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城下町の魔法少女  作者: あしま
第三章 魔獣騒乱
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魔獣騒乱3

 “バ…バカッテ…バカッテ…”


 シャルルさんが何やらショックを受けてる模様でして、これはロココさんの説得に失敗したのかな?と思うクルーア君。


 確認したい所だけれど、またぞろ『猫と喋ってるよ頭おかしい』言われるのも面倒臭いので、ここはロココさんの説得に失敗し、助けは来ないという事を前提にして、ヴィジェ・シェリルへ対応する事にする。


 という事はなるべく早く決着をつけたい。


 早く決着をつけたいとは言っても相手はパラノーマル。


 一筋縄ではいかない相手という事は間違いないですし、加えてパーソンくんと、シャルルさんと、マリーを守りながら戦わなくてはいけない。


 その上短剣二刀流の相手に対して、こちらは丸腰とあっては丁度良いくらいのハンデ。


 負ける気は全くしないけれども、これでは多少時間がかかってしまいそうではあるので、ここはひとつ丸腰の部分だけでも解消しようと


「リック、剣貸してくれ」


 お願いしてみるけれども


「いや、ダメですよ」


 即答で断られる。


「なんで?」


 無駄に食い下がってみるけれども


「いや、だって違法ですから」


 ド正論を言われる。


「真面目か!」


「真面目ですよ!悪いですか!」


「お前ちょっとは融通利かせろよ!」


「無責任な事言わないでください!僕まで罪に問われるじゃないですか!」


 いや、あなた達そんな事してる場合じゃないと思うんですけどね?


 マリーの事もありますけれど、このままだとシェリル姉さん…


「あのさー!」


 ほら怒っちゃった…


「あんたが何者か知らないけどさ、そっちのガキはパラノーマルだよ?お前が剣持つより、そっちが持ってた方が良いんじゃないかね?」


 と思ったら、なんか変なアドバイスをしてくれました。


 しかし、パーソンくんがパラノーマルなんて事はクルーア君にとっては寝耳に水ですから


「え、マジで?」


 聞きますけれど、パーソンくんだってついさっきまで寝耳に水の事だったのですから


「知りませんよ…」


 っていう答えになる。


 普通に考えれば与太話としか思えないような事。


 シェリル姉さんの言う事をどこまで信用できるのかって話でもある。


 しかし、それならばシェリル姉さんと戦って今もまだパーソンくんが生きているという事に、説明がつくという訳で


「なるほどパラノーマルね~…」


 クルーア君納得をして


「よし分かった!じゃあ俺がアイツの動きを止めるからお前が叩き切れ!良いな!」


 無茶を言い出す。


「…わかりましたよ」


 アレ?「嫌ですよ!」とか「無理ですよ!」とか言うのかと思ったら意外とパーソンくん物分りが良い。


 パーソンくんは物分り良かったですけど


「アタシを止める?」


 シェリル姉さんが今の会話が癪に障ったらしく


「お前がか?ずいぶん簡単に言ってくれるじゃないか…」


 今度こそ本当に怒った。


 言うと同時に忽然と姿を消し、次の瞬間クルーアの背後に姿を現し耳元で


「ほら?止めてみろよ?」


 囁いて見せ、反応して後ろを振り返るクルーアを嘲笑うかのように再び姿を消す。


 あまりのスピードにパーソンは目で追うのも儘ならない。


 これでは、まるで先程までは手を抜かれていたかのようだし、実際そうだったのだろう…


 次にシェリルの姿を確認した時、クルーアの背後に立ち、二刀流の手を交差させるように構え、振り抜き、その首を切り落とそうとしていた…


 間に合わない…


 何もできない…


「俺がアイツの動きを止める」と言ったクルーアの言葉に、この人なら本当に止めてしまうんだろうな、と漠然と思い、何の疑問も感じなかったのだけれど、それは間違いだった…


 シェリルの二刀流が振り抜かれ、その刃がクルーアの首をすり抜ける…


 …すり抜ける?


「は?」


「え?」


 一瞬何が起こったのか分からない。


 しかし切られたはずのクルーアの身体が消え去り、正面を向く形で別のクルーアが現れた事によって、シェリルは自分が切り付けた物が残像であった事に気付く。


 気付いたけれども、渾身の一撃を空振りした形となったシェリルはバランスを崩してしまっている。


 崩してしまっているけど、そこからがシェリルの強い所。


 崩れたバランスさえも利用し回転するようにして強引に体勢を立て直す。


 そこから流れるような動きと猛烈なスピードで、再びクルーアに切りかかるけれども二刀流の刃は、いとも容易く、素手で摘まむようにして受け止められてしまう。


 …猛烈なスピードで切り付けてきた二刀流の刃を、いとも容易く、素手で摘まむようにして受け止める…大事な事なので二回書いた。


「止めたぞ?」


「な、なんだ!?」


 異常だ…


 素手で受け止められただけでも信じられない事なのに、どれだけ力を込めて振りほどこうとしてもピクリとも動かない。


 シェリルにとって幸いな事は、本来ここでトドメの一撃をくらわすはずだったパーソンが、あまりの出来事に茫然としてしまい何もできないでいた事。


「リック!」


 言われてハッと気付いた時には、シェリルは振りほどけない剣は捨てて距離を取ってしまう。


「すみません!」


「いや、いいよ…」


 クルーアを指して「アイツは正真正銘の『化物』」と言ったフェリアの言葉を、パーソンは思い出していた…


 化物というのは、どういう立場であっても褒め言葉にはならない言葉だろうけども…いやシェリルは褒め言葉だと言ってたか?


 しかし自ら対峙し『化物』と感じたそのシェリルをも圧倒するその姿は『化物』なんて言葉ではまだ生温いとさえ思える…


 本当にすごい人だったんだ…


 クルーアはシェリルから奪った短剣を、空中でクルっと回転させて柄の方に持ち替えると、二本ともシェリルへと投げ返す…ん?


「え?」


「え?」


「返すんですかそれ?」


「え?…あ!」


 前言撤回…この人は…まあすごい人ではあるのだろうけど、なんか違う…



 投げ返された短剣を拾い上げながらシェリルは思考を巡らせる。


 何だ?この男は…パラノーマルなのか?


 シェリルだって殺し合いでは無いにしろ、自分より強い相手と真剣勝負した経験はあるし、敗北も経験した。


 しかし、ここまでの実力差を見せ付けられたのは初めてだ。


 どれだけ強い相手だろうと10回戦えば2、3回勝つチャンスは有るだろう。


 しかし、この男とは100回戦っても1000回戦っても勝てる気がしない…この僅かな攻防だけでそれを思い知る。


 しかし、今は勝つ必要はない。


「逃げるか?」


 おそらく!今逃げればあの男はマリーを優先して自分を追ってくる事は無いだろう…


 しかしそれはあくまで希望的観測であって、もし追ってこられれば逃げきれな…


「何だこれ?」


 そこまで思考を巡らせた所でシェリルは、今更ながら自分が追い詰められてる事に気が付く。


 それはシェリルの人生で初めての経験であり、同時に人生で2度目となる感情を覚える…屈辱である。


 ヴィジェ・シェリルはどんな時でも狩る側であって狩られる側ではない。


 追い詰める側であって追い詰められるなんて事はあってはならない。


 プライドがシェリルから『逃げる』という選択肢を奪った。





 逃げてくれるならそれで御の字だと思っていたが、当てが外れたのがヴィジェ・シェリルの表情から見て取れる。


 ならば、やはりここで決着を付けなくてはいけないのだけれど、そのために必要な覚悟をしなくてはいけないのは、そう考えるクルーアではなくて…


「リック!」


「はい!…え?何ですか?」


「今ので分かったと思うけど、俺はあの女より強い!」


 急に大声で何を言い出すのかと思いきや…


 いやまあそれはそうだろう。今の攻防で確かにパーソンはそれを理解した。クルーア・ジョイスは強い。


 だからこそ、それに続いた


「だが俺にもお前にもあいつに絶対敵わない事が一つだけある!」


 言葉があまりの意外な一言だったので


「なんですかそれ!」


 思わずクルーアの語調に合わせて大声になってしまう…おそらくはこれワザとシェリルに聞こえるようにやってるのだろう。


「お前は人を殺した事があるか!」


 質問に質問で返すのはどうかと思うし、これまた藪から棒な事を聞いてくるから


「ある訳ないじゃないですか!」


 答えれば


「俺も、かろうじて無い!」


 いう答えが返ってきて「かろうじて」の部分が引っ掛かりはするけれど、ちょっと意外だと思ってしまう…でも、まあそりゃそうなんだ。


 守護隊であれば凶悪犯罪者と対する事もある訳で、やむを得ずという事が起こる可能性は常にある。


 けれども、それはもう極々稀な話であって、ほとんどの守護隊隊員はそんな経験をする事なく定年を迎える。


 3年で退職したクルーアなら尚更だけれども、しかしこの話の意図はいったい何だ?と思った所へ


「アタシはもう何人殺したか覚えてないね!」


 内心は計り知れないけれど、不敵に笑ってこちらを見据えるシェリルの姿に、流石にパーソンもこの話の意図に気付き始める…


 クルーアとパーソンがヴィジェ・シェリルに絶対に敵わない部分…


 人を殺すという行為に対する意識。


「この差は大きい!躊躇ったら死ぬのは自分だと思え!」


 クルーアはパーソンに「腹を括れ」と言ってるんだ。


 凶悪犯罪者と相対し、やむを得ずという極々稀なケース…それが今なのだと教えてくれてるんだ。


 人を殺す覚悟をしろ。そう言ってるんだ…


 そう考えると、もしかしたら最初にクルーアが「剣を貸せ」と言ったのは自分に手を汚させないためだったのかもしれない、とパーソンは思うけれども、今はそれを考えても仕方のない事。


 何より今の会話をあえて大声でしたのは、ヴィジェ・シェリルに対する挑発の意味もあり、そしてその挑発に今のシェリルは確実に乗る。




 これは「かかってこい」と言ってるんだとシェリルは感じ、そしてそれに応じないという選択肢は今のシェリルには存在しない。


 無造作に前進を始めるシェリルに対して、クルーアは一歩前に出て待ち構え、あっという間にトップスピードに乗りったシェリルは、そこから一体の残像を作り出す。


 ここまでは想定内だけれども、ここからが今までのシェリルとは違う所。


 2体に分かれたシェリルは更にそこから1体ずつ残像を作り出し計4体のシェリルとなる。


 シェリルもまたシバース=魔法使いであり、彼女はその魔力を身体能力の上昇へと変換して、本来の自分の能力以上の動きをして見せた。


 しかし、それはマリーがそうであったように、とても魔力の消耗の激しい行為であり、この一撃にシェリルが持てる力の全てを注ぎ込んだことを意味するのだけれども


「ま、通用しないだろうな…」


 シェリルは思い…


「クルーアさんなら、これも何とかしちゃうんだろうな…」


 パーソンは思い…


 シェリルの本体と残像1体に付き3体…計12体の残像を作り出す事でクルーアが答えを示す。

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