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城下町の魔法少女  作者: あしま
第三章 魔獣騒乱
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魔獣騒乱4

 魔法少女が飛び立った後の聖グリュフィス聖堂孤児院は、ちょっとおかしな雰囲気となってます。


 その原因はと言いますと、ノエルさんがメリルさんを見事な一本背負いで投げたという事にあります。


 メリルさんがこの世界における超人『パラノーマル』である事は、ここにいる大人達には周知の事でありますからして、それを一般人…まあ一般人と言って良いのかどうか分からないお方ではございますが…の中でもパッと見、か細く見えるノエルさんがやってのけた、というのは驚くべき事のはず。


 なんだけれども


「ノエルさんに投げられるのも、これで3回目だったかしらね?」


「え~そんなに投げたっけ~」


「ノエルさんは相変わらずですね…」


「メリルさん、少し身体がなまってるのじゃないですか?」


 一様にこんな反応だから


「マ…母さん、ちょっと説明してくれないかな?」


 フェリア先生は納得いかない。


「もう~!ママって呼んで良いのよ~?」


「いや、それは良いから!」


 何度も間違えるようなら、もうママって呼んだ方が良いような気もするのですけれど、それは置いておいて…


 実の娘であるフェリア先生にとってもノエルさんはただの人。


 パラノーマルどころかシバースでも無いという認識。


 しかし今の動きを見る限りでは、少なくともパラノーマルに匹敵する何かでなくては説明ができない。


「ん~なんて言ったら良いのかな~?」


「王家の呪いですかね?」


「王家の呪いだね…」


「王家の呪いですね」


「王家の呪いだって~」


 ここでフェリア先生に「そうかー王家の呪いかーじゃあ仕方ないね…ってなるかーい!」くらいのノリツッコミができれば良かったのですけど、そんな器用な事ができる人ではありません。


「からかわないでくれますか?」


 怒りたい気持ちをグッと堪えるので精一杯。


「いや、呪いというのもあながち間違ってはいないのですよ?」


 そんなフェリア先生を優しく諭すのは、シニャック老でありますけれど、それはどういう事かと尋ねてみれば


「まあ良いじゃないですか?」


 濁してしまう。


 フェリア先生だって子供ではないので、そこまで頑なに隠すような事ならこれ以上追及したりはしないと諦めかけたのだけれども


「あのね~…王家の子は必ずパラノーマルかシバースどちらかに産まれてくるの」


 ノエルさんが突然のネタバラし。


「それも金色の髪に産まれた子はパラノーマルで、黒髪の子はシバースって決まってるんだ~」


 国民の大多数が知らない事実。


 おそらく王家にとっても王国にとっても結構重大な秘密ではないかと思われる事を、比較的サラッと言っちゃうものだから


「それはフェリアに話してしまって大丈夫なのですか?」


 ダリオさんが心配しますけれど


「え~自分の娘が信用できないの~?」


 ノエルさん一言で一蹴。


「それに、別に隠してる訳ではないんだよね~ただ公表してないっていうだけで~」


 シニャック老曰く、明確に何時どのような理由でというのは断定できないのだけれど、様々な人たちの思惑があって、王家の素性が語られなくなり次第に国民の知らない事となって、僅かな王室関係者だけがその事実を知るようになったとか。


「王家の子が必ずパラノーマルかシバースとして生まれるというだけでも不思議な事ですが、さらに不思議なのはノエルさんのように王家を離れた人物の子にはそれが引き継がれないという事です」


「だからね~…これは誰かに仕組まれた事なんじゃないかって思ってるんだ~」


 なるほど、それで呪いか…


「私は一番怪しいのは初代パナス王妃。その次はクリスティン・シバースさんとかじゃないのかな?って思ってるんだけど、それならシニャックさんが何か知ってそうだよね~?」


「正直に言って、この件に関しては私も何も知らないのですよ?」


 シニャック老のいう事もどこまで信じた物か怪しいのですけれど


「だとしたら、どこぞの地下深くにいるっていう神様だか聖女様だかの悪戯ですかね?」


 これまでの会話が、普通なら突拍子もない事でしかないメリルさんの一言に信憑性を帯びさせるから


「聞くんじゃなかったかな?」


 若干後悔をするフェリア先生。


「そうは言っても~私はただのパラノーマルだからね~?私よりもクルーアちゃんよね~。メリルの前で言うのも何だけど、あの子ってほんと何なの~?」


 ノエルさんの話題変更は半ば強引にも思えるのだけれど


「それは僕も聞きたいな…」


 フェリア先生がその話題に乗り


「そんなのアタシが聞きたいって!」


 メリルさんにも自分の息子が理解不能という事なので


「シニャックさんなら何か知ってるんじゃないですか?」


 ダリオさんがその矛先がシニャック老へと向ける。


「ねえ、シニャックさん?『聖女の剣』っていったい何なの?」


「そうですね…私が知ってるのは…」


 そう言ってシニャック老が『聖女の剣』を語りだす中、会話についていけないクルムちゃんは、いまだ落ち込んでいるロココさんをひたすらモフモフしてるのでした。














 残像攻撃は永世剣王エステバンの得意技として知られており、エステバンは同時に8体の残像を作り出せたと言われてる。


 それはもう純然たるテクニックによって成された業で、ヴィジェ・シェリルによって作り出された4体の残像のような強引な力業とは全くの別物らしい。


 そのシェリルと対峙するクルーア・ジョイスの作り出した12体の残像はというと、これもやはり力業。


 魔法の力まで使ってようやく作り出した4体に対して、いとも容易く12体を作り出すという圧倒的な差を見せつけられたシェリルは、アナトミクス派の僚友アルフォンス・ジェリコーの話を思い出していた。


 10年前のアナトミクス派によるクーデター未遂事件の時、ジェリコーからその左腕を奪った子供の話。


 見た目10歳くらいの生意気そうなクソガキに、圧倒的なパワーからの剣圧で切り落とされたのではなく弾き飛ばされた。


 ジェリコーの腕を弾き飛ばした剣圧の勢いは、そのままその場から直線500m先までに有った建物を破壊して、大聖堂にまで届き傷を付けたという話は流石に荒唐無稽と思える。


 その直後に起きた、何者かの魔力暴走によるものとみられる大破壊で、大聖堂とその周辺は跡形もなくなってしまったのだから事実を確かめようもない。


「アレはパラノーマルなんてものじゃない。この俺様がパラノーマルなんかにやられる訳がない!」


 パラノーマルなんかというのが引っ掛かったが…そういえばアイツはいつから自分の事を「ワタクシ」なんて言うようになったんだろうか?…


 ともかく、昔も今もジェリコーが胡散臭い男である事に変わりはなく、そんな物はジェリコーの与太話だろうと思ってた。


 10年経った今なら、その子供は20歳くらい。目の前に居る男も大体そんなものだろう…


「あの力は『聖女の剣』に違いない!」


 『聖女の剣』なんてものは神話とかおとぎ話。史実にも登場はするけれども、それはプロパガンダのための誇張表現。


 実在などする訳のない存在だと今この瞬間もシェリルは思っているのだけれど、今、目の前に居る男がジェリコーの探している、その腕を奪った子供という事であるならば、少なくともあの時の話は決して大袈裟なものではなかった、という事は間違いない。



 そこまで考えて「アレ?これもしかして走馬灯ってやつ?」と思った瞬間シェリルの身体に衝撃が走る。


 12体のクルーアの残像が一斉に掌底を放つ。


 シェリルも必死に対応するけれども内7発がクリーンヒットする。


 並の人間ならこれでもう戦闘不能どころか致命傷にさえなり得る攻撃も、強靭なパラノーマルの肉体ならば耐えて耐えられない事は無い。


 しかし、その衝撃はシェリルの動きを止めるのには十分。


 人を切る覚悟ができてるかは微妙だけれども次こそは絶対に逃さないと、この一瞬に神経を集中させていたパーソンが切りかかる。


 これはもう避けられない…


 何人もの命を奪ってきた自分がマトモな死に方なんかできないだろうな、と思ってきたけど、これなら思ったよりもマシな死に方だなとシェリルは思った…刹那、突風が吹く。


「リック!」


 クルーア・ジョイスの叫ぶ声は明らかに注意喚起をするものであり、その声が届くよりも早くシェリルが突風に攫われ、パーソンの剣が空を切る。


「え?」


「チッ…」


 シェリルの攫われた方を向くと長身の男がシェリルをお姫様抱っこして立っている。


 油断していたつもりはない…しかしそれは意識の外から突風となって不意に現れた。


 おそらくは認識阻害の魔法のせい。


 不気味なのはシェリルをお姫様抱っこしているはずのその片方の腕が存在しない…存在しないはずの腕でシェリルの身体を支えている…


「アルフォンス…ジェリコー…」


 絞り出すような声で、クルーアの発したその名前をパーソンも当然知っている。


 国の最重要指名手配犯を目の前にして、しかしパーソンはジェリコーよりもクルーアの方に目を奪われていた。


「うーむ…」


 当のジェリコーはクルーア達には無関心といった風で、何やら難しい顔をしているから


「おい…どうした?」


 お姫様抱っこされたままのシェリルが聞くと


「いやですね?…ワタクシ、ヒロインのピンチに駆け付け颯爽と救い出すカッコいい正義の主人公…のような登場の仕方をしたのは良いのですが、肝心のヒロインがアナタというのがどうも…」


 ふざけた事を言い出したから、シェリル姉さん抱っこされたままグーで顔面を殴ろうとしますけれど、ジェリコーがちょっとありえないような首の動きをさせてあっさり避けてしまうから


「お前ふざけんなよ!さっさと降ろせ!」


 怒りだしてジタバタしますけれど、ジェリコーは降ろそうとはせず嬉しそうに微笑んでいる。


 それは傍目にはイチャコラしてるようにしか見えない光景ではあるのだけれど、パラノーマルであるシェリル姉さんの動きを完全に封じてるという事になるのだから、この男もまた超人の類である事を示してる。



 しかし、そんな事よりも


「おい!いつまでイチャイチャしてるんだ!」


 この状況で無視されてる形になって、クルーアは怒り出す…これをパーソンは「クルーアさんらしくない」と感じ、目が離せないでいる。


 ジェリコーが現れて、明らかにクルーアの様子が変わってしまった。


「あーいたんですか?アナタ…お久しぶり…で良いんですよね?」


 なるほど、ジェリコーの言葉から、この二人に過去に因縁があるのは察しがついた。


 察しはついたけれども、しかしクルーアの怒り方が尋常ではない…


 知り合ってまだ日も浅いのだから、パーソンだってそりゃクルーアの事は知らない事の方が多いに決まってるのだけれど、このクルーアは初めて見るクルーアで…怖い…


「さて…ワタクシが調べた所によりますと『聖女の剣』というのは、剣を持たなければその力は半減してしまい、持っていたとしても並の剣なら一撃で折ってしまうから本気を出せない、という何とも難儀な生き物だという事なのですけど…半減した力でも、それだけの力を発揮できるとは大した化け物ですねー…」


 ジェリコーが語りだしたのは、おとぎ話の『聖女の剣』の話だったから、パーソンは困惑をするけれど、クルーアは表情を変わらず、ただ憎悪の感情が増しているようには感じられた。


 それはジェリコーも同じに感じられたらしく


「アナタが、ワタクシに対してお怒りになるのはゴモットモだと思うのですよ?しかし、いけませんね~。怒りで周りが見えなくなるようでは…」


 挑発するようにジェリコーが言い放ち、その挑発にクルーアが飛びつこうとした時


「フミャー!」


 という猫の叫び声と


 “クルーア!”


 シャルルの声が、クルーアの耳と脳に同時に響くから流石に無視できず後ろを振り返る。


 そこには大型の熊のような生物…しかし全身を鱗に覆われた爬虫類のような…なんだこれ?


 とにかく、見た事の無い生物が、シャルルとマリーに向き合う形で仁王立ちし、その前足をマリーに向かって振り下ろそうとしている。


 これはもうクルーアの失態。


 こんな生物がそのまま街中をウロウロできる訳がないんだから、これもまた認識阻害という便利魔法の成せる業だろうけども、そんなのは言い訳にはならない。


 ジェリコーに気を取られ、冷静さを失い、マリーから意識を外してしまっていた。


 パーソンはパーソンで、そんなクルーアに気を取られていたため、クルーアの視線を追う形でその生物の存在に気付いたのだから、行動が遅れる。


 二人が慌てて行動を開始するのをジェリコーが黙って傍観するはずもなく、走り出す二人の眼前で、予め準備していたのであろう小規模な爆裂魔法が破裂する。


 クルーアがそんな物に怯む事は無いのだけれど、そうは言ってもそれによって一瞬だけ加速するのが遅れてしまうのは仕方がない…


 いや…これはクルーアがこの時もう少し冷静であれば、例えば遠距離から石を投げつけるだけでも、それなりの攻撃となるのだから何とかできたかもしれないんだ。


 しかし、この時のクルーアはとても冷静な状態ではなく、それは致命的な一瞬となりその生物の前足が振り抜かれ、マリーの身体を打つ轟音が鳴り響く…


 それを直視する事のできないクルーアはそのままその場で膝から崩れ落ちる…


「な…マリー…」


 自分の力に対する自惚れもあっただろう…アイツ等の狙いが最初からマリーである事は分かっていたはずなのに、怒りに我を忘れ、目的を見失った結果がこれだ…


「クルーアさん、上!」


 絶望するクルーアにパーソンの叫び声は辛うじて届き


「なんだよ…」


 呟きながら力なく上を見上げると、巨大な物体が宙を舞い、今まさにクルーアを押し潰そうとしてる所であり


「はあ!?」


 すんでの所で前方へ飛んで躱す事には成功したけれども、巨大な物体が地面に落ちる衝撃で勢いがつき、マリーとシャルルの傍まで前回りで転がっていって仰向けになって倒れ込む…


 そうして上空を見上げたクルーアの目に最初に映った物は、緑と白の縞々パンツ…


「マリー!」


 慌てて体を起こして確認したマリーは何事も無かったように見えて


 “コッチハ大丈夫ダ…”


 脳に響くシャルルの声で無事である事を確信する。


 で、あの生物はどうなったのかというと、先ほど宙に舞っていた物体がそうだと気付くのに時間はかからず、もう一度上空を見上げる。


 おそらくは、あの生物を蹴り飛ばしたのだろう…右足を押さえて痛がっている。


 それにしたってあの巨体を吹き飛ばして、宙に浮かせるほどのキック力とはどれだけの力なのか。


 そういえば、この子はブロンズと戦ってる時も殴った地面に小さなクレーター作ってたっけ…


 前に会った時より衣装が豪華になっているのは多分気のせいではない…腰マントなんて付けて無かったもんな。


 護るべき相手に護られてしまった事もそうだけど、それよりも普段おちゃらけて、自分を「この物語の主人公だ」とか言ってる事が恥ずかしいとクルーアは思った。


 ヒロインのピンチに駆け付け颯爽と救い出す正義の主人公…それはまさに、この子の事ではないだろうか?



 …魔法少女エリエル・シバースが凛として空の上に立っていた。

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