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4 神様の試練 -1-

「忍、どうしたの? 顔赤いよ」

 寮に入ってテレビ室の横を通り過ぎる時、友達のひかりちゃんがそう声をかけてきた。

「走って帰って来たから」

 と誤魔化す。半分は嘘じゃないと思う。

「廊下を走ったら、校則違反って言われるじゃん。十津見はいなかったの?」

 と聞かれた。

 いた、けど。そういえば、先生の前で思いっきり校則を破ってしまったなあ。


 着替えたいからと言って、その場を離れた。ひかりちゃんは百花園で出会った一番の仲良しだけど、先生にしているみたいに何でも話しているわけではない。だからこういう時はちょっと困る。


 入学した時は全寮制だったのだけれど、秋の事件のせいで制度が変わった。今は届け出れば自宅通学も出来る。その上、事件のせいで生徒がいっぱい学校を辞めてしまった。

 だから寮にいる人はすごく少なくなった。前はひかりちゃんとふたりでひとつの部屋を使っていたけれど、今は個室だ。上級生のお姉さま方は、このままでは寮がひとつに統合されてしまうのではないかと心配している。


 春夏秋冬、四つの寮があるのは開校以来の伝統だったそうだ。私もこの柊実寮には愛着があるからなくなってしまったら悲しいけれど、実際にこれだけ人がいなくなってしまうと閉寮すると言われても仕方ないとも思う。そんなことを言ったらお姉さまたちに叱られてしまうけれど。



 自分の部屋にたどり着くと、閉めたドアに背中をあずけて大きく息をついた。まだ気持ちが混乱したままだ。しばらくそのままで呼吸が落ち着くのを待った。少ししてようやく、制服を着替える気になった。


 部屋に鍵はついていない。ノックと声掛けをするのがエチケットではあるけれど、基本的に寮生なら誰でもいつでも部屋に出入りできるようになっている。はじめは落ち着かなかったけれど、もう慣れた。

 ブラウスを脱ぐ。ちょっとしか着なかったし、明日もこれを着よう。脱いだものはしわにならないようにハンガーにかけて、部屋着に着替えた。黒猫の模様が気に入っている。


 楽な恰好になると、改めてため息が出た。

 彩名ちゃんのせいじゃないかもしれないけど、やっぱり恨みたくなってしまう。せっかく先生と話せる機会があったのに、あの話のせいでどうしたらいいかわからなくなってしまった。

『ふたりはいつまでもしあわせにくらしました』

 恋ってそんな風に、おとぎ話みたいなゴールを迎えるものだと思っていたのに、全然そんなものじゃないじゃないか。ロマンチックでも何でもなく、ただ気持ち悪くグロテスクなだけだ。



 明日の学校の支度をしてからベッドに横になった。

 そうしているうちに、さっきの態度はあんまり失礼だったかもという気持ちになってきた。……かもじゃなくて、めちゃくちゃ失礼だったよね、どう考えても。

 どうして私っていつもこうかなあ。考えなしに行動して、後悔する。そんなことばっかりだ。


 先生からもらったプリントを開く。

『最近また報道陣とのトラブル報告が増えています』

『何かあった時すぐに連絡できるように、緊急時の連絡先を登録しておいてください』

 印刷された学校と警察の電話番号の下に、手書きの電話番号とメールアドレス。


 ドキドキしながらそれをひとつひとつ、間違えないように電話帳に打ち込む。あ、登録名どうしよう。

 『十津見先生』って登録しちゃダメなんだよね。『先生』でもダメかなあ。うーん。



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