13 話
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ヒナトゥナの服作りのため、ガイナスの元を訪れた俺たち。採寸をするべく本が積み上げられた部屋へと通されたが、そこにはすでに先客がいた。
誰かと思えば、ガイナスの 妹 のアイリスと俺の両親ではないか。
優しそうな柔らかい雰囲気のアイリスと対象的に、目が少しつり上がり性格がキツそうに見える母。仁王立ち姿の父は、他国からも恐れられるこの国最強の騎士団長というだけあって、威圧感が半端ない。
母が腰に手を当てた状態で口を開く。
「シン。これがあなたの番なの? 私の方が何倍もあなたにふさわしいと思うのだけれど……小さな番さん、貴女もそう思わない?」
ーーーはっ?
何を言っているのだ? 母上
「私の方が何倍もあなたにふさわしい」とはどういう意味なのか。横恋慕する者のような台詞にただ唖然。ヒナのを見ると眉間にしわを寄せており「浮気相手?!」ガーン…みたいな顔をしていた。
バカな。俺はヒナトゥナ一筋だ。
というか、この人は俺の母であって、どうやっても浮気相手にすらならない。
いや、浮気をするつもりもないのだが。
それよりも、父の視線が突き刺さって痛いから、そういうことを言うのをやめてくれ!
父の視線の痛みに耐えながら、母に「何故連絡をよこさなかったのか」と言われ、あっそういえば連絡してなかったなと気付いた。
やっと現れた 番 に夢中になって、すっかり両親のことなど忘れてしまっていたのだ。
両親だって、ずっと俺のことを心配していたはずなのに、悪いことをしてしまった。
申し訳ない。
俺がひとりで猛反省していると、ヒナトゥナが突然泣き出した。
なっ!?
どうして、何故泣いているんだ?!
ヒナの身体が震え、どんどん冷たくなっていく。と同時に、小さな身体から滝のごとく魔力が溢れ出し部屋を充満。城に張られてある『結界』が悲鳴をあげはじめた。
もの凄い魔力量だ!
生まれた時から魔力が多いのは分かっていたがこれほどとは。
ヒナの異常な成長の早さも、この魔力量を耐えるためなのかもしれないな。なんて、呑気なことを考えている場合じゃない。
『転倒防止』が付与されているはずの本棚がギシギシと嫌な音を立て今にも倒れそうだ。
父がこの緊迫した状況をみて「番に接吻しろ、そうすればおさまる」と言う。
はっ、いや、待ってくれ!
そんなことしたら俺の我慢が限界を越えてヒナトゥナを襲ってしまうかもしれーーはい、すいません。やりますよ。
シンは神に祈った。
頼む。襲ってしまいませんように。
絶対に耐えてくれ!と。
結論から言おう。
かなりーーヤバかった。
母愛用の ムチ で殴られなかったら、まだヒナトゥナの唇を貪っていたかもーーいや、確実に貪っていただろう。
ヒナのぷっくりとした唇は甘かった。
いつまでも味わっていたいと感じるくらいに。……これ以上は、身体のある部分が熱を持ってしまうので、想像することをやめることにする。
ヒナトゥナは今、俺の腕の中でぐったりしている。
そして、囲むように見つめる3つの目ーー呆れ顔の父。ヒナを心配そうに見つめるガイナスの妹アイリス。目を吊り上げ怒る母。ーーの姿がある。
そもそも、この原因を作り出したのは母だというのに、何故母が一番怒っているのか。
そして、何故俺はこんなに謝っているのか。
摩訶不思議だ。
やっと許してもらえたところで、アイリスがティータイムをしようと言い出し、母が賛成した。父は仕事があるからと言って退室しようとしたが、アイリスと母に阻まれている。
それよりも、ガイナスはいつ戻ってくるのか。いつまでヒナトゥナはシーツ1枚でいなければならないのか。と思っているとガイナスが戻ってきた。
なんでも、突然膨大な魔力が城の内部から発生し『結界』が破壊されそうになり『非常事態レベル』が M A X に。
突然の緊急事態に採寸している場合ではなくなり、慌てて持ち場へ戻ったが、しばらくしてヒナトゥナが原因であると報告を受けたので引き返してきた、とガイナスは語った。
すまん、騒がせて。
ヒナトゥナの分も謝っておく。
その後、急ぎ採寸を済ませたガイナスは、自室にこもり僅かな時間で服を仕立ててくれた。
その腕前は見事なもので、あちらこちらに花を模した刺繍が施してあるそれは、陽だまりのように柔らかな可憐な花柄のワンピースだった。
それともう1枚の大人用の服は色違いの青。だったのだが、ここで女性陣からクレームがあり、詰まっていた胸のラインを少し大きめに広げ、ゆとりを持たせたものに変わった。
母曰く
「あら、この服じゃだめよ。ここの胸の部分はもっとゆとりを持たせなきゃ絶対に着心地悪くなってしまうわ。だって、この子の母親はあのリラメラなのよ? 確実にデカくなるに決まってるじゃない 」
という言葉があったからだ。
俺は激しく納得し、思い出した。
ヒナトゥナがリラメラ様の胸を見て激しく喜んでいたことを。
最初は喜んでいる理由がわからなかったが、ヒナが寝言で
「……ママくらい胸を大きく!」
「……小さい胸はさよーなら」
「……シン様も大きい胸が」
などなど…涎を垂らしながら呟いていた。
ちなみに俺は、ヒナトゥナであれば全てが愛おしいので、大きかろうが小さかろうがどちらでも大丈夫だ。
もし今起きていたら、飛び跳ねて喜んでいたであろう母の言葉だったが、残念ながら今は絶賛気絶中である。
また教えてやるからな。
後日、大人服での母の言葉をヒナに伝えてみたところ。
「やっぱりそう思う!? やっぱり大きくなるに決まってるよね!! シン様のママ大好き!! そう、そうなのよ! もうひんぬーとはオサラバなのよ!! これから私の胸はどんどん成長して、バーン!ってババーン!ってママみたいに大きくなる予定なのよ!!…… (その後の台詞は割愛)」
とにかく喜んでおりました。




