異世界からの来訪者2
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誰かの会話が聞こえる。
それをぼんやりとした意識の片隅でとらえる。
……い。反応回復しましたっ、生きています!
……なんということだ、信じられん……。直ちにご家族を呼んで……
…………
……カシ!……タカシ!……
再び意識が途切れた。
ピ――ピ――と、なにやら甲高い音が鳴り響いている。
それに誰かが俺の傍らに佇む気配を感じる。母だろうか。
しばらくじっとしていたら次第に音もはっきりと聞こえるようになった。傍らの人物は歌を口ずさんでいた。その声は若々しいものであったため、どうやら母ではない。しかし確かに女性が俺の部屋に来訪しているようだ。
しかしなぜ?
心当たりは全く無い。
我が繊細にして脆弱な対人メモリアル(女性編)を紐解くまでもない。なぜならそんな物は一ページも存在しないからだ。ちなみに母ちゃんは含まれない。
しかしまあ、何の因果か知らないが、我がテリトリーに踏み込んできた初めての女性を前にして凝然と狸寝入りを続けるのはいかがなものか。ここは一つこのチャンスを十二分に活かし、彼女との清純な関係を築き上げるべきではないのか。こんな機会は二度と訪れないかもしれないのだ。これまでの人生に鑑みるに、その可能性は十分有り得る。
迷うまでもない。
ここらでいっちょ青春の一ページを書き込んでみるのも悪くない。
しかし気付く。この場合、どのように起き上ればよいものか。自然に身を起こせばそれでよいのだろうか。そしておはよう、と爽やかに挨拶。でも見知らぬ他人に? この動じなさが逆に気持ち悪く感じないだろうか。
かといって、さも今目覚めんといわんばかりの名演技を披露できる自身もない。珍芸を見破られるのがオチだ。
ならばいっそ、驚かしてみようか。愛嬌を以て相手の心の内側に華麗に滑り込むという作戦だ。
よし、これでいこう。善は急げだ。決意を固めてからの俺の潔さは世界に誇れる。
「わあおぅ!!!!」
子供を脅かすときのように両手を大きくあげ、大声とともに上半身を跳ね起こした。
「ギャア!!」
隣に座っていた女性は飛び上がって驚き、椅子ごと後方へ倒れ込んで盛大な音をたてた。
俺は笑った。予想以上の結果、考えられうる限り最高の結果それ以上を出せたようで、満足した。何か目的を誤っている気がしたが、気にしないことにした。
「ん、大丈夫か?」予想以上に長い間寝転んでいる。起き上れないのだろうか。覗き込んでみる。
と、その時になってようやく異変に気付く。
「……どこだ、ここは」
清潔感溢れる白塗りの壁に囲まれた部屋に、同じく純白の寝床がいくつか見当たる。部屋に置かれている機械の全てがそれまで見たことも無かった形をしていて、その一つからは透明の管が俺の体に伸びていた。
そこで更に俺は驚いた。
縮んでいるではないか。
身長は低い、腕も足も細く、筋肉は膨らまず、子供のような体つき。これでどうやってあの魔物どもの猛攻を切り抜けろというのだ。剣を持ち上げることすらままならないのではないか。
いったい全体どういうわけであるか。誰ぞ説明を求む。
不安になってきて、ふと隣の女性を思い出す。まだ起き上っていない。
兵舎の寝床と比べると格段に快適なここの寝床から、身を乗り出して覗き込む。
その女性は……というよりも少女に近い彼女は、顔はよく見えないが、万歳のような格好で失神していた。
「あり?」
冷汗が出る。呆然としていると、ぱたぱたと部屋の外から足音が近づいてきた。