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ラピスラズリと琥珀  作者: なのるほどのものではありません
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プロローグ:魔女の粉

 突然だが、この国に伝わる『魔女の粉の伝説』をお話ししよう。


 魔女の粉は、無味無臭で、水に溶かすと無色の猛毒の粉だ。

 そんなの他にも同じような毒物はあるはずだって?

 案外そういった毒はないものなんだけれど、まあいいや。

 魔女の粉が恐ろしいのは、『即効性がない』ところと、その伝説の不気味さだ。



 ――起源は400年前にさかのぼる。


 前王朝の末。

 王はひとりの美しい王妃を娶る。名前はシュイ。絶世の美女と謳われた彼女はとある子爵家の娘だった。ちょうどブロイニュあたりの家の娘だ。

 当時のブロイニュは魔女たちの村がたくさん残っていて、婚礼の日、ブロイニュのいたる集落で魔女達が宴を開いたらしい。

 まぁ、魔女なんてものがそもそも伝説なので、これは伝説に尾ひれがついた話だろう。


 さて、その婚礼を境に、王は変貌していく。少しずつ、少しずつ、性格が変わっていったのだ。

 もともと善政を行っていたとは言い難いその政も次第に崩壊していった。

 王はたびたび理性的な対応が出来ない状態に陥り、衝動的に人を罰し、殺め、突飛な法政を行なった。その間、シュイは表立って出てくることはなかった。

 むしろ、婚礼以降その召使以外、シュイを見る者はいなかった。


 在る日、正妃が死んだ。王が死罪を命じたからだ。理由は今ひとつ知られていないらしい。

 その頃には、王はほとんどすべての髪の毛が抜け落ちて、齢30後半のはずなのにまるで老翁のようだった。人々は、王は悪魔に取り疲れただの、発狂しただの噂していた。

 さらにその一年後、今度は第二妃が塔の上から飛び降りて死んだ。


『次は第三妃の番だ。』


 そう思った三妃は身を震わせて、この異様な城内の変異を調べさせた。

 彼女は四人の王妃の仲で一番頭のいい女性だった。名前はユナ。

 誰も信用は出来ない。そう確信した彼女は、一番信用のおける侍女ひとりに命じて城の異変を調べさせた。

 だが、その侍女は命を受けた次の日に死んでしまう。

 不思議に思ったユナはすぐに侍女の死因を調べさせた。明らかにおかしな死に方をしていたからだ。彼女はまるで眠るように死んでいた。老衰で、ゆったりと眠るように死に落ちていったように見えた。外傷はゼロ。毒を盛られたにしても、その皮膚にも、唇にも、唾液にも、なにもおかしな点は無かった。念のため、ユナはすぐに侍女の体を開けさせた。だけどおかしなものは何一つとして出ては来なかった。


 だけど三妃は確信していた。

 これは確実に毒だ。でなければ、こんな風に突然人は死なない。


 ユナは、今度は自分の足で城の中を調べ始めた。

 ユナは気付いていた。この異変は紛うことなくシュイが城に入ってきてからだ。

 真夜中、彼女は真っ先にシュイの部屋へと向かった。だが、シュイはそこにはいないようだった。

 シュイは王の部屋にいる。そう思ったユナは、その足で王の部屋へと向かった。

 そして、ユナは目にする。


 ――シュイ!


 ユナは声を上げそうになるのを何とか抑え込んだ。

 シュイは眠る王を一人床へ残し、ソレを机で行なっていた。間違いなく、毒を盛っていた。

 白い粉が月明かりで微妙に光る。それをデカンタになみなみ入った水の中へ。

 ユナは息を飲む。シュイのことは一度しか見た事がないが、日の下で見たシュイとは明らかに違った。


 ――これは、魔女だ。


 美しい顔で笑うその目には光は灯ってない。

 恐ろしさのあまり、ユナはその場を走って逃げた。そしてそのまま城を出て、真っ直ぐに都から離れた。


 数日後、王が没して、王朝はそのまま幕を閉じた。

 その時、シュイの姿はもう何処にもなかった。

 死んだ王の身体にはなんの異変も見られなかった。年のわりに随分老け込んでいたことをのぞけば、健康な人間と変わらなかった。

 なのに、死んだ。



 分かってもらえたかと思うが、証拠を全く残さず、自然に、殺せてしまうところが魔女の粉の特性だ。

 ゆっくり、じわじわと。呪いにかかったように死が迎えに来る。そういう毒物だ。


 この毒の実物を見た人間はいない。なぜなら魔女の粉は、魔女にしか作ることのできないからだ。

 そして最初に言った通り、魔女は伝説上の存在だ。あるはずもないモノなのだ。


 だけど、この国の者はこの伝説を知っていて、魔女と、魔女の粉を恐れている。

『魔女を怒らせてはいけない。その身を滅ぼされたくなければ・・・』

 という具合にね。


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