2 話
読み返すと間違いが多いことに気づく。
ベルウェンドの北大陸には竜人族が暮らしている。
長寿種族で知られる竜族は平均寿命7000歳。
だが、その寿命も魔力が高ければ高いほど伸びていく。ちなみに、現在の最高齢は白竜で8256歳。そして、この白竜は竜人族の長。つまりは【竜王】である。
竜人族に限ったことではないが、長寿種族と呼ばれる種族は子ができにくい。
竜人族が子を産むのは平均して生涯に2~3人と少なく、子はとても大事に育てられる。
子ももちろん大切な存在であるが、メスもとても貴重で大事に守られている。というのも、2000年前頃からメスの出生率が減少しているからだ。
男女比で言うと 6 : 4 。あるいは 7 : 3 か。
メスが少ないという理由からオスがメスを攫うーーといっても愛を懇願するだけーー犯罪が起こるようになったため約1000年前からは一夫一妻制を廃止。一妻多夫制が認められるようになったほど深刻な状況だ。
竜人族のオスはとても【愛情深い】
いや【嫉妬深い】と言い変えた方が良いか。
だから、妻を共有するという考えの一妻多夫制を好ましく思っていない。
だが、オスが多くメスが少ないのは事実。
伴侶を得たいのはどのオスも同じ。だから、未婚のオスは全力で気にいったメスにアピールし、メスの同意を得てーー夫がいれば夫にも許可を得るーー婚姻を交わす。
これが【ルール】である。
しかし、神の祝福を受けた番同士にはこの【ルール】が当てはまらない。
祝福を受けた番同士に限り一夫一妻制なのだ。
現在、この【ルール】に当てはまらないカップルが竜人族には 3 組いる。
竜王である白竜。
竜騎士団長である青竜。
医療班長の黄竜。
そして、新たにもう 1 組 のカップルがーーこれからまもなく誕生する。
そのカップルは将来 、人々から賞賛される存在となるのだが。
それはもう少し先の話。
□□
竜王城の地下牢に1人の男いた。
その男の手足は太い鎖で繋がれている。
散々暴れたのだろう。手足からは血が滲み、皮膚が赤黒く変色していた。
身体は埃で薄汚れ、身に纏っている服はボロ雑巾のように変わり果て、辛うじて下半身が隠れている状態だ。
以前、牢番の腕を食いちぎろうとしたこともあり、口には猿轡がかませられている。そして、首には魔力を抑えるための特注品の首輪が 3つ、取り付けられていた。
男はーーこの世界に絶望していた。
何年も、何年も気が狂うほど番を待ち続けた。
300年くらいまでは己の精神力で自我を保てていたが、それももう無理だ。
番が現れることはなく現在に至り、男が生まれてからすでに551年がたっていた。
もうーー心が限界だった。
こんな世界、なくなってしまえばいい。
男は本気でそう思っていた。
破壊、してしまおうか。
そうだ。
こんな世界、壊れてしまえ。
「ク、クククっ……」
笑いが込み上げてくる。
怒りで魔力が膨れ上がり、特注品の首輪がピシリと音を立て悲鳴をあげる。
首輪もーー男の魔力を抑えられず、限界を迎えようとしていた。
「 ………シン・ヴィーヴル。魔力を抑えよ。己を保て」
鎖で繋がれたーーシン・ヴィーヴルと呼ばれた男はゆっくりと顔を上げ、血走り充血したドス黒い感情を宿した瞳で目の前に立つ竜王 エリシュ・パトリムを睨みつけた。
エリシュはシンの瞳を見据えたまま静かに告げる。
「 シン。マカラの番が卵を産んだ。その卵には見たことがない紋様が浮かんでいると先ほど報告があった」
エリシュの言葉を聞き、シンの身体がピクリと反応した。
マカラとは医療班長のことであり、人目をはばかることをせずイチャつくバカップルだ。
「シン。マカラの卵がお前の番だと決まった訳ではない。ーーが、会ってみるか?」
シンは、間をあけてコクリと頷いた。
その顔には期待と不安、そして希望と絶望が入り混じった複雑な感情が浮かんでいる。
会ってみたい。
だが、その卵は俺の番……なのだろうか。
いや、番とは限らない。
でも……もし番ではなかったら?
俺は。
ーー完全に壊れてしまうかもしれない。
エリシュは、マカラの卵がシンの番である可能性が高いとは感じていた。
だが、どこにも確証はない。
これは賭けだ。
ーーシンにとっても竜人族にとっても、このベルウェンドという世界にとってもーー最後の賭けだとエリシュは感じていた。
賭けに負ければ、竜人族は消滅し、最悪、この世界の半分は確実に黒土と化すだろう。
賭けに勝てば、世界はいつもと変わらず、シンは番を得て幸せに……。
どうか、シンの番であってくれとエリシュは神に祈った。
「シンの鎖を外せ」
エリシュは牢番にシンの鎖を外すように命じ、ふらつくシンを連れて牢を後にした。
マカラのところへ行くのにボロボロの姿では会いにいくことは憚られる。
シンは武官に支えられながら風呂に入り全身をゴシゴシ洗った。短時間で風呂から上がり、長く伸びた髪を切ることもせずに結い上げ、用意してもらった儀式用の黒衣に袖を通すと、すぐさまマカラの元へ行こうとしーーーエリシュの側近であるナーバルに止められた。
「すぐにエリシュ様が参られます。暫しお待ちを」
止められたことに怒りを露わにし、ギリッとナーバルを睨みつける。
睨みつけられたナーバルは、身を竦め震えながらもシンの行く手を阻む。
シンの怒りに反応して身体の奥から魔力が湧き出てくる。感情が制御しにくくなっており、縋りつくナーバルを振り払い暴れたい、破壊したいという衝動に駆られる。
「シン様。いま城で暴れると卵が傷つきますよ」
ナーバルの言葉にハッと我に返った。
目を瞑り深呼吸をひとつ。
グッと怒りを鎮める。
城で暴れたらマカラのいる医療室(にある卵)が影響を受けてしまうかもしれない。
番が死ぬーー自身の手で番を殺してしまうかもしれない可能性を示唆されたシンは、ナーバルを見つめた後、身体の力を抜きうな垂れた。
ーーマカラの卵に会いたい。会うまでは大人しくしていよう。
そう心の中で呟き、大人しくエリシュを待った。
□□
ポカポカ〜 暖かい〜。
とっても幸せ。
う~。誰かが、私を呼んでる声がする。
呼んでるのはだあれ?
そんなに悲しそうな声で呼ばないで。
すぐに……あぅ。
ごめん、身体がまだ動かないみたい。
だから、もう少し待ってて。
もうすぐだから
待ってて……
竜人族のメスは割とタフですが、夫となるオスの愛情を複数受け止めることは難しいと考えています。なので、夫は1人か、2人。
オスの愛情はとても重いのです。
マカラの卵 = マカラの番が生んだ卵 を略しています。マカラ(オス)が生んだ卵ではありません。




