それぞれの翌日が終わる
昨夜の出来事を思い出して、足取りが重くなったり…
今日あった、素敵な出来事を思い出して、足取りが軽くなったり…
今日あった、とても嫌な出来事を思い出して、足取りが重くなったり…
帰ったら、無断外泊した事をめちゃくちゃ怒られるのだろうな、と考えて、やっぱり足取りが重くなったり…
それがフェリア先生だったら、尚の事嫌だなと思って、さらに足取りが重く…
概足取り重くて、ついに立ち止まってしまいますエリエルちゃん。こんな事なら、ちょっと歩きますなんて言うんじゃなかったと絶賛後悔中。
寄宿舎まで、あと普通に歩いて15分から20分といった所ですし、もう面倒臭いから飛んで行ってしまおうかしら、なんて一瞬考えちゃったりもしてみましたけれど、今はそこそこ人目に付くところ。迂闊に空を飛んでは、誰に見られるか分かったものではありませんから、仕方なしに重い足を前に進める事にいたします。
「従姉か…」
フェリア先生が、意外な事に自分の従姉だという事が分かった訳だけれども、しかしエルダーヴァイン夫妻に、昔会った記憶は片隅に残っていたものの、フェリア先生の記憶は全くない。夫妻に会ったというのも、はっきりとは覚えていられないくらい昔の事だから、さらに昔に会った事があるのかもしれないな~…なんて考えてみてもピンとこなくて、何とも不思議な気持ちになるのです。
何しろ金髪碧眼長身スレンダー…そして巨乳。ルックスの方では、まるで共通点が見当たらないどころか正反対。長身なのは父親譲りなのだろうけど、髪は母親のノエル叔母様も綺麗な金髪だった訳で、自分同様漆黒のサラサラ髪だった父シルドラと本当に姉弟なのか?と考えて、そういえば王家の子は、極端な金髪か黒髪どちらかで生まれてくると…誰かに聞いたのか、本で読んだのかはわからないけど、「へ~」って他人事のように思った記憶が、エリエルちゃんにはありました。
なるべく嫌な事は考えないようにと、そういう方面へ思考を巡らせましてたら、なんとなく足取りも軽くなってきたエリエルちゃん。
今はあまり顔見知りと出会いたくないという一心で、いつもはあまり通る事のない公園を抜けて帰ることにしましたけど、通り道の先にあるベンチに座る人影を発見。他にも疎らには人がいるのですけど、どうにもその人が気になります。
だからといって引き返すのも変ですし、流石に知人や顔見知りに絶対に会わずに済むかっていったらそれは無理な話ですので、気にはなりますけど道なりに歩いていくエリエルちゃん。
その時点では「うーん…知り合いという訳ではなさそうなんだけどな…」なんて感じで、気になる理由が分からなかったのだけれど、その人物との距離がだんだんと迫ってきて目と鼻の先まで近付いた所で、ボーっと天を仰ぐようにしていたその人物が、気配を察知したのかエリエルちゃんの方を向きかけたその時、その人物が昨夜あの屋根の上で話をした男性であるという事にようやく気付いて、慌てて近くの木の陰に身を隠す…
「ん~?気のせいか?誰かいた気がしたけど…」
クルーア君が呟いた時には、すでにエリエルちゃんの無自覚自動認識阻害魔法が発動してますので、もうちょっとやそっとではエリエルちゃんは見つからない状態ですけれども…何故隠れた…
いや、だって今のエリエルちゃんは、魔法少女姿じゃないサラサラ黒髪バージョンですし、衣服は借り物ですし、エリエル・シバースとバレる心配はあまり無いでしょうし、そもそもバレて困る事も特に無いのではなかろうか?隠れてる方がおかしいのではないか?
って事でエリエルちゃん。もう堂々と目の前通り過ぎてやろうじゃないか、と心を決めて身を隠してた木の陰から飛び出してみたら、人が増えてるし、しかもそれはよりによってのフェリア先生だしで、再び慌てて木の陰に舞い戻る。
ところでエリエルちゃんからすると、この二人っていうのは以前魔法学校の渡り廊下で何か話をしていた、という事以外は知らない訳です。昨日話した感じでは、この男性はエリエル・シバースの事を調べるために学校に来てたのではないか、と推測されるす。フェリア先生ともその話だったのではと推測されるので、じゃあ、なんで今ここで会ってるの?密会…逢引ですか!?先日ちょっと話をしただけで、良い感じになってしまわれたのですか?大人って…大人って!…
と、変な妄想が膨らみかけたエリエルちゃん、当然聞き耳を立てるわけですけど…
「やはり…ユーリカ・マディンは昨日から寄宿舎に戻ってないようだ…」
思いがけず、自分の話題だったので我に返りますけれども、聞き耳は立てたままにしておきます。で、しばらく沈黙があって
「…探す…」
件の男性が口を開きますけれど
「探すって、どこをだよ…」
フェリア先生、水を差しますし
「わからないけど探すしかないだろ!」
食って掛かり険悪な感じになりますから、「私なら、ここにいますよ~」なんて言って、出ていける雰囲気にありません…
それにしたって、なんでこんな深刻な感じになってるんだろう、と疑問に思いますけど
「ブロンズが襲われたんだ…あの子だって、シバース教に襲われた可能性もあるの、フェリアだってわかるだろう?」
あーなるほど、昨夜あのブロンズ・メイダリオンという男性が襲われ、行方不明になってる事から、それが昨夜の出来事と関連してるのなら、もしかしたらエリエルも襲われた可能性があると考えた訳ですか…
「落ち着けよ?焦ったところでどうしようもないだろ?先ずは誰かに協力を…」
あれちょっと待てよ?
「誰に協力頼むんだよ?事情説明できないだろ?」
昨夜の出来事に巻き込まれているのはエリエル・シバースであってユーリカ・マディンでは無いわけで
「昨夜の君の元上司とかなら、何とかなるんじゃないのか?」
じゃあ何故この二人はユーリカ・マディンが襲われたかもしれないって思ってるんだろうか?
「もういい!とにかく俺はあの子を探しに行く!」
ああ、そうか…最初から気付いていたんだ…理由はわからないけど、あの日学校の渡り廊下に呼び出された時には、もうバレてたんだ…
「勝手にしろ!」
そうこうしてる内に二人が完全にヒートアップ。喧嘩状態になっちゃったみたいで、どうもこの二人はこの前会ったばかりという訳ではないのだなっていうのは、会話から察しがついたけれども、何よりこの二人が喧嘩するのを見るのを「なんか嫌だな…」って思ったエリエルちゃんは、意を決して一日黒のままだった髪をピンクに染める。
「あ、あの!」
木の陰から二人の前へと飛び出したら、思いの他すぐ傍まで来てたクルーア君は
「ヒャッ!」
ってなりますし、エリエルちゃんも
「キャッ!」
ってなりますし、フェリア先生はまさかの出来事に茫然自失といった感じで、三人沈黙…ヒュ~ッと風が吹いた所で
「あ、あの先生すいません…私、無断外泊してしまって…」
エリエルちゃんが口を開いと思ったら、フェリア先生がものすごい勢いで近づいてきて、クルーア君を払い飛ばしエリエルちゃんの眼前に立った所で、サッと手を上げるから「叩かれる!?」って思ったエリエルちゃんは、とっさに目を閉じ歯を食いしばります。
次の瞬間、頭を押さえられグッと引き寄せられたと思ったら、顔面に何かものすごく柔らかい物体がムニュっと当たるものですから、何が起こったのかと混乱しますけれど
「良かった…」
聞こえるか聞こえないかのフェリア先生の呟きで、今自分が抱き寄せられてるんだという事に気付き、という事は顔に当たるこの柔らかな物体はフェリア先生の優しくて柔らかな部分なのかと気付き、顔がカーッと熱くなりまして
「あ、あの!」
叫んだ事によって
「あ、す、すまん…」
フェリア先生も我に返りまして
「いってーな…何すんだよ…」
吹き飛ばされていたクルーア君も戻ってきたので本題に入ります。
「あの…私がエリエル・シバースだって、なんで分かっちゃったんですか?」
先ずはエリエルちゃんが質問したのですけど、二人からすると「何故、ユーリカがエリエルだって事を、分かっちゃってる事を分かっちゃったんですか?」って事になりますから、二人して驚きの表情になります。
「あ、すいません…お二人の話聞いてました…」
って事で納得するのと同時に、ちょっと迂闊だったと反省しますけれど、とりあえず質問に対する答えは
「うーん…なんで分かったのかと聞かれても…勘かな~?」
「勘だな…」
「勘…ですか…」
エリエルちゃん、腑に堕ちなくて苦笑い。しかしまあ実際バレる時なんてそんなものかもしれません。という事で、それ以上突っ込んで聞こうとはしませんが、ここで一つ大事な事。
「あ…そういえば名前…」
昨夜、クルーア君に名前を聞いてなかった事を思い出しますけど
「こいつの名前なんか別に知らなくてもいいんじゃないか?」
フェリア先生酷い言い草。これに無言の抵抗をしてから
「クルーア・ジョイスだ…よろしくな…」
若干格好つけて言うもんだから、フェリア先生にフンっと鼻で笑われ
「なんだよ…」
不満を漏らしますけど、この時点でクルーア君にはものすごく気になる事が一つあって、気が気ではない。けれどフェリア先生が、そんな事をかまってくれる訳もなく
「で、無断外泊だそうだけど昨夜は何処へ行ってたんだ?」
先生という立場上、聞かない訳にもいかない事を聞くフェリア先生にエリエルちゃんは、なんて答えるのが正しいんだろうと少し考えて
「あ!実家?…です」
と、答えます。うん、間違ってはいない。
それを言われて、フェリア先生も何かに気付き
「あ~…なるほど…」
何かに納得したようですけど、普通に考えて意味不明な返しです。なのでエリエルちゃんキョトンとなってる。
「ともかく、無断外泊を見逃す訳にはいかないけれども…」
「鬼だな…」
「聞こえてるぞ…」
なんて二人のやり取りを聞いたものだから思わず笑ってしまうエリエルちゃん
「ユーリカ・マディン君!」
怖いバージョンのフェリア先生が顔を出したので
「は、はい!」
思わずシャキッと直立不動。
「ともかく…無事で良かった」
それが何よりであり、これでここでの会話は終了。
寄宿舎まで送ろうか?という申し出は断られ、今日の所はここでお別れと相成りまして、彼女が見えなくなるまで見送った所で、さてクルーア君には、どうしても気になる事がある。
「なあ…あの子が着てた服ってさ…」
「ああ、お前が子供の頃気に入ってて、しょっちゅう着てた服だな…」
間髪入れずにフェリア先生、即答しますけど、いや流石にたまたま同じデザインの服というだけだろうと信じたいクルーア君。いやまあ普通に考えたらそうだと思うんですけど
「お前さ、最近実家に顔だしてるのか?」
「いや…守護隊辞めてからは一度も帰ってない…」
急に何の話だよ、とクルーア君怪訝な顔。
「あの子実家に行ってたって言ってたろ?今日お前の所に行く前に、ユーリカ・マディンの経歴を調べてきたんだよ…魔法学校に来る前は王城で侍従をやっていた…これはまあ知ってたのだけれど、問題はその前だ…」
と、まあここまで来たら何の話か分かってきたので、後は嫌な予感しかしないよクルーア君。
「彼女…5歳まで孤児として聖グリュフィス聖堂内の孤児院…お前の実家にいたそうだ…」
さあ嫌な予感は当たりました。けれども何かおかしい
「いや…ちょっと待て…5歳まで家にいたなら俺が知らない訳ないし…あれ?5歳で侍従にって…」
「そう…ユーリカ・マディンってリカちゃんの事だ…」
衝撃の事実である。何しろ
「リカちゃんって…リカって名前じゃなかったの?」
一緒に住んでた人間がそう思い込んでるくらいですから
「心配するな…僕もそう思ってた…」
フェリア先生もまあそんな感じです。
念のために断わってますけど、これはエリエルちゃんの事ではなくて、今王城にいる本物のユーリカ・マディンの話でして…
「とにかく…あの二人の所にいたんだったら心配ないだろう」
それはクルーアもそう思うけれども
「案外、彼女もシバース教に襲われたんだけど、メリルさんが追い返したのかもな?」
それは実際にあり得る話で、冗談にしても笑えないクルーア君なのです。
一方、寄宿舎へと変える道を歩くエリエル。
先ほどまでのような足取りの重さは無くなったけれども、彼女は今日一日でたくさんの人達が自分を心配してくれてると知った。
それは自分では考えもしなかった事で、とても申し訳のない事をたくさんの人にしてきたのだと知った今、やはり魔法少女を続けていく事はできないと…もう誰にも心配はかけられない…かけないと心に誓う。
同じころ、王国議会において、5日間という短い時限付ではあるものの、緊急事態令が発令された。それは国王シルドラ・パナスの承認を得て、その日の内に公布される…
それぞれの翌日が終わる。
2章終わりです。
当初次の章までを2章にするつもりだったのですけど、思いの他書きたいことが増えてしまい長い翌日になってしまったので切り離して2章にしました。
結果としてこの章で出す予定じゃなかった人とか出てきたりして蛇足だったかな?余計だったかな?ってところとちょっと書き足りなかったかな?ってところとありますけれどまあとりあえず先に進みたいと思います。
3章は4月に入ってからUPできればと思ってますのでよろしくお願いします




