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城下町の魔法少女  作者: あしま
第三章 魔獣騒乱
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シャルルという名のパッと見猫にしか見えない魔獣

 聖グリュフィス聖堂は、貧民街にある…


 というよりも、かつて貧民救済に聖堂が力を注いでた時代があり、聖堂周辺に貧困層が集まってきた、というのが正しいらしい。


 先日は大騒ぎだったので、気にする間もなかったのだけれど、乗合馬車の停留所の有った大通りを挟んで、向こうとこっちではまるで別の街のようで、その落差をちょっと怖いとエリエルは思った。


「治安は悪くないのよ?」


 というのは分かるのだけれど、それよりも、ここの人たちがシバースに対して、どんな意識を持っているのかが気になる所なのは、先日の乗合馬車の事もあっての事。


「それは人それぞれだし、もし貧困層だから、みたいに思ってるのならそれはあなたの偏見というものよ?」


 ハッとして足が止まるから、相対的に隣を歩くメリルが先に進む形となる。


 メリルは、エリエルが立ち止った事に気付いて振り返り


「あーゴメンゴメン。誰だって少しは偏見なんてあるものだから、あんまり気にしないでいいのよ?」


 笑顔を見せてくれて


「でも全く気にしないのもダメ。何事も程々が一番なんだけど…その程々が意外と難しいのよね~…」


 言ったかと思ったら肩をガクンと落とし


「アタシも良くやらかすわ…」


 自虐して見せてくれるから、心が解れてクスッと笑ってしまう。


 なんというか…この人には学ぶ所学びたい所、学ぶべき所が沢山あり、それは決して学校では学ぶ事のできない、人としてものすごく大切な事。と、エリエルは感じている。


「じゃあ早く行こうか?」


 言われて


「はい」


 と答えた後、そういえば返さなくてはいけないものがあったんだと思いだし


「あの、メリルさんこれ!」


 言って手荷物を差し出す


「ん?何?」


「あの…お借りしてた服です。ちゃんと洗濯してあります。ありがとうございました…」


「あー…」


 メリルさん、どうも貸してた事も忘れてたみたいな様子で


「バカ息子のだから捨てちゃってもいいって言ったのに…」


 なんて事を言いながらも、ニコニコ笑顔でその服を受け取って


「ありがと」


 感謝の言葉を言うその姿からは、口ではバカ息子なんて言ってはいても、きっと本当は息子さんの事大切に思ってるんだろうな…というのがうかがえる、なんて思った矢先


「ま、次会ったら殺すけどね…」


 と聞こえるか聞こえないかくらいで、ぼそりと呟くその言葉に、一瞬本気の殺気が宿っている気がして、思わず驚愕の表情してしまうも、メリルさん我関せずとばかりににっこり微笑み


「さ、行こうか?」


 言って颯爽と歩き出す。


 その後姿を見つめながら「もしかしたらこの人は絶対に怒らせてはいけない&敵に回してはいけないのではないのだろうか?」とエリエルは野生の勘を働かせ、真理へとたどり着くのです。















 …重い…


 昨夜は別に飲みすぎたという訳ではないが、途中トラブルが重なった事によって、あまり良い酒ではなかった…


 だから悪酔いをしたという訳ではないのかもしれないが妙に重い。そして苦しい。


 金縛りだろうか?


 金縛りというのは!疲れていたりストレスがたまっていたりで起こるらしいけど、しかしそれなら何度か経験はあるのでどういう状態かわかるし、これはそれとも違う気がする。


 まるでら寝ている自分の身体の上に4~5㎏の重さの物体が乗っているような感覚だ…と思ってたら、その物体が何やら、もそっと動いた気がして…いやこれ実際何か乗ってるぞ?


 さて、ここはクルーア君のゴミ屋敷である。


 酔っていたとはいえ戸締りは完璧のはずですし、誰かが入ってくる隙間などない…


 自分とゴミ以外は何もないはずの部屋に、何か動く物体がいて、それが今、寝ている自分の上に乗っているという現実はクルーア君にとって恐怖。


 とっくに目を覚ましてはいるのだけれど、目を開けるのは憚れるわけであります。


 無敵の主人公にだって、怖いものがあるんですよ。例えば幽霊とか、お母さんとか…


 とは言え、いつまでもこうしている訳にもいかないので「幽霊なんかいないって俺知ってるもんね!」と心の中で精一杯強がってみせ、勇気を振り絞り、目をゆっくりと開けると…


「にゃー?(意訳:起きた?)」


 そこには、赤茶色っぽい被毛に覆われたシュッとしたタイプのニャーと鳴く方の愛玩動物が鎮座されておりまして


「なんだ…猫か…」


 クルーア君安堵いたします。


 …幽霊とかじゃなくて本当に良かったという事で、安らかに二度寝いたしましょう…


 いやいや、そうじゃないよ、そうじゃない…


 なぜこの部屋に猫がいる?


 昨夜拾ってきたのか?


 いやそんな事は無かったはずだぞって事で、まだまだ寝ていたい所なのですけど、ここはガバッと起き上る。


 ビックリして飛び降りる猫に向かって


「お前、何処から入ってきた!」


 叫びますけど、普通に考えたら猫に人間の言葉が分かるわけもありません。


 いや、もしかしたら分かってるのではないか…と思う節もありますけれど、何はともあれその猫はその言葉を受けて


「にゃ~」


 あそこからだよ、と言わんばかりに鳴いて窓の方を見るのですけど、その窓はこの部屋に引っ越してきてから一度も開けた事のない、ずっと鍵がかかったままの窓でして…いやいや、そこを見たのはたまたまだろうと思った所で何かに気付いたクルーア君。


 ゆっくりと窓から猫の方へと視線を移し、お気楽に毛繕いなどしてる猫の事をまじまじと見て、何かを確信して、素早く動き、猫の両肩をワシッと掴んで逃げられないようにした上で


「お前…もしかしてシャルルか?」


 かつて自分が住んでいた、聖グリュフィス聖堂内の孤児院にいた猫の名を呼ぶと、その猫はちょっと怒った感じに


「にゃー!(意訳:気付くの遅いわ!)」


 鳴くので、うん…どうやらこいつはシャルルさんで間違いないようです。


「そっか…じゃ仕方ねーわ…」


 何しろこの猫、クルーア君が生まれるよりもはるか昔、クルーア君の母親が初めて聖堂孤児院に来た時にはすでにそこに住みついていたらしく、それから30数年が過ぎて、なお老いる様子もなくピンピンしている。


 猫の平均寿命考えたら、ちょっとありえないくらい生きてる訳で、おそらくこいつは猫ではなくて、魑魅魍魎の類ではないのか?とおもうのだけれど、聖堂の管理人に尋ねてみても、笑って誤魔化すばかり。


 その正体は判然としない訳ですけど、まあこいつならもう何でもありなのではないか?と思われ…いや、ちょっと待て…


「ごめん、仕方なくねーわ。なんでお前がここにいるんだよ?」


 冷静になって問い詰めるけれども…いや、猫に人間の言葉で問い詰める時点で、冷静ではないな…って事で、問い詰めた後で


「何やってるんだ俺…」


 頭を抱えるクルーア君。


 それを聞いてたシャルルさんは、といいますと、何やらいぶかしげな表情で、考え込むようなそぶりを見せる…


 天を仰いだり、こっちを睨むように見たり、「みゅうううう」と唸ってみせたりして、何かを悩んでるように見える。


 それは、伝えたい事があるのに伝える手段を持たないもどかしさなのではないか?と考えるクルーア君だけれども、いやいや相手は猫だ。そんな訳がないだろうと頭を振って否定した所へ


 “アーモー面倒ダ!直接話シカケル!”


 言葉が、クルーア君の脳へ直接響いてくる。


「ウワッ!」


 ビックリして、情けない叫び声をあげて、驚愕の表情をしたままシャルルさんを見やると、シャルルさんは斜に構えて、ジッとこちらを睨むように見つめている。


 “ヨウ、クルーア…俺ダ…シャルルダ”


 何でもありとは思っていても、それはあまりにも突拍子もない事で、にわかには信じられない。


 しかし、他の可能性が考えられない。


 クルーアは今、目の前にいる猫の声を聞いているんだという事を、事実として受け入れるしかなかった。

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