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十三話 先導者の資質。

 アヤカが手渡してきたのは、ノートだ。孝介はこれに見覚えがあった。あの不気味な詩集である。男子トイレのみならず女子トイレにまであるとは思わなかった。ノートを手に取り、パラパラとめくる。記憶が薄れていて定かではないが、どうやら男子トイレにあったものと内容まで同じようだ。


「何が書いてあるんですか?」

そういってトウマが覗き込む。みたいならどうぞ、と言ったように孝介はトウマに手渡す。


「いや、よく分からないですね。特に意味は無いように思いますが。」

改めて見ても、孝介には理解出来なかった。どうやらそれはトウマも同様のようで、不快そうに眺めては、うーん、と唸り声をあげていた。そして、アヤカも自分で二人のために持ってきた料理を食べながら覗き込む。


「あれ?これって・・・。」

アヤカが、何かに気付いたように、問いかけに等しい、聞いてほしそうな独り言を漏らした。


「どうしたの?」

トウマはアヤカに答える。


「カタツムリって、塩で倒したんですよね。これってカタツムリの事じゃないですか?」

そう言いながら、アヤカは詩集の一文を指す。


「うずの殻に籠った無数の目、海の味に目がない。」


 海の味?そういえば、タカアキは武器交換をするあの時、「海の味」と独り言を言っていた気がする。つまり、あの時、タカアキは奴らの倒し方に気付いたのだろうか。思い返してみれば、トイレから出て来るのが遅かった気がする。


そして、ふと近くにあった一文にも目が惹かれる。


「懐かしき故郷を自らの手で焼け野が原に。」


この一文を見たとき、孝介は巨大なヒヨコが自ら自分の殻を食べで自滅した事を思い出す。孝介は確信した。間違いない、この不気味な詩集を読み解いていけば、エネミーに対応する武器が分かるという事だ。


「これだ!これですよ!」


 トウマとアヤカは孝介のテンションの上がりようにきょとんとしている。急に大声を出したので、他の漂流者もこちらをびっくりしたように見ていた。


「これ、エネミーの倒し方書いてあります!」


 孝介が興奮したようにそういうと、咄嗟の変わりようで二人は固まっていた。


「本当ですか。」

トウマは驚きつつも、リアクションした。そして、脳内で孝介が言った言葉の意味を咀嚼する。そして、理解する。


「本当ですか!」

再度、同じ言葉を繰り返すが、テンションは孝介に等しいものであった。アヤカはと言うと、え、なに、なんですか、といった感じで、聞き取れなかったのかついて来られていない。孝介とトウマは理解できていないアヤカを無視しつつ、詩集の意味をトウマに解説する。


「これ、ここの皆さんで協力しませんか。」

説明が終わった後、トウマは孝介に提案する。


 確かに、他の人を助けるという側面以外も合理的だ。バラバラで行動するよりも、詩集の内容を分担して暗記した方が、効率が良い。また、通りかかったエネミーに対応する武器を持つ者で固まっていれば、協力してその武器の所有者を助けることが出来る。

トウマの提案に孝介が賛同すると、トウマが収集をかける。


「すみません!ちょっと皆さん!集まってもらっていいですか!」


 トウマがそう声を張り上げると、初めは数人、それを見た他の者たちもぞろぞろと集まってきた。やはりと言うべきか、皆冴えない顔をしている。だらしない格好をしているというのも相まっているが、あの地獄の60分経験したというのも大きな原因のだろう。

大体集まったところで、トウマが話を始める。孝介が代表して話すか、とトウマからの提案もあったが、先ほどのオーダーのしくじりを経ていることもあり、孝介はトウマに任せる事にした。


「まず、結論から申し上げますと、エネミーの倒し方が判明しました。」


 トウマがそう言うと、少しざわついた。孝介にとっては、もう少し大袈裟に驚くかと思っていたので意外であったが、少し考えれば納得のいく事であった。つまり、勘違いした異世界の勇者は恐らくオーダーの時間でこの世界に合わないものは淘汰されているのであろう。

しかし、相変わらず社交性のなさそうな人たちが集まっている。前回と異なり、今回はスーツである孝介は、内心、だらしなさの共通点がないことにほっとする。

その場に生き残った人間、およそ20名前後で詩集の内容を暗記することになった。それほど長い内容のものでもないが、重複して暗記させることで、忘れた場合の保険をかけておくことにした。


 収集を掛けて以後、若干皆の表情が和らいでいた。エネミーの倒し方が分かったという事もあるが、皆一人で心細かったのだろう。男子トイレのものも持ってきて、二冊を皆で回し読みをしながら、詩集を覚えた。


 そして、戦いの時間が来る。

 孝介達の意識は途絶え、戦闘区域へ転送された。


 孝介は、目を覚まして起き上がると、以前に来たことがある世界であることに気付く。孝介が最初に来たオフィス街であった。それから周囲を見回す。周囲には、トウマとアヤカと、先ほど居た20名前後に加えて、今回新たに飛ばされてきた人が20名前後居た。

トウマとアヤカはどうやら先に起きていたようだ。


 そして、ある程度の人が起きたところで、トウマが指揮を執る。事前に、先ほどオーダーが始まったらトウマが指揮を執り、とりあえず安全な場所まで一旦皆を非難させる計画を立てていた。孝介は、指揮を執るトウマを見て、リーダー気質を感じた。やはり自分よりもトウマの方が、指揮を執るべきだという判断に誤りがない事を確信した。

しかし、ご新規様がトウマに突っかかる。


「おい、さっきから随分偉そうじゃねえか!とりあえずここがどこなのか教えろ。それから、何故俺はこんな無様な恰好になっているんだ。さもなくば、俺の刃の餌食になってもらう。」


 孝介は、おいおい、と内心突っ込む。彼もまた汚れたジャージ姿なのだが、それは元の世界の彼の姿なのだ。自分自身の醜態に対して無様だと嘆き、あたかも他人にそうされたかのような物言いに孝介は、異世界ボケの怖さを感じるとともに、彼に対して呆れた。

そして、若干懐かしい気持ちを覚える。彼の名前は確かユキトだったか。


「この後にも話があると思うが、今私たちは以前の世界での能力などは全て失っていて、元の私たちが生まれてきた世界と同じ状態に戻っている。とりあえずここは危険なので避難しましょう。」

トウマは彼を説得する。


「納得できると思うか!よかろう、我が心剣・『断罪』で身の程を教えてやろう。我と共に在りし神の依り代よ、・・・」

と、何やら彼は呪文を唱え始めた。


 トウマはそんな様子を最後まで見届けることなく、彼を唐突に殴った。


「はっ・・・!?」

倒れて唖然とする彼にトウマが見下ろしながら声を張り上げる。


「本当に刃とやらが、能力が使えるなら私に殴られて転がっているお前は何だ!」

これ以上の説得はない。ただの人間のパンチに倒れ込む勇者など居ないだろう。孝介も驚いた。温厚で社交的な面しか見ていなかったので、すっかりそういう面が彼の全てであると思い込んでいた。


 トウマに突っかかっていた男は、しりもちをついたまま、トウマを見上げ、ぱっくりと口を開けている。孝介もまた同じような顔をしているのだった。しかし、説得力としては抜群だ。異世界思考から現実へ引き戻すには、身体的に体感させるのが一番早い。能力が発現しないのは封印にかかっているからである、という都合の良い仮説も崩すことができる。

周りで見ていた者たちも、呆気に取られていた。無理もないであろう。


「とりあえず、ここは危険なので移動しましょう。」


 先ほどの孝介と同じような事を言っているのだが、トウマと孝介とでは説得力に大きな差があった。


 孝介は、これに軽く落ち込むのであった。


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