十五話 最後の挨拶。
この手法で孝介達は、漂流者の救出を続けた。対応する武器の特定も回数を重ねていく毎に進み、ほとんどのエネミーに対応する武器が明白になった。
孝介達にも助かる機会は訪れたが、エネミーを倒し、元の世界へ戻ることはしなかった。孝介達は先導している責任があり、自らが率先して助かり、残りの者達を置き去りにするわけにもいかなかった。
しかし、理由はそれだけではない。孝介には、ヨウタを救えなかったという負い目があり、トウマとアヤカには、他の懸念事項があったのだ。
そして、何回オーダーを繰り返しただろうか。10回を超えた辺りからか、漂流者の人数が徐々に減ってきていた。
今、何十回目かのオーダーの終了を迎える。
また休息区域に転送される。そうなることを誰もが想定していた。しかし、孝介達が意識を取り戻すと、見慣れた浜辺ではなかった。
白い。白い部屋だ。他の者達はきょとんとしているが、孝介には見覚えがあった。
ここはウグイスの部屋だ。すると、声がする。
「お疲れ様。」
ウグイスの声であった。孝介はゆっくりと立ち上がり、声のする方へ体を向ける。
「久しぶりだな。」
孝介は、感慨深いようにぽつりと呟く。
「コウスケ、あなたには感謝しなければならないわね。」
孝介は、いやいや、といった仕草を見せ、話を進める。
「俺たちはエネミーを倒していないのに、何でここにいるんだ?」
「ちょっと待て、コウスケ。ここはどこだ?そんで、あいつは誰だ?」
同じ漂流者で、孝介達に協力して救出を手伝っていた漂流者の一人、ダイチが孝介に問いかける。
「ああ。彼女がウグイスです。」
孝介がそういうと、彼は敵意を向けた表情を浮かべ、ウグイスに吠える。
「てめぇがこのゲームの主催者か!?何の目的があってこんなことをした!!!」
「ダイチさん!やめてください!」
孝介に制止され止まるが、ダイチはフーフーと息を切らしながら依然として睨んでいる。
トウマとアヤカは孝介の元へ寄る。しかし、トウマとアヤカは事前にウグイスについて聞かされていたことから、敵意を向けることは無かった。そして、アヤカがダイチにウグイスについて誤解を解くために説明を始めた。
ダイチを意に介していない様子で、ウグイスは話を続ける。
「この世界は必要なくなったのよ。つまり、あなた達は全員元の世界へ戻れるわ。」
「どういう事だ。」
孝介は結論に対する理由の説明を求める。
「実感はあったでしょうけど、異世界へ飛ばれる人が減ったのよ。創造主達のブームが終わったのかしらね。だから、飽和状態が解消されて、今のエネルギーで十分に対応できるようになったから、この異世界の果てへ飛ばす必要がなったの。」
「なるほど。」
孝介は納得したが、他の者達は相変わらずきょとんとしている。
「あの、とにかく、私たちは助かったという事でいいんですよね。それで、あの、」
トウマは、何か聞きたい様子であっていたが、躊躇っていた。その意図を汲み、ウグイスは答える。
「ああ。あなたと、アヤカは、そうね。間もなく『完結』が宣言されるこの世界で過ごすといいわね。勿論、あんな地獄じゃなくて、あなた達で好きな世界を作るといいわ。創造主からもその権限が付与されるはずよ。そう言ってたから。」
「どういう……?」
孝介が戸惑っていると、アヤカが説明する。
「私たち、死ぬ直前か死んだ後にこの世界にきてるから、戻ったら死んじゃうんです。」
アヤカが稚拙ながら説明をする。
「そういえば、以前にコウスケが元の世界に戻った時、コウスケの前に元の世界に戻った奴、確か、タカアキとかいう名前だったかしら。彼もせっかく元の世界に戻ったのに、戻った先がトラックにひかれる直前、という悲惨な事があったわ。」
ああ、なるほど。と孝介が納得すると、それを見届けたウグイスはにやりと笑い、アヤカに目を向ける。
「良かったわね、アヤカ。二人で新たな人生が歩めるのよ。」
これを受けて、アヤカはあわあわと取り乱し、顔を赤し、俯く。
アヤカはトウマに好意を抱いていた。これに、他に気付いていた漂流者もいたが、鈍感なトウマと孝介は、一番近くにいたのにも関わらず、全く気が付いていなかった。
「そろそろ、時間なのだけれど、何か言い残した事とか別れの言葉があれば、どうぞ。」
ウグイスは別れの挨拶を促す。
「コウスケさん。本当にありがとうございました。コウスケさんがいなかったら、今頃どうなっていたか……。本当に心から感謝しています。あなたのことは絶対に忘れません!」
トウマは孝介に持ち前の暑苦しさで別れの挨拶をする。
「ありがとうございました。」
アヤカも釣られて感謝をするが、泣く事こらえているため、それ以上の言葉は口にできなかった。
「いえ。こちらこそ、本当にありがとうございました。私一人では何も出来ませんでした。」
孝介は涙があふれてきたが、これをグッとこらえて、答えた。そして孝介はウグイスの方へ向き、問いかける。
「ウグイス。お前はこれからどうなる。」
「さあ、知らないわ。」
「そうか。じゃあ、今、何がしたい?」
「そうね。ゆっくり寝たいかしら。少し疲れたわ。」
ウグイスは眠そうにゆっくり答えた。
そして、一通り漂流者たちが挨拶を済ませたことを見届けると、ウグイスは確認した。
「そろそろいいかしら。」
誰も何も答えなかったが、無言の肯定を示していた。
そして、ウグイスはそれを確認すると、目を瞑り、何かを唱えると、孝介は意識が途絶えた。