに。
でも言ってもまた無視されてしまったらと思うと、怖くて言葉が出てこない。
どうしたら玲人くんに話を聞いてもらえるのかが分からない。
正面の自動ドアが開いて、女の子の一団が入ってきた。
「あ、玲人だ」
「玲人ー、何してるの? その子誰?」
知り合いだったらしく、玲人くんに声をかけてくる。
「こいつ? へへへー」
玲人くんは私をちらっと見て笑う。
「俺の彼女。なんちゃって」
「えー、嘘だー」
「玲人に彼女とか出来るわけないじゃん」
「何だよそれ。ひっでーなあ」
これ以上話を聞いているのが辛くて、私は立ち上がった。バッグを持って、ものも言わずに席を離れる。
「あ、待ってよ忍。おーい、待てってば!」
後ろで玲人くんが呼んでいる。
「玲人、フラれたーー」
「かっこ悪ーー」
女の子たちが笑っている。
一度も振り返らずに私はその店を飛び出した。少しでも早く百花園に帰りたかった。
いつもの駅のホームに下りて、ようやくホッとした。
商店街を抜けて学校に続く坂道を上がる。今日は記者の人には会わなかった。




