4 神様の試練 -2-
名前、名前かあ。……実を言うとお姉ちゃんが結婚相手の人のことを『克己さん』って呼んでいるのがちょっとうらやましかったりする、ん、だけど。先生の名前は十津見恭祐、だけど。
……ダメだあ! 下の名前で登録とか、恥ずかしすぎるし失礼すぎるしダメでしょう。
ああもう、どうしたらいいのかなあ。何も思いつかないよ。
三十分くらいそうやってベッドの上でジタバタして、ようやくひらめいた。
十津見先生は理科の先生だ。天文や気象や地形や岩とかそういうのが専門で、研究室に遊びに行くといろいろ難しいことも教えてくれる。
去年の秋も先生の仕事をお手伝いしたらご飯をご馳走してくれて、それから夜空に浮かぶ秋の四辺形の説明をしてくれた。
ペガスス座とアンドロメダ座を結んでできる四角形。並んで夜空を見上げた時はすごくドキドキした。
一緒に指差した星座が、私の思いを先生に伝えてくれるような気持ちになった。あの夜のことはきっと大人になっても忘れない。
ペガサスは天を翔ける馬。私は先生の連絡先を登録したデータに『天馬』と名前を付けた。
うん。高い空を翔けるペガススのように先生は私の視点を高く高く引き上げて、想像したこともないところへ連れて行ってくれるから、これはとってもいい名前だと思う。
こうしてようやく大仕事を終えた私は、『天馬さん』宛にメールを送る。
『雪ノ下です。さっきは失礼しました。連絡先ありがとうございました。おやすみなさい』
という文章と私の携帯の番号だ。うん、私、文才ない。もっと素敵な文章が打てればいいけど、用件以外に何を書いたらいいかわからない。
送信して少しすると返信が来た。
『校則違反。反省しろ』
とだけ書かれていた。
うーん。これは明日、学校に行ったら掲示板に私の名前が張り出されているな。
校則違反が見つかった生徒は下駄箱前の掲示板、通称『晒し場』に名前を張り出されることになっている。そして放課後は生徒指導室に呼び出しだな。
でも、すぐに返信が来たからきっと先生は怒ってない。それだけで私はホッとしてしまうし、先生のくれた短いメールを何度も見て口許をほころばせてしまう。
これだけでいいのに。こんなやりとりだけで、私は幸せになれるのに。
何で『その先』があるんだろう。どうしてハッピーエンドのその先に、そんな苦行があるんだろう。それはもしかして、神様の試練というやつなのだろうか。
考え始めるとまた、頭の中がグルグルしてくる。先生に会った時、何て言ったらいいのか分からなくなってくる。あんなに幸せだった気持ちさえ、すごく遠く感じられてくる。
……どうやら今夜は早く寝た方が良さそうだ。
まだまだ自分の中で整理はつきそうもないし、つく日が来るのかすら分からないけれど。




