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8 暗転 -2-

 食事が終わってようやく解放される。お姉ちゃんと婚約者さんはデートに行ってしまった。向こうのご家族がタクシーで去るのを見送るとママはぐったり。パパは日本のしきたりが面白いと楽し気にしゃべり続ける。

 私はと言えば、こんな立派な顔をした大人たちも結婚したからにはあんなことをしたのかと、そればっかりずっと考えていた。何だか人間不信になりそう。


 家に戻って服を着替えて、私は百花園に戻る。お姉ちゃんは一晩家に泊まって明日の朝は直接登校するらしいけど、私は早起きして二時間もかけて学校に行くのはイヤなのでさっさと寮に帰る。ママとパパは『泊って行けばいいのに』と名残惜しそうにしていた。



 電車に揺られていると眠くなってきた。寝ようかな、と思っていたらスマホが震える。画面を見ると、SNS の着信通知が出ていた。玲人くんからだ。何だろう。


 あの時、連絡先を教えたんだったっけ。使わないと思ったから、すっかり忘れていた。

『今日、ヒマ?』

 と書いてある。ひかりちゃんに送ったつもりなのかな?

『忍です』

 と前置きして、

『家から学校に戻る途中です』

 と返しておく。勘違いだったらこれで分かるはず。


『今、どこ? ちょっと来られない? ひかりのことで相談あるんだ』

 と更に返信が。勘違いじゃなかったみたい。でも、ひかりちゃんのことで相談って?

 どういうことですかと聞いてみたら、『大事なことだから会って話さないと』と返される。

『ひかりの親友なんでしょ? すごく大事なことで、ひかりのためになることだから、ちょっとだけ時間空けてよ』


 え……。

 急にそんなこと言われても、私だってお姉ちゃんの結納で疲れてるし。

『すぐ終わるから。ね、ひかりのこと心配してくれてるんだろ?』

 どうしよう。断らせてくれない。

 結局、押し切られた私は、玲人くんたちの地元で少しだけ話をすることになった。



 見知らぬ駅の改札で玲人くんに会う。俊くんも一緒だった。

「呼び出して、ごめん」

 ぼそりと言う俊くんに、

「いいって。そんなに気にしなくてもいいだろ、俊。ひかりのためなんだからさ、みんなで考えないと。忍だってそのために来てくれたんだし」

 と言う玲人くん。いや、私はもう少し気にしてほしいんだけど。もう呼び捨てされてるし。

 ひかりちゃんには悪いけど、私、玲人くんのことは苦手かもしれない。


 俊くんは私をすまなそうに見て、

「ひかり、まだ怒ってるかな」

 とたずねた。その質問には申し訳ないけど、

「多分……」

 としか言いようがない。俊くんは大きくため息をついた。



 駅前のハンバーガーショップに連れていかれる。男の子たちはセットを注文していたが、この時間からこんなに食べて大丈夫なのかな。もう夕方なのに。

 私はお昼の和食でおなかいっぱいなので、コーヒーだけにしておく。

「ひかりもさ、わがままだよな。ちょっとしたことをいつまでも騒ぎ立ててさあ。せっかく俺がとりもってやろうとしてんのに、この前だって怒鳴り散らして行っちゃうし」

 玲人くんがポテトをむしゃむしゃ食べながら愚痴る。


「ひかりから、事情は聞いた?」

 俊くんに尋ねられ、私は首を横に振る。聞ける雰囲気じゃなかったし。

「え、そうなの? 親友って言ってたから知ってると思ってた。何だよ、思ったより仲良くないんじゃん」

 玲人くんの言葉が刺さる。そうなのかな……確かにこの前だって、ひかりちゃんは私より玲人くんの方と多く行動していたし。


「玲人、言い方きついよ」

 私が下を向いてしまったので俊くんがフォローしてくれる。

「いえ、私……やっぱり、役に立たないと思うので」

 帰ります、と言おうと思ったのだが。

「あー、しょうがないから俺が話すけどさあ。ひかりと俊って、兄妹なわけ」

 玲人くんは勝手に話し始めてしまった。……え? 何?


「あ、ホントの兄妹じゃなくて義理な。ひかりのお母さんはおれたちが小一の時に交通事故で死んじゃってて。去年の春にお父さんが俊のおふくろさんと再婚したんだ。な?」

「うん、まあ……そういうこと」

 俊くんはうなずく。


 そうなんだ。全然知らなかった。というかこんな話、ひかりちゃんのいないところで聞いてしまっていいんだろうか。……良くないよね。どうしよう。


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