魔法少女の翌日4
この世界の主な交通手段は、「自転車」「馬車」。それから都市間を結ぶ「列車」がある。
「自動車」というのもあるにはあるのだけれども、何しろこの世界の燃料は「魔力」しかない。石油どころか石炭すらなく、動かすのにはシバースの力がいるっていうのだから全く普及しない。
電気はあるのだから、電気自動車はやろうと思えば可能なんじゃないかと思うのだけれど、電気はあってもそれを十全に活用はできていないというのが現状。できたとしても未来の話。
まあこの辺の世界観設定は…いつかちゃんとやりますごめんなさい…
という訳で、王都エリックリンド唯一の公共交通機関乗合馬車を利用するべく、大通りにあるという乗合馬車停留所を目指して歩く、メリルさんと我らがエリエルちゃんでございますけど、昨夜の出来事を聞いてからというもの、ずっと考え込んでるのか、塞ぎ込んでるのか、黙ったままになってしまったエリエルちゃんを見て、早晩知る事ではあるけれども今このタイミングで話したのは不味かったか、と後悔するメリルさん
「アタシたちが気にしたって仕方のない事だよ?」
今更ながらの慰めを言いますけれど
「あ、いや…はい、それはそうなんですけど…」
エリエルちゃんの答えは何とも歯切れが悪いもの…
実はこの時エリエルちゃんが考えていた事は、ブロンズ・メイダリオンの事ではなくて、つまるところメリルさんもシニャック老も自分が魔法少女である=犯罪者であるというのを分かった上で、匿ったという事になるんじゃないかという事。
「あの…私、迷惑じゃないですか?」
思い切り不安気な表情でもって、今更ながらの質問をしちゃいますけど、この会話の流れですと
「何が?」
っていう事になりますよそりゃそうだ
「いや、私…昨晩の事件にも関わって…その魔法少女な訳で…」
言葉を選びながらだから、また歯切れの悪い感じになってしまいますけど、ここまで言えば何を言わんとしてるのか、メリルさんなら察しがつきますから
「あー!アタシもシニャックさんも共犯者って事になるのかしらね?」
またぞろメリルさんは、あっけらかんと満面の笑顔で答えるけれど、エリエルちゃんはまだ不安げな表情を崩さないでいるから、その頭をポンポンと軽く叩いてから撫でてあげて
「うーん…リカちゃんがアタシたちに掛けてるのは、『迷惑』じゃなくて『心配』よ?」
言われてエリエルちゃん、昨夜のあの男の人との会話を思い出してハッとする。
「あなたのニュースを初めて聞いた時から、危険な事してるな~、ってずっと思っててさ…」
あの男の人に自分に魔法少女を辞めさせるよう依頼したのは、おそらく父シルドラ・パナスに違いない。他に思い当たる人物がいない。しかしそうだとして…何故父は魔法少女の正体に気付いたのだろう?
「アタシは辞めろとまでは言わないけれど、でも正直危険な事はあまりしてほしくないかな~…」
魔法少女の正体を特定する上で鍵になるのは、やはり飛行魔法という自分にしかできない特殊な能力…しかしその事を知っている人は誰もいないはず。
仮に早い段階でソフィアとユーリカが入れ替わってる事がバレていたとしても、それと空飛ぶ魔法少女が結びつくとも思えずに…
「リカちゃん?」
「あ、はい!」
そんな事を考えてボーっとしてしまったが故、メリルさんの話しのおかしな部分にも気付く事は無く
「着いたわよ?」
乗合馬車停留所に到着するのでした。
馬車は8人乗りが基本。目的地だけが決まっていて満席になったら即発車。満席にならなくても、ある程度時間を見て、運転手の判断で発車するという割とアバウトな物が主流であるが、中には時刻表に沿って、きっちり運行される物もある。ここはアバウトな方。
目的方面に行く馬車をほどなく見付けるとメリルさん素早く駆け寄って
「まだ大丈夫?」
ガタイの良い御者のオッチャンに声をかければ
「おう、あと三人大丈夫だぜ?」
言葉は荒いが、気の良さそうな返事が返ってきたので
「リカちゃん?」
エリエルちゃんを呼ぶと、慣れない乗合馬車におっかなびっくりといった様子で近づいてきて
「えーと…どうすればいいんですか?」
乗り方わからないのが恥ずかしいので、小声で聞いたのにもかかわらず
「料金は前払いだから、お金払ったら、あとは目的地まで乗せてってもらうだけよ」
普通の声がやや大きめのメリルさんのデリカシー…エリエルちゃん顔真っ赤…
「おう、お嬢ちゃん乗るなら早く乗りな?」
御者のオッチャンが急かすもんだから、真っ赤になった顔を隠すように俯きながら、渋々馬車へとライドオン
馬車には先に乗車していた客が5人いる訳ですけども、今のエリエルちゃんにその人たちの顔を見る余裕なんてないですから、俯いたまま空いてる席を探す訳ですけが、そりゃ俯いたままですから、まごまごしちゃうのも仕方がないってもので、そうこうしてる内に乗客の一人がエリエルちゃんの付けてる徽章に気付く。
「え?いやだ何あの子シバースなの?」
ボソッと…しかし、しっかりと聞き取れる声で言った事で車内の空気が一変したのをエリエルは感じ取る。
「やだ怖い…」
「ちょっと…なんでシバースの子が馬車に乗ってるのよ…」
「おいおいシバースなんかと一緒に馬車に乗れるかよ…」
車内がざわつく。それはエリエルに対する直接的な罵声ではなく、普通なら聞き逃してしまうような小さな声だったけれども、しかし車内の異様な空気が、その一つ一つの言葉を否が応でもエリエルの耳へと届けてしまい
「え…何これ…」
エリエルをただただ困惑させる。
エリエルはこれまで、その生活のほとんどを魔法学校と寄宿舎との行き来だけで過ごしてきた。そのためシバース以外の人物と接した事がほとんどない。魔法学校近くの商店街にも、もちろんシバース以外の人はいるのだけれども、その人たちはシバースが身近にいる人たちだ。内心思う所はあっても、それを表に出す事は無い。
『シバースはシバースというだけで犯罪者のように扱われる』
そういう事があるという事を頭では理解してたけれども、直にそういう扱いを受けたというのは、幸か不幸かエリエルには無かったのだ。
「どうしたの?」
車外にいたメリルが、中の様子がおかしい事に気付いてエリエルに声をかける。ほぼ同時に
「なんだよ、お嬢ちゃんシバースか…悪いけど金返すから降りてくれねえか?」
御者の心無い一言がエリエルの揺れる心に止めを刺し、涙が頬を伝う…瞬間メリルが馬車に飛び乗りエリエルの前に立って
「おい…お前らアタシの娘に何言いやがった?」
ゴゴゴ…という音が聞こえてきそうな勢いで怒りを全身で表す。
それに対して御者は一瞬怯むけれども
「悪いけどさ、嫌がるお客様がいてトラブルになるから、シバースの乗客はお断りしてるんですよ…」
なるほどこの御者自身にはシバースに対する嫌悪や差別心は無いのかもしれない。しかしそれはメリルにとって到底納得のいくものではなく、御者を睨み付ける。
「いや…そんな目で見られても…」
再度怯む御者に乗客の一人が助け舟でも出したつもりか
「シバースなんて犯罪者予備軍だろ!そんなのと一緒に馬車に乗れるかよ!」
なんて余計な事を言うもんだから
「犯罪者予備軍?今犯罪者予備軍って言ったのか?」
メリルに完全に火が着いてしまう。こうなるともう止まらない。
「犯罪者予備軍っていうのは何を根拠に言ってるのさ…」
矛先は御者から乗客へと移るけれども
「そんなの10年前のテロで十分じゃないか!」
「そうよ!昨日の事件だってシバースじゃない!」
乗客も怯まず応戦するも、これはもう無駄な足掻きで、メリルはゆっくりとその乗客へと近づいていきながら静かに語りだす
「王都エリックリンドの昨年一年間の犯罪総数は65,819件。そのうちシバースによる犯罪は255件。数だけ見ても200倍以上シバース外の犯罪が多い。さらに街の人口およそ210万人、そのうちシバースの人口は約6万5千人。殺人などの凶悪犯罪は314件、内シバースによる犯行は4件、殺人に至っては0。ちなみにこれらは公共性の高い情報だから、法務局に行けば誰でも調べる事が可能。嘘だと思うなら言って調べてくればいい…」
そこまで言った所で先ほどの乗客の前まで辿り着き、一拍置いて
「シバースによる犯罪は250人に一人なのに対してそれ以外は30人に一人。そこに昨日の事件が入った所でシバースよりも、貴女や、貴方や私の方がよっぽど犯罪者予備軍という事になると思うんだけど…で、何が根拠だって?」
当然の事ながらもうその乗客に返す言葉などありはしなかった。




