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ドロップアウトからの再就職先は、異世界の最強騎士団でした~訳ありヴァイオリニスト、魔力回復役になる~  作者: 東 吉乃
第三章 生き方の決め方

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112.叶わなかったもの、叶え得るもの、どちらも心一つで


 ハウゼン邸にて心温まるもてなしを受けた翌朝、真澄たちは宮廷へとそれぞれ戻った。

 敷地に入ったところで宮廷騎士団組──ヒンティ騎士長、ハウゼン三席、ロベルト=クライフ、そしてシェリル──と別れ、真澄とアークはそのまま第四騎士団の訓練場へと向かった。

 やることが山積みだからである。

 アークは訓練の様子をざっと確認した後、執務室へと戻った。近衛騎士長であるカスミレアズがまだ療養中であることに加え、エルストラス遠征の準備と第二訓練場建設、進めなければならない大型案件が二つもあり猫の手も借りたい状況なのである。真澄は真澄で楽士団の準備が急務だった。

 訓練場の真澄の部屋へ入ると、茶飲み休憩の指南役が二人と楽士が五人、練習に励んでいた。真澄の戻りに気付き、皆が温かく迎えてくれる。それに笑顔で応えながらも、真澄は手で練習の続きを促した。

 再び曲が流れ出す。

 それを背中で聴きながら、棚にところ狭しと詰め込んでいた楽譜の束を引っ張り出す。楽士候補生の養成計画を練るためだ。


 碧空楽士団、その一期生。


 取っ掛かりに十人ほどは見れるだろうか。真澄だけではなくシェリルも講師として力添えを頼めるのがありがたい。半年ほど様子を見て、軌道に乗っているようであれば順次増やしていけるだろう。

 多少効率が悪くとも、最初は子供ではなく大人の候補生が欲しいところだ。

 技術習得という意味で子供の伸びが良いのは分かっている。大人から始めたとして、専属契約の補正も合わせた上でどの程度ものになるかを見極めたいのだ。

 この楽士団はできる限り広く門戸を開きたい。

 それは楽士を志望する者、楽士を求める者、双方に対してである。

 幼い内から育てれば一級線になるがどうしても時間がかかる。理想ではある、しかしそれは遠い。大人からでも充分な補給線に成り得るのであれば、双方にとって当面それが最善となる。

 できるだけ早めに人を集めたい。

 その為に、──

「……」

 深い思考がそこで不意に遮られ、真澄は目を瞑った。

 あー、と。

 胸の内で呟きながら振り返る。そこにはちょうど一曲を終えた五人がいて、彼女たちと目が合った。

「……すみません。中々揃えられなくて……」

 中の一人が心底申し訳なさそうに項垂れる。

「うーん、前よりは良くなってるけどねえ」

 苦笑しながらも真澄は手にしていた羽ペンを置いた。彼女たちに自覚があって、かつ真澄も承知の事実。


 それはいわゆる「色んな『ラ』がある」状態を指す。


 曲の終わり、最後の決め音。ぴたり揃うのが理想だが、楽士としてのレベルにばらつきがあるとそれは微妙にずれてくる。同じラであったとしても、だ。それはとりもなおさず個々人の音感の差でもある。

 アマチュアオーケストラにありがちな話で、頭数は揃っていて音の厚みはあるものの、曲の完成度としては微妙──未成熟な状態をいう。

 ウィーンフィルやニューヨークフィルは全員がヴィルトゥオーソ、いわゆる超絶技巧の持ち主といっても過言ではなく、それを支える大前提としてそもそも正しい音程を取れないもの、つまり絶対音感を持たないものは淘汰される。それは彼らが世界最高峰のプロ集団であるからだ。求められる技量は遥かな高みにあって、研鑽を怠ることは許されない。

 翻ってこの世界はどうだろう。

 およそ半年ほどを過ごした真澄から見るに、音楽はそれぞれの家の門外不出であって体系立てた指導方法は確立されていないように見受けられる。

 これをできる限り平準化──最低限のレベル、少なくとも極力同じラを出せるように──しなければならない。音感を鍛えるだけ鍛えて、楽士として一人前に育て上げるのだ。候補生にも厳しい要求となる。

 一筋縄ではいかないだろう。

 とはいえ今後も踏まえて一期生で脱落者を出すのは避けたい。その意味で、広く候補を募るといってもその資質は厳選せねばならない。器用不器用よりも、辛抱強く努力研鑽できるかどうかが重要だ。

 それをどう量ったものか。

 いきなりぶつかった高い壁に、結局真澄は午前中一杯を費やし悩んだのだった。


*     *     *     *


「とはいえそんなすぐに思いついたら苦労しないわよね」

 昼を過ぎて一人になった部屋の中、真澄は背伸びをしながら呟いた。

 指南役たちは訓練に、楽士たちは楽士棟へと戻っている。

 真澄は色々なことを平行して考えながら、今は改めて楽士養成のための教育計画を練っていた。

 目の前には楽譜の山がある。

 昨日楽士長にもらった一式と、仕舞いっぱなしにしていた自分のそれを引っ張り出して棚卸し中だ。難易度別に仕分けしながら、育成に良さそうな曲を選んでいる。

「これはこっち……バッハは入れるか……モーツァルト……も。これは……はいはい、パガニーニ先生はダメですね」

 つい独り言を呟きながら手を動かしてしまう。その方が考えが整理されて良い塩梅なのだ。

 次から次へと流れに乗って仕分けを続けていたが、しかしそれはあるところで止まった。

「なんだっけ」

 自分の楽譜の山の中に、焦げ茶色の筒が一つ。首を捻りながら開けると中からは一巻の羊皮紙が出てきた。

「あー、これ。アンシェラからもらったやつだ」

 懐かしさについ声を漏らす。

 それは春の叙任式の後、ヴェストーファから去る時に、アンシェラ──旧家の大貴族、メリノ家の令嬢──から託された楽譜だった。

 彼女の姉であるイヴはエーヴェという楽家へと養子に出ていて、メリノ家を継ぐのは妹のアンシェラしかいない。しかし降るほどにある縁談はいずれも芳しくなく、彼女は家を継がずに次の春には帝都のデーア神殿へ入ることになる。

 この楽譜は彼女の母の形見だと聞いた。

 来年の春、また叙任式でヴェストーファへ赴いた時に弾く約束をしたのだが、それももう叶わないものとして諦めるしかないだろう。デーア神殿に入るということはすなわち俗世を捨て巫女になるのだ。神に仕える身となれば生活の制限も多くなるだろう。

 残念に思いながらも、折角の機会なので真澄はその譜を変換し、試しに弾いてみることにした。

 昼下がり、誰もいない部屋に響く音。

 一曲を通して弾き終わってから、真澄はヴァイオリンを抱いたまま譜面を覗きこんだ。

「なんだろ……あんまりアルバリークっぽくないっていうか」

 とても美しい曲であるのは間違いない。

 しかしゆったりとした単旋律は技巧的とはほど遠い。語弊を恐れずに評すのならば、魔力を回復する気がなさそう、とでもいえばいいだろうか。真澄がこれまで出会った数々のアルバリーク譜と比べるとかなり異色である感は否めなかった。


 確か、アンシェラの母がとある楽士から贈られたのだといったか。


 この曲にはひとかたならぬ想いが滲んでいる。

 これを聞いたことがないというアンシェラには、やはりどこかで聴かせてあげたくなった。

 再び真澄は弓を走らせる。

 どうやったらアンシェラにもう一度会えるだろうか。デーア神殿に入ってしまえば、帝都にいるとはいえおいそれと会えはしなくなるだろう。確実なのはヴェストーファを訪ねることだが、しかしそれもエルストラス遠征がどれくらいの期間に亘るのか、それ次第か。

 考えている内に曲は終わっていた。

 閉じていた目を開けて息を吐く。美しいが故に耳に残る旋律で、あっという間に暗譜ができてしまいそうだ。

 と、部屋の扉がノックされる。閉めていた扉に向かって返事をすると、顔を覗かせたのは思いがけない人物だった。

「こんにちは」

「リシャール? どうしたの、こっちに来るなんて珍しい」

 穏やかな笑顔を浮かべながら部屋に入ってきたのはリシャール=ガウディ、グレイスの兄だった。

 武楽会も終わった時分、第一騎士団所属の彼がわざわざ第四騎士団を訪ねてくるのは珍しい。何事かと訝りつつも真澄はソファを勧め、リシャールもそれをすんなりと受けた。

 どうやら急を要する話題ではないらしい。

 常備している茶を出しながら真澄も座ると、リシャールが「今弾いていた曲は」と尋ねてきた。

「作曲されたんですか?」

「ううん、違うわよ。人から貰った譜面」

「……そうですか」

「気に入った? もう一回聴く?」

「あ、それは嬉しいですね。ぜひ」

 相好を崩したリシャールを見ながら真澄の頬も緩む。そして三度目の旋律を奏でた。


 リシャールは最初、俯きがちに聴き入っていた。

 曲は何度か繰り返す。

 やがて途中から、低く心地よい音が重なった。リシャールの薄く形の良い唇が動く。歌っているのだと気付いた時、響く音にいつも以上に弦が震えた気がした。

 さすが楽士大家の出身だ。

 リシャール本人は楽士としての才能に恵まれず騎士の道を選んだというが、楽器を使わずともその音感は飛び抜けている。安定したその運びについ真澄は主旋律を外れて副旋律を奏で、その和音の響きを楽しんだ。

 気付いたらしいリシャールが苦笑する。

 しかし真澄が片目を瞑ってみせると、彼はそのまま最後まで歌ってくれた。


「さすがガウディ家、良い音感してるわねー」

「やめて下さいよ。俺は出来の悪い嫡男なんですから」

「楽器の腕は知らないけど音感に関してはただの事実を言ったまでよ。あれ、でも……」

 軽口を叩きながらもそこで真澄は違和感に気付いた。

 いくら図抜けた音感だからといって、なぜこの曲に合わせることができたのだろう。というよりむしろ、リシャールは確実にこの旋律を知っていた。譜面に違わぬ確かな主旋律、それを確信したからこそ真澄は副旋律を弾いたのだ。

 この曲はアンシェラの母の形見のはずだ。

 人から贈られたというそれはメリノ家の中でずっと眠っていて、真澄の手に渡って初めて日の目を見た。

「……どうして歌えるの? これ、多分公開されてない個人所有譜のはずだけど」

「実は俺も驚いてるところです。なぜあなたがこの譜を持っているのか」

 困ったような笑顔を浮かべてリシャールが頭を掻いた。

「ご相談したかった本題とも関係がありすぎて、正直どこから話したものか……とりあえず、楽譜の入手先を教えてください。ヴェストーファのメリノ家で間違いありませんか?」

 問われたことに真澄は驚きを隠せなかった。

 一つ頷いた真澄に対し、リシャールは「巡り合わせとは不思議ですね」と呟いた。

「この曲は自分の父が作ったものです。贈った相手は幼馴染で、後のメリノ家夫人──アンシェラとイヴの母君です」


*     *     *     *


 最初から叶わないと決まっていた恋。

 リシャールは自身の父親の過去をそう言った。


 アンシェラの母ヒルデは帝都に居を構える貴族の出身だった。知らぬ者のいない旧家だ。メリノ家同様、いわゆる新興貴族とは一線を画す家で、今でも本家はこの帝都にあり他の追随を許さぬ威容を誇る。

 ヒルデはリシャールの父、ユーグ=ガウディから求婚されていた。

 但しそれは幼い約束だった。

 幼馴染だった二人は互いに想いを寄せていたが、ユーグは貴重な楽士かつガウディという大家の跡取りのため、自由な結婚はできなかった。ヒルデもまた旧家の娘であり自分で相手を選べないのは百も承知だった。

 秘められた小さな恋。

 期限付きの、と言ってもいい。二人はやがて来る別れを確実に理解しながら、それでも一緒に日々を過ごした。かけがえのない時間はさながら貴石のごとく輝いていた。

 そうして成人を迎える十五の年にヒルデの結婚が先に決まった。

 その時点で二人の決別は確定した。いかな幼馴染といえども、ユーグとしては相手の決まった人間においそれと会いに行くことは許されないし、ヒルデもまた婚約者がいる身でむやみやたらと異性と過ごすなどもってのほかだった。

 愛していなかったわけではない。

 簡単に諦めたというのとは少し違う。互いに相手が傷付かぬよう最大限に尊重し合った結果が、その別れだった。

 結婚の報告をした時にヒルデは別れの詩をユーグに贈った。受け取ったユーグはその日の夜に曲をつけ、ヒルデが帝都を発つ日の朝、譜面を彼女に渡した。

 その後ヒルデは一度も帝都に里帰りすることなく、嫁いだ先のヴェストーファで二人の娘に恵まれながらも早世した。


 一方のユーグはヒルデを見送った後、宮廷楽士として出仕した。

 確かな腕は宮廷内でも評判で、並み居る他家の楽士を抑えて当代随一と謳われていたという。それが証に、ユーグは出仕三年で今の宮廷魔術士団長であるイェレミアス──現国王陛下の姉、アークから見て伯母にあたる、アルバリークが誇る『熾火』の一人──の、専属になった。

 しかしガウディという家の為に、その専属契約はあくまでも補給のみに限定されていた。

 実際の婚姻は別の楽士を迎えており、それがリシャールとグレイスの母である。こちらはアーステラ家からの出であり、大家同士の繋がりと技術の伝承という二つの意味で大変に重要な婚姻だった。

 結局ユーグは生涯を楽士として生き、その全てを家の存続の為に費やした。

 専属が二人いるも同義の二重の生活。あまりにも卓越した演奏技術に補給任務は引きも切らず、一年で数日も休めない日々が何年も続いた。そんな無理が祟り、ユーグは娘のグレイスが生まれた翌年に亡くなった。

 三十七歳という若さだった。


*     *     *     *


「曲名は『愛のかたち』というそうです。父が死ぬ前、病床にあった時に自分にだけ聞かせてくれた思い出話でして」

 だから知っていたのだとリシャールが笑った。

 銀色の瞳、まなじりが優しく細められる。きっとそれは母も知らない、男同士の秘密だったのだと言って。

「今思えば良い話と思えますが、当時は幼心に責任重大だと肝が冷えました。それくらい、ガウディ家の跡取りは自分を厳しく律して滅私奉公しなければならないのだと思いまして。父が死んだのは俺が七歳の時です。十歳の時に楽士適正なしで騎士の道を許されましたが、それまではもう毎日が憂鬱でした。俺は本当に出来の悪い嫡男なもので」

 これまでガウディ家は必ず楽士同士が結婚して家を維持してきた。つまり家督を継ぐ者は必ず楽士でなければならず、かつ楽士の伴侶を得なければ家督相続は認められなかった。そうすることでガウディ家の姻戚は増えてきたし、ガウディ家の権勢も盤石なものとなってきたのだ。

 ユーグ亡き後、ガウディを守ってきたのはリシャールの母である。

 しかしそれはリシャールが楽士として大成し、やがて楽士を娶るまでの繋ぎだと折に触れ言い聞かされてきた。とはいえ、どうあっても父ほどに上達できそうにない己の腕に罪悪感だけが募り続けた。


 そんなリシャールを救ったのが妹のグレイスだ。


 二歳からヴィラードを弾き始めた彼女はその才能を早い内から開花させ、ガウディの家督相続に問題がないことをその身を以って示した。技術そのものだけでなく、妹はヴィラードを弾くことそのものが楽しい、誰かの為に在れることを誇りに思う、と小さな頃から純粋に楽士として生きる道を望んでもいた。

 そんな娘を見て母は安心し、そこでようやく息子のリシャールを諦めてくれたのだ。

 だからリシャールにとってグレイスは、妹でありながら人生の恩人でもあるのだという。楽士という責務から解き放たれたに留まらず、望んでいた騎士にまでなれたのは、他でもない彼女がいてくれたからこそなのだ、と。

「だからね、俺はグレイスにだけはどうしても幸せになってもらいたいんです」

 それで折り入っての頼み事があり、今日はここに来た。

 リシャールはそう続けた。そんな兄心に真澄の頬も自然と緩む。

「勿論私にできることは協力する。私だってグレイスには幸せになってほしいもの」

「ありがとうございます。早速ですが、サルメラ家相手に啖呵を切ったと噂を聞きまして」

「えーと、ちょっと待って話が繋がらない」

 茶目っ気たっぷりに含み笑いをするリシャールに思わず真澄は突っ込んだ。

 意味不明である。

 グレイスの幸せと真澄の切った啖呵の一体何がどう繋がるのだ。怪訝な顔しかできない真澄に、「また一つ伝説が増えましたね」などと茶化しつつも、リシャールが背筋を伸ばした。

「碧空楽士団を創設されると聞き及びました」

「はやっ。噂の広がる勢いがすごいわね……そのつもりだけど、それが何か?」

「そこにアンシェラ=メリノ嬢を楽士候補生として受け入れて頂けませんか」

「は? え、アンシェラを?」

「ええ。将来的に俺の専属として申し込みたいので」

「は!? 専ぞ、え、アンシェラに!?」

「ええ。まあ楽士として大成できなくても俺は構わないんですけどね。どうあれ申し込みますし。ただそこは一応、建前上ということで」

「ちょ、……ちょっと待って、待って、全然話が繋がらない!」

 突然すぎる申し出にとうとう真澄はギブアップした。

 あまりの情報量に眩暈がする。

 それら一つ一つを順に確認したいくらいだったが、どれも同じくらい重要すぎてどこから話を詰めていいのかお手上げだ。

 焦る真澄を見ながらリシャールが銀の瞳を細めた。

「ですよね」

 様になる笑顔のままさらりとリシャールが頷く。いっそ清々しい。そして彼は言った。


 自分の妥当な(・・・)婚姻が決まらない限り、いつまで経ってもグレイスが嫁げないのだ、と。


 その言葉を斟酌し、とある矛盾に真澄はふと気付いた。

「お母様はグレイスをガウディの跡取りとして考えてるのよね? でも確か『家督を継ぐのは俺だ』って」

 武楽会中、グレイスとフェルデがぶつかった時のことだ。

 対アナスタシア戦を終えたカスミレアズのもとへ行こうとしたグレイスをフェルデが止めた。ガウディ本家の楽士にそんな自由──つまり婚姻相手を楽士以外に定める、というそれ──は、許されていないくせにと揶揄したのだ。

 その時にリシャールが悪意を真っ向投げ返した。

 間違いない。今でも記憶に残っている。途中で抜けたグレイス自身は最後までそれを聞いてはいないが、リシャールはグレイスを守る為に一族を挙げてフェルデを補給対象から外すとまで宣言したのだ。あれは間違いなく次期当主としての発言だった。

 しかし。

 片やグレイスはそんな兄の発言を知らず、今でもガウディ本家を継ぐ気でいるはずだ。相談を受けた真澄だからこそ断言できる。

「ねえリシャール。一体なにを企んでるの?」

「企みですか。そうですね……いうなれば」

 出来る限り全員が幸せになれる筋書を。

 そう言ってリシャールは丁寧な笑みを浮かべたのだった。


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