3 事件の波紋 -4-
「厄介ごとが起きたら、危険な羽目に陥る前に君が私に相談をしてくれれば一番いいのだがな」
先生はもう一度怖い顔になって言った。
「それについてはある程度諦めた。君に進歩があることを祈るしかないだろう。とにかく緊急時にはこれを使うように」
受け取れと言うように目の前にプリントを突きつけられ、私はあわててその紙に手を伸ばした。
その拍子に指先が先生の手に触れる。
ドキッとした。
男の人の大きな手。
そう思った瞬間に、彩名ちゃんから聞いたあのことがパッと頭に浮かんで離れなくなった。
先生も、恋人が出来て結婚したらそんなことをするのかな。
彩名ちゃんは『男はみんなそういうことがしたいんだよ』って言ったけど。
先生みたいな人でもそうなのかな。
頭の中がぐるぐるして、自分が何を考えているのか分からない。
そうして、去年の秋に起きたいろいろなことが一気に頭に浮かんだ。
私は何度も何度も先生にしがみついて泣いた。好きですって言った。
そしてあの日、駐車場で刺されたお姉さまの遺体を見つけてしまった日。
私は『一緒に寝てください』なんて、先生に頼んでしまったのではなかったか。
恥ずかしさでクラっとした。
あの晩は不安で、だから先生に傍にいてほしくて、それだけだったけど。
先生は一体どう思ったんだろう?
顔が赤くなるのが分かる。視界がぼやける。
気が付くと私は先生の手からプリントをひったくって一目散に走りだしていた。
後で先生が何か怒鳴ってる。
ありがとうございますとだけ悲鳴のように言って、そのまま振り向きもせずに走り続けた。
恥ずかしい。恥ずかしい。
子供なんだって思われただけだったらいいけど。
もし、いやらしいことをしたがる子なんだって思われたりしていたらどうしよう。
どうしよう。
明日、学校で先生に会ってもどんな顔をしたらいいのか分からない。
大好きな人なのに会うのが怖い。
先生と会ったり話したりできない生活なんて絶対にイヤなのに。
どうしたらいいんだろう。
私は途方に暮れた。




