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城下町の魔法少女  作者: あしま
第三章 魔獣騒乱
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魔獣騒乱2

 “死ニタイ…”


 えーと…この物語の中で一番の美少女であるロココさんが項垂れておりますので、慰めなくてはいけないとは思うのです。


 でもですね?そもそもなんでまたそんな「普通の猫として一生過ごす」という事に拘ってるのか、とかちょっと理解できないというのもあります。


 下手な事言うと、かえって傷付けてしまいそうですし、なんて声をかけたら良いのか皆目見当つきません。


 彼女には彼女の事情があるのでしょうし、気を使わなければいけない事だと思うのですけど、これが子供にとって、という事になればそんな他人…他猫様の事情なんか知ったこっちゃありません。


「ねー!何かおしゃべりしてー!」


 猫とお話しできるってんでクルムちゃん大喜び。


 さっきまで泣いてたり不安がってたクルムちゃんはいったい何処に行ったのか…


 てなもんで、子供一人でもこの状況、他の子達にまでこの事が知れた時の事を考えると、頭が痛くなるロココさん。


 “他ノ子達ニハ内緒ニシテネ?…”


 一応お願いをしてみれば


「うん!わかったよ!」


 それはもちろんこういう答えが返ってきます。


 返ってきますけど無理だから。子供がそんなの黙っていられる訳ないから。大人だって黙ってられないかもしれない事だから。ロココさんそれは諦めた方がいい。


「ふみゃーーー!」


 いや…うん…ゴメン…



 聞けばロココさんとシャルルさんの念話には違いがあるとの事。


 シャルルさんの念話は特定の人のみに送る事が可能だけれどロココさんにはそれができず、一定距離内にいる全ての人間、その他あらゆる生き物にも筒抜けになってしまうらしいのです。普通に喋ってるのと同じ感じ。


 練習すれば特定の人だけに送る事もできるようになるらしいのだけれど、そもそも普通の猫として生涯を終えるつもりだったロココさんに、念話を使うというのは想定されてない事態でしたので


 “コンナ事ナラ練習シテオケバヨカッタ…”


 後悔しますけれど後の祭りなのです。


 さて、こうなってしまうともうシャルルさんが魔獣であるという事を、隠す必要も無くなっちゃったシニャック老ですけれど


「それにしてもシャルルの孫だったとは…」


 意外な事に、その事実を知らなかったというだけでなく


「というかシャルルに子供がいた事も知らなかった…」


 数年前、突然シャルルさんがやたら美人な猫さんを連れて「コイツノ面倒モミテクレ」と言われ、事情を聞くのも野暮だなって事で、二つ返事でオーケー出したのがロココさんを飼う事になった経緯。


 なんなら、ロココさんがシャルルさんのお嫁さんなのかな?くらいに思ってたくらいですから、もうビックリという訳です。


 何も自分にまで内緒にする事はないと思うシニャック老ですけど、いや、ちょっと考えてみてください。


 シャルルさんがロココさんの事をシニャック老にまで隠してたという事はですよ?それだけ、それはロココさんが自分が魔獣であるという事を知られたくなかったという事に他ならないですよ。


 それを差し置いてまで、ロココさんに念話を送ってきたという事はですよ?


「なあ…話がだいぶ横道に逸れてしまってるけど、シャルルの奴、結構切迫した状況なんじゃないのかな?」


 先に気付いたのは流石のフェリア先生であります。


 他の大人組はというと、そもそもこの状況がシャルルさんがロココさんに念話を送ったのが切っ掛けだった事も忘れてたんじゃないかってくらい間抜けに


「あ…」


「あ…」


「あ…」


 “ア…”


 声がそろいまして…ってロココさんアンタもか…まあいいや、気を取り直してようやく本題に入ります。


「で、シャルルは何を言ってきてるのかな?」


 “エートデスネ…タシカ怪我人ヲ保護シテホシイトカッテ…”


「怪我人?」


 そう聞くと、どうしたって今この近くで起きてる騒動と関連付けてしまうという物でして、もう少し詳しい情報を知りたい所。


 “ココカラ南西ニアル広場デシバース教ノ『ヴィジェ・シェリル』ト交戦中トカデ”


「ヴィジェ・シェリルと!?」


「交戦中!?」


 割りと大物ととんでもない状況になってる、という事が分かり、「誰それ?」って感じのクルムちゃん以外驚愕となります。


 そうは言っても、どうしたってシャルルさんがヴィジェ・シェリルと戦闘をしてるというのが想像できません。


「って…誰が?」


 というのが当然の疑問になる訳ですが


 “クルーア様ミタイデス”


 何故かクルーア君の事を様付けて呼ぶのが気にはなりますけれど、凶悪犯罪者と戦ってるのが見知った人物と分かれば


「た、大変じゃないですか!」


 エリエルちゃんはこの反応。普通これが一般的な反応のはずなのですけど


「なんだクルーアか…」


「クルーアちゃんなら心配ないわね~」


「まったく…あのバカ…」


 大人組が一様にこんな反応なものだから、エリエルちゃん「あれ?私何か間違ったかな?」って思っちゃいますけれど大丈夫です。あなたは何も間違っていません。この人たちとクルーア君がおかしいのです。


「それよりも怪我人の状況だが…」


 それよりも、とか言われてしまうクルーア君が気の毒ではありますけれど、シャルルさんからの要請は怪我人の保護でありますし、実際そっちよりこっちの方が重要。


 “背中ヲ切キラレテ出血シテルノト、魔法デ意識ヲ奪ワレテルソウデス…”


「その場で応急処置した方がよさそうね…」


 となると、ここは回復系の魔法を使える人が行った方が良いだろう、という事になってきます。


 加えて、目的地までなるべく早く着くための機動力を考えますと


「私が行きます!」


「そうね…ここはリカちゃんが適任かしら…」


 という事で、話がまとまりそうなになりかけた所へ


「良いのか?」


 フェリア先生水を差す。


「何が~?」


「ヴィジェ・シェリルなら、クルーアが何とかするだろうから心配ないでしょ?」


 クルーア君への信頼どんだけなんだって話ですけど、フェリア先生が気にする所はそこじゃない。


「いやそうじゃなくて…だってお前魔法少女辞めるんだろ?」


 そういえばそうでした。


 エリエルちゃんはもうエリエル・シバースではなくなるんだ、と決心したのでしたけれども、そんな話は他の皆様は聞いていません。


「そうですか…」


「え?そうなの?」


「え~なんで~もったいない~」


 等々一応に驚きます。


 特にクルムちゃんのシャックたるや半端ではなかったようで


「え…なんで…お姉ちゃんなんで!」


 もう今にも泣きだしそう。


「それは…そうなんですけど…でも今は…」


 自分の事より怪我人の保護治療の方が優先順位は高いという事で


「そうか…そういう事なら…」


 仕方がないって事で、フェリア先生も納得はしないけれど了承はする。


 しかしここで…


 “ア…ソレト、オ怪我ヲサレテルノハ『マリー』サントイウ方ラシインデスケド、何カゴ存知デスカ?”


 それを聞いたのは、シャルルさんには既知の方のようだったけれども、ロココさんは知らない人物だったので、ほんの少し気になったから、というだけで特に深い意味は無かったのですけれど


「は?」


「え?」


「マリーだって?」


 そのマリーという名前を出した事によって大人組…特にメリルさんの様子が変わってしまう。


「アタシ…行ってくるわ…」


 飛び出していこうとするけれど、それよりも素早くノエルさんが動いてメリルさんの前に立ちふさがり


「ちょっと待った!落ち着きなよ、あなたが行っても戦力にしかならないでしょ?」


 いつもの間延びした口調ではないのがノエルさんの真剣さを表してるのですけど、言ってる事が良くわからない…


 戦力になるなら良いんじゃないだろうか思わなくもないのですけど。


「それにマリーって言っても、あのマリーとは限らないじゃない」


 これが、ちょっと余計な一言となってしまって


「シャルルがわざわざ名前を言うくらいなんだから、あのマリーに決まってるじゃない!クルーアは何やってるのよ!あいつが付いててなんでマリーに怪我させてるの!」


 メリルさんヒートアップ。


「ノエルさんそこどいて!」


 言うだけ言ったら、ノエルさんを押しのけて再び外へ飛び出そうとするけれど、ノエルさん、自分を押しのけようとしたメリルさんの手を取ったと思ったら、前回りさばきで懐に飛び込み綺麗に一本背負い。


 投げられたメリルさん、突然の事で受け身を取るのも忘れてしまい、地面に叩きつけられる…ってマジか…


「うう…」


「あ、ゴメン。やりすぎた」


 普段のノエルさんのイメージからは考えられない、キレッキレの動きからの一本背負い…何よりあのメリルさんが為す術なく投げられるというのを目の当たりにした一同は唖然とするばかり。


「ともかく、今はリカちゃんに任せてあなたはここでお留守番…いいね?」


 メリルさんは納得がいく訳ではありませんけど、しかしノエルさんに投げられ受け身を取る事も出来なかった事で、自分が冷静さを失ってた事を痛感しましたから


「分かったわよ…」


 渋々了承。


 今行っても下手をすればクルーア君の足手まといになるかもしれない。


 後の事はリカちゃん…エリエルに任せよう






 そのエリエルちゃんは、軽くショックを受けています。


 メリルさんが取り乱す姿というのは、そんなに意外という風には思わない。


 しかし、そのマリーという人がメリルさんにとって特別な人なんだ、という事は嫌でも分かるというもので、少し「羨ましい」と思ってます。


 自分が怪我をした時も同じように取り乱してくれるのだろうか?


 同時に、そのマリーという名にまたぞろ奇妙な懐かしさを感じてしまって、少し戸惑ってもいます。


 また、自分の記憶のぽっかり穴の空いてしまってる部分に関係のある人なのだろうか?



「ユーリカ?お前がやるべき事を整理しよう」


「は、はい…」


「可能であれば、その場でマリーの応急処置を済ませる事。それが困難であれば手当は後回しにしてここまでマリーを運んできてくれ」


 マリーという人は、フェリア先生にとっても良く知る人物なんだ、という事がその言葉から感じられて何か複雑な気持ちになる。


「リカちゃん…」


 メリルさんの声は先ほど取り乱した時とは違って落ち着いたものに聞こえるけれど、どうなんだろう…


「絶対に無理はしないで、自分の身の安全を一番に考えるの…いいね?」


 それは本当に本心から言ってるのだろうか?本当は無理をしてでもマリーという人を助け出して来いって思ってるんじゃないだろうか?


「ま、いざとなったら、うちのバカ息子が何とかしちゃうと思うから多少は無理しても大丈夫かもね?…知ってる?うちのバカ息子、この物語の主人公なんだってさ!」


 そう言ってニカって笑うメリルさんの笑顔を見て、今自分がすごく嫌な事を考えてた事に気付く。


 いけない…メリルさんにとってマリーという人がどんな存在であったとしても、そんな事、今はどうだっていい事じゃないか。


 怪我をしてるマリーさんを助け出す。今はその事に集中するんだ…自分に言い聞かす。


「リカちゃん…マリーの事お願いね…」


「はい!」


 いろいろと思う事はあるけれども今は後回し。


 気合を入れた返事をすると同時に上空へと舞い上がる。


 目的地はここから南西と言ってたっけ?南西ってどっちだ?アレ?


「向こうよ!」


 迷っていたら下にいるメリルさんから声をかけられ、見ると右手を伸ばして指差している。


 多分そっちが南西で合ってるんだろうという事で、メリルさんの指差す方へ向かって全速力で飛び立った。




 飛んでる自分がいつもより軽く感じるのは、新しくなった魔法少女の衣装の力なのだけれども、今はそれとは気付かずに


「ん?この物語の主人公?」


 先ほどのメリルさん言葉が、今更引っ掛かりだすエリエルなのです。

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