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7 心をのぞく -2-

「……サイテー」

 吐き捨てるようにひかりちゃんは言う。

「私が何で今日ここへ来たのかとか、何で忍について来てもらったのかとか少しは考えられないの? 玲人も俊くんもサイテーだよ。もっと相手の気持ちを考えろ!」


 言葉が弾丸のように感じられる。

 直接向けられたわけではない私にも、その衝撃が伝わってきて痛い。呼吸が苦しくなる。


「忍、もう行こう!」

 腕を取られて引っ張られる。挨拶もちゃんとしないうちに、二人が遠くなる。

「待ってよ、ひかり。あやまりたいんだ」

「知るか、バカ!」

 俊くんの声は悲鳴のよう。けれど応えるひかりちゃんの声も同じだ。

 弾道は交わることなくすれ違い、どちらも相手に突き刺さるだけ。

 辛い。辛い。聞いていてとても辛い。


 改札を抜ける。あちらとこちらの世界が隔てられる。

 引っ張られて走りながら振り返ると、俊くんはとても悲しそうな顔をしていた。



「もう、最低。玲人はおせっかいだし、俊は馬鹿だし」

 電車に乗ってからも、ひかりちゃんは小声でつぶやいている。

 事情を尋ねる前に『ごめん、聞かないで』と言われた。『忍には関係ないことだから』と言われてしまうと、私は黙るしかなくなる。


 でも隣りに座っていると、ひかりちゃんの内心のざわめきが伝わってきて居心地が悪い。

 いつもなら、その名前の通りおひさまを浴びているみたいな暖かい気持ちにしてくれるのに。



 私は、人の悪意を目で見ることができる。黒い煙のようなもので包まれた塊に見えるのは、悪意に凝り固まった人だ。ひどい時には腐ったようなにおいまで感じる。

 おばあちゃんの一族は、故郷の村で巫女のような仕事をやっていたという。代々伝えられたその血が私の中にも流れていて、そんなものを見てしまうらしい。


 小さい時は怯えて泣いてばかりいた。すれ違うだけの人々に、一緒に遊ぶ友達の中に、私はそういうものを見てしまう。底知れなくて言葉が通じるようにも思えない黒いものに囲まれて、どうしたら良いのかわからない私は逃げることしか考えられなかった。


『見えなければその方が幸せなのだけれどね』

 私の話を聞いたおばあちゃんはため息をついてそう言った。

『けれど力を持って生まれたからには、それを制御することを学ばなくてはならない。でなければお前自身が誰より狂った怪物になるのだからね』


 おばあちゃんの言葉は、黒いものたちよりずっと恐ろしかった。

 そして他にすがれるものは何もなかったから、私はひたすらにおばあちゃんの教えに従ってその力をコントロールしようと務めてきた。



 秋の事件を通じて少しはそれが出来るようになった気がしていた。だけど、やはり私の力は突然暴走して見なくていいものを目に映してしまう。

 心をのぞいているのと同じなのだから、必要のない時は目に映してはいけないと言われているのに。


 隣に座るひかりちゃんの全身は、もやもやと蠢くうっすらとした黒いものに覆われていた。それに触れるのが嫌で、私は揺れる座席の上でひたすらに身を縮める。

 大好きな友達から離れたくてたまらないと感じる、そんな自分もとても嫌だった。


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