6 友達の友達 -1-
約束の日はあっという間に来た。
寮の朝食を食べ終わるとすぐに支度して、寮母さんに外出届を出し、リュックサックを背負って出発する。服装は制服だ。学期中はお休みの日でも、外出時には制服を着る。それが校則だ。
坂を半分ほど下りたところで、ひかりちゃんが『げ』と呟いた。
この前、記者の男の人に話しかけられた辺りで、十津見先生が退屈そうに立っていた。
「遠山ひかり。雪ノ下忍。外出か」
私たちに気付いて先生が声をかけてくれる。『はい』と返事をすると、
「行き先はどこだ。保護者はいるのか」
と更に聞かれる。
「あの、家族がワンダーパークのチケットを手に入れてくれたので」
ひかりちゃんが決然とした表情で答える。先生はちょっと考えてから、
「ああ、あのテーマパークか。では君の家族が一緒なのか、遠山ひかり」
また尋ねる。びっくりしたことにひかりちゃんはその質問に、
「はい」
とうなずいた。
いいのかな。私、先生には嘘はつきたくないんだけど。でもだからといって『それは嘘です』なんて言うのもひかりちゃんに悪い。私は結局、何も言えなかった。
「では仕方ないな」
先生は肩をすくめた。
「この時期に遊び回ろうという君たちの考えは軽率だと思うが、二月の学年末テストの成績には期待をさせてもらおう。自信があるようだからな」
その他にもいろいろ注意をしながら、先生は坂の下の商店街の入り口までついてきてくれた。少し先の、たい焼き屋さんのある近くに別の先生が立っていた。
「では、まだ記者と称するごろつきがウロウロしているから、陽が落ちる前には寮に帰るように」
そう締めくくった先生に『ありがとうございます』と頭を下げて別れた。途中で振り返ると、先生は坂の下に立ったまま見送ってくれていた。
「もー、十津見ウルサイ。何で今日アイツ当番なのよ。くどくど文句言われて気分下がるー」
ひかりちゃんはぷんぷんしている。ひかりちゃんも十津見先生のことがあまり好きではない。
「でも学校がお休みの日にもああやってパトロールしてるんだから、先生たちも大変だよね」
そう私が言うと、ひかりちゃんは不思議なものを見る目になる。
「忍ってさあ。ホント十津見のこと好きだよね」
呆れたように言った。
「そうかな」
はっきり言われると顔が赤くなってしまう。
「そうだよ。謎すぎるよ、忍の十津見推し」
「でも、先生にはいろいろお世話になってるし」
「何が? アイツ、生徒の面倒見るのキライじゃない。出来るだけ関わりたくないって感じだし」
「そうかなあ」
そんなことないと思うけど。先生は結構心配性だと思うし。
「さっきだって、私たちが心配だから途中までついて来てくれたんだと思うよ」
「自分は休日出勤なのに、私たちが遊びに行こうとしてるのが気に食わなくかったんでしょ」
うーん、見解の相違というヤツだろうか。平行線だ。
駅に着いて改札を通った後、トイレでこっそり着替える。これはお姉ちゃんや寮のお姉さま方から教えてもらった、『百花園生の外出時のたしなみ』だ。
校則では確かに、外出時も制服を着用していなければならない。でも百花園の制服は目立つ。それに今日みたいに遊び回りたい時には、汚れてしまうかもしれないし、あんまり向いていない。取材をしたい記者の人に見つかってしまうかもしれないし。
というわけで、リュックサックに入れて来た私服にチェンジ。コートだけは寮から着て来た物をそのまま使う。さすがに替えのコートを荷物に入れるとかさばりすぎるから。
ただし私は以前、この方式で外出して私服姿で歩いているのを十津見先生に見つかってしまったことがある。常にバッドラックは存在するので絶対安全とは言えないが、今日は先生は坂道でパトロールだし大丈夫だろう。きっと。
トイレから出ると、ちょっと驚いた。ひかりちゃんが着ているのは、イエローのカットソーにグレーのカーディガン、ピンクのキュロットに赤と白のしましまニーソ。かわいい、すごくかわいい。
一方の私は、トナカイの模様が入っている紺のセーターとジーンズ姿。
「……地味だったかな」
「いいよいいよ。そんな気取らなくて」
とひかりちゃんは言ってくれたが、めちゃくちゃ外した感がある。
小学校の時はいじめられていたから、言いがかりをつけられないように、目立たないようにと地味な恰好をする癖がついた。だけど今はそんなことないんだし、もう少しかわいい恰好もした方がいいのかもしれない。




