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城下町の魔法少女  作者: あしま
第二章 それぞれの翌日
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魔法少女の見る夢2

「ソフィア…」


 誰かは分からないけど、とても優しくなんだか懐かしさを感じる女性の声に呼ばれて、しかしこれは夢だとエリエルは思った。


 今の彼女をその名で呼ぶ者はいない…


「ソフィア…」


 もう一度、今度は知ってる男性の声で呼ばれる…


 心配性で、どこか頼りなくて…でもやっぱり優しくて聞くと不思議と安心する父親の声…


「ソフィア様」


 また顔見知りの声。


 きっと父の部下に当たる人なのだろう…


 どういう役割の人かわからないしそもそも興味が無いから名前も知らない、しかし顔だけはよく見る人物…


「ソフィア様」


「ソフィア様」


「ソフィア様…」


 そんな風に周りの大人たちに様付で名前を呼ばれるのを、エリエルは好きではなかったから


「ソッフィアー!」


 馴れ馴れしく絡んでくる『このえのお姉さん』を戸惑いながらも快く思っていたのだけれど、そんな風にエリエルの事を呼べば


「こら!ソフィア様に対して何たる口の利き方か!」


 偉い人に怒られてしまうのだから、やめればいいのにといつも思ってた。

 彼女はそれでもおどけてエリエルに舌を出して見せるからまた怒られる。


 『このえのお姉さん』が好きだったから、怒られてるのを見たくなかったんだ。




「姫」




 様付で呼ばれるよりも嫌いな言葉。自分には不釣り合いだとエリエルは思う。




「殿下」




 もっと嫌い…意味が解らない。




「姫様…」



 ああ…


 あなたまでそんな風に私を呼ぶのか…それはエリエルにとって、とても悲しい事であって、その子にだけは…子供の頃からずっと一緒で、ずっとずっと仲良しの友達だと思ってたあなたにだけは、そんな風には呼んで欲しくなくて…



「え…と…じ、じゃあソフィア様?」



 違う、そうじゃない。もっと昔…出会ったばかりのあの頃のように…



「う、うん…わかったよ…ソフィーちゃん?」


「うん!ありがとうリカちゃん!」


 言葉を交わした瞬間、見知った場所から見知らぬ場所へと場面が変わって、どこか薄暗く感じていた空気が一気に明るくなる。


 見知らぬ場所…というのはある意味では正しいのだけれども、ある意味では正しくなく…知らないはずの場所なのに何故かとても懐かしい…そんな複雑な感情を覚えるエリエルに


「ソフィア!もうちゃんと言う事を聞いて!」


 少し年の離れたいつも機嫌が悪そうなお姉さん…どこか良く知ってる人に似てるような気がする…けれど誰かは分からない。


「ソフィ?みんなに迷惑かけちゃダメでしょ?」


 一つ年上ですぐにお姉さんぶろうとする女の子…透き通るような黒い肌のキレイな子…名前は思い出せない。


「ソフィーちゃん…だめだよそんなことしちゃ~」


 同い年で一番仲良しだった女の子…この子の事は忘れてない…リカちゃん…ユーリカ・マディン…エリエルの一番大切な友達…



 ところでこの記憶、どうやらエリエル=ソフィアが、何かしでかしたらしいのだけれども、何をしでかしたのかはわからない。何をしでかしたのかはわからないけど…


「ああいいよ別に…俺は気にしないから」


 しでかされた本人があまり気にしてないようなので、まあ大した事ではないのだろう。


 そう…いつもエリエル・シバースの絵本を読んでくれたお兄さん…とっても優しいお兄さん…


 名前は思い出せない…


「昨日聞けばよかったな…」


 ぼそりと呟いたその言葉の意味も夢の中では良くわからない…



 分かる事はこれはただの夢ではなくてエリエルの記憶であるという事。


 エリエルの記憶のぽっかり穴の開いてしまった期間に起こった出来事なんだという事。


 夢が、自分の失われた記憶を見せてくれるというなら、このまま記憶の深い所へ入る事ができれば、その記憶の失われた理由も知る事ができるかもしれない。


 それはとても怖い事だけれど、一度そう考えてしまえば知りたいという気持ちの方が勝ってしまい、けれどどうすれば記憶の深い所へ入っていけるかなんてわかるわけもなく、とにかく記憶の深い所へ入れ入れと強く念じてみる…





「ソフィア…」




 最初に自分を呼んだ声がまた聞こえた…


 しかし今度は先程とは違う…その声の主が誰なのかがわかる…




 それはあまりに小さな時の記憶で、普段どんなに思い出そうとしても思い出すことのできない声


 けれど記憶の引き出しの一番奥に、大切に大切に保管されてた記憶…




「お母さま…」



 ぼやっとしたイメージがしっかりとした輪郭になり、やがて母親の姿になって慈しみを込めた微笑みとなり愛娘をそっと抱きしめる…



 忘れているという事は、覚えてないという事とは違う事で、普段どんなに思い出すことができなくても記憶の底に眠ってるという事なのだろうけれども、目を覚ましてしまえば、蘇ったはずの記憶はまた眠りについてしまうだろう…




 もう少しこのままでいたい…母の温もりを感じていたい…この夢がいつまでも覚めなければ良いのに…




 そう思いギュっと抱きしめた母親の身体はとても温かく、しかし意外なほど小さく、その肌は何故か大量の毛に覆われてもふもふとして…もふもふとして…


「もふ…もふ?」


「ニ、ニャー!(意訳ちょっとあなた人が気持ちよく寝ているのにいきなり何するのよ!)」



 ギュッと抱きしめた、真っ白で毛の長いタイプのもっふもふしたニャーと鳴く方の愛玩動物の怒りの叫びと共に、エリエル・シバース=ソフィア・パナスは夢の世界から現実へと引き戻される。

挿絵(By みてみん)

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