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推理はファンタジーの世界で

作者: ベイリー

推理ものとファンタジーの世界の融合作品。

勢いで作ってしまったものなので温かい目で見守ってくだされば幸いです。

ボフボフという音とともに、時折、リズムよく金属を叩く音が響いている。

心地よい春の光が差し込む窓辺はポカポカという言葉がふさわしい。

「ひま」

まさにその一言に尽きる。


ここはファルタレイン町の鍛冶屋『剣たろう』。

ぼく『ハート』は、今この店の店番をしている。

でも今の時間はあまり人は訪れない。昼下がりの今は、剣を買いに来る兵士や傭兵は働いている時間だ。

そもそも鍛冶屋に訪れる人なんていうのは少ない。普通の人は武器屋に行く。

ここに来る人はそれなりに剣にこだわりを持っている。だから、普通の人はまず来ないのだ。


そもそも、外にはモンスターという生き物がいて、世界は魔王なんていう存在がいるらしいが、ぼくはまだ見たことがない。世界は破滅の一途だ、と新聞で騒がれているが、こんなのどかな窓辺を見ているととてもそうは思えない。

「おい 見ろよこれ」

となりにいる少年――ライクは微笑みながら新聞を手渡した。

そこには白いシャツに青いタンクトップ、頭には芸術家がかぶるようなベレー帽を装備した大柄な男が載っていた。

「これは誰だい?」

ぼくがきくと、ライクは言った。

「探偵なんだってさ!

おれは探偵っていうと、こうシュッとしていて、ひょうひょうとしているイメージがあったから……珍しいよな!!」

なるほど。そう言われればそうかもしれない。肉体派の探偵なのだろうか。だとしたら殴って解決していそうだ。

ライクは2年ほど前にこの鍛冶屋の前で倒れているところを拾われた子だ。

なんでそうなったのか、今でも経緯は不明なままだ。


2人で話をしていると急に金属の音が止んだ。どうやら一本仕上がったらしい。

……と思っていると、奥の部屋から声が聞こえてきた。


「おい」


……嫌な予感がする。

「はーい」

一体何を言われるんだろう……何かまずいことでもしたんだろうか……

心臓の音が聞こえる。


「なんですか?」

「おう。この袋の中に入っている剣を王都まで持って行ってくれ」

「……え?これ全部ですか?」

言われた袋を覗いてみると、剣ががしゃがしゃと入っていた。20本はある。大人でさえこれだけの量の荷物を運ぶのは大変だろう。それを子供に任せるとは……

「いいか。これを依頼してきたのは、とっても偉いお方なんだ。くれぐれも傷をつけたりしてくれるなよ。

それからこれを明日の午後2時、きっかりに王都の凱旋門にいる兵士に渡すんだ。分かったな?」

「……もしできなかったら……?」

ぼくは恐る恐る聞いた。

「おれの顔が鬼になる」

怖すぎて物も言えない……自分の子供だというのになんという接し方なのだろう……

そもそも普段から鬼のような顔なんだ。それよりも鬼になるってどういうことなんだ!

「ああ、そうそう。さすがに子供1人じゃ辛いだろうからライクと2人で行って来いよ。

それから、今から出発してむこうで1泊しろ。絶対遅れることは許されないからな!」

ぼくは1泊という言葉に胸がおどった!

「1泊!? 宿に泊まっていいの!?」

「おう。それほど重要なお客様だ。分かったな?」

「了解しました~!」

こんなチャンスはめったにない!お泊りだ!

ぼくは飛ぶようにライクの元へ向かい事情を話す。

「お泊り!? お泊り!?」

ライクも嬉しそうだった!

ぼくらはすべての準備を完了させた。二人の背中には同じ白い荷物袋。準備万端、出発した。



そんなこんなで、時間は午後6時。めっちゃ歩いた。無事王都には到着したけど、もう足ががくがくです。

「そりゃそうだろ。大人でさえ1時間くらいかかるんだ。

子供なら なおさらかかるし、重い武器を背負ってるんだからこれぐらいかかって当然だぜ」

ライクはうなずきながらこちらを見た。

すでに足が限界に達しているぼくに比べるとずっと良い表情をしている。

「なんでだろう……ライクってなんか剣術とかやってるの?」

「いや、やってないが……なんでだ?」

ライクは普通に問いかえしてくるが不思議でたまらない。

「だって、同じ量歩いているはずなのにそんな元気なのって……」

ライクは爆笑しながら ああ、というとライクが背負っている同じ白い袋の中を見せ、言った。

「だってハート、20本入った袋1人で担いでんだもん!そりゃおれより疲れるだろ!」

…………


こんばんはみなさん。午後10時です。

子供だし明日は偉い人に会うみたいなので早めに寝ようかと思いましたがそんな事はやめましたよ。

なんですか、それ。なんですかそれ。

「なんで途中で変わってくれたりしないんですか~?」

今僕たちは宿屋「アモン」の食堂にいる。

木でつくられた四角いテーブルは4人がけ。本当は2人で独占したかったが、食堂にはたくさんの人がいるため、それはやめた。今は2人並んで座っている。ランプはどのテーブルの上にも置いてあり、その光が石畳に映えている。だが、今はそんなことはどうでもいい。

「えぇ~……? いや、だって 変わって~ とか言うと思ったから……」

ライクは頭をかきながら笑っている。

「そりゃそうだけどさ~、変わろうかの一言ぐらいあってもいいんじゃないの~?」

「はいはい、悪かったよ」

口ではそう言っていたが、表情は変わらなかった。微笑んだような笑い方から悪気があるのかないのか読み取れない。

ぼくらは10歳なのだが、お酒を飲んでいるわけではない。

それでもほろ酔いのようなしゃべり方になってしまうのは周りが飲んでいる甘いお酒のにおいからだろう。

とてもお酒とは思えないはちみつのようなにおいがしている。早く飲めるようになりたい。

「ようようにいちゃん!そんなところでどうしたんだい?」

陽気そうなにいちゃんが話しかけてきた。1人はがたいのいいにいちゃんで、もう1人はひょうひょうとしたお兄さんだ。2人とも20歳くらいに見える。

「それがですね~!こいつがおれの事バカにしてくるんですよ~!」

「ほう、そうなのか?」

がたいのいいにいちゃんがライクの方を向く。

「そんなバカになんかしてませんよー。ハートが荷物をずっと持ち続けていた。それだけの話ですよー」

「……するって~とお前らは2人だけでここに来たのか?」

ぼくらがうなずくと、今度はひょうひょうとしたお兄さんが話し出した。

「子供だけでくるなんてすごいね!……でもなんでここに来たんだい?」

「ぼくの家は鍛冶屋で、今日はその武器を配達に来たんですよ。……まあ渡すのは明日なんですけど」

「へ~!それは偉いね!大変だったでしょ!」

ひょうひょうとしたお兄さんは続ける。顔が赤いからお酒が入っているんだろう。

「ホントですよ~!それなのにライクは手伝いもせずに……!」

「分かった分かった!悪かったって!もう勘弁してくれよ~」

あいかわらずライクは微笑むような笑い方をしてくる。



ぼくらはその2人や、そのほかの食堂の人達と盛り上がった。

初めての体験に心が躍ったが、さすがに次の日の事を考えると12時までが限界だった。

「宿屋っていうのはすごいな……ずっと居たい……」

ぼくらは食堂にいる女将さんの帳簿に名前を書く。

この宿屋では、宿から出るとき入るとき、そして食堂から出るとき入るとき、大変なことに帳簿に名前を書かなくてはいけない。そんな面倒くさそうな体験もぼくらには楽しく感じる。

帳簿を書き終わると再び歩き出す。

食堂から歩いて右に曲がると部屋があり、中に入るとそこにはまた素敵な空間が広がっていた。

ライクはベッドの上に寝転がりながら言った。

食堂と同じ石畳。あまり広くはないが食堂と違い落ち着いている。

壁にかけられたランプの炎はゆらゆらと揺れ、ぼくの手元を照らしてくれる。

ぼくは持ち物のチェックをしながら答える。

「それだね~。楽しいことはあっという間に過ぎちゃうんだよね~……」

「ん?ハート何してるの?」

「武器のチェック。荷物に傷がないか、それから数があってるかどうか数えてる

…………よし、OK! ちゃんとある」

「なるほどねぇ。慣れたものだな」

「まあね」

ぼくは調べた荷物を二つのベッドの間に置いた。


すべての検査を済ませた後、少し窓を開け星空を見上げた。

本当は2階がよかったのだが、残念ながら満室だった。

しかし、こうしてみると1階も2階も変わらない気がする。

「明日無事荷物を渡せますように。」

そう願いを込めた後、ぼくは鉛のように重い体をベッドの上にほうり投げた。



…………

おはようございます。朝8時です。

「おはよう、ハート……」

ライクはまだ眠そうだ。かくいう自分もすごく眠い。立ったまま寝ることもできそうだ。

「おはよう……」

そう返すとぼくもゆっくりと立ち上がり食堂へ……あれ?

「ねぇライク。ここにあった荷物動かした?」

「……いや?」

「……………………」

「あああ!」

「やっちまった!」

こうなってしまってはもうパニックだ!さっきの眠気はもう既に感じない!

「うおおおお!」

「ああああああ!」

「いやああああああ!」

「おいどうしたんだ!」

自分でも信じられない大きさで叫んでいたらしい。誰かがドアを叩きながら呼びかけてきた。

「カギカギうおああああ!」

「分かった!一回落ち着くんだ!」


ぼくらは鍵を開け、落ち着いた後、現状を説明した。

そう、大事な荷物が盗まれてしまったのだ。


「どうしよう……鬼の形相で怒られる……」

困っていたその時、ある声がした。

「やあやあ、お困りのようだね諸君。」

その声には聞き覚えがある……だれだっけ?

「この事件、私が解決してみせましょう!

……名探偵ゴンザレスが!!」


……昨日のがたいのいいにいちゃんだった。



-------------------------------------


「改めて名乗りましょう!」

白いシャツ。青いタンクトップ。芸術家がかぶるようなベレー帽。

それらを身に付けた大柄な男は、間違いなく新聞で見たあの男だ。

「私が名探偵ゴンザレス!そしてこちらが助手のファントム君だ!」

ファントム君と呼ばれたお兄さんは「どうも。」と軽く会釈をする。

昨日のひょうひょうとしたお兄さんだ。黒いタキシードに黒いシルクハットを着用し、以下にもファントム――怪盗のように見える。なのに助手とはこれいかに。

「さてハート君……と言ったかね?今の状況を説明したまえ」

昨日とは違うあまりの豹変ぶりに驚いたのか、ぼくはすぐに口を開けなかった。

「実は昨日ここに置いておいたお客様への荷物が袋ごと盗まれてしまったんです。」

そう言ってライクが変わりに説明してくれた。指をさした場所は確かに昨日あった所だ。

ゴンザレスさんはふむふむというと助手のファントムさんに手招きをした。ファントムさんは慣れた手つきで荷物が置いてあった周辺に謎の粉を振りかけた。

「なるほど……。最後にここにあったのを確認したのはいつだね?」

「はい。昨日寝る前……だから12時くらいです。ここに荷物があったのを確認しました。数も数えたので間違いないです」

「それはおれも見ました」

ゴンザレスさんの問いにやっとぼくは答えた。ライクも同意する。

「なるほど。それでは犯行は君たちが寝た12時から起床する8時までの間……ということになるな……」

ファントムさんが謎の粉をふりまきながら言う。

「しかし……犯人はどういった手口で犯行を行ったのでしょうか?夜の手早い犯行とは……プロの仕業なのでしょうか?」

「まだプロの犯行かどうかははっきりしていないが……それもじきに分かるだろう」

ゴンザレスさんの謎の言葉に2人で顔を合わせているとファントムさんが動きを止める。

「では犯行を見せてもらおうか!」

ゴンザレスさんが指をパチンと鳴らすと地面に謎の足跡が浮かび上がった。

「なんですか!これは!?」

ぼくが驚いて言うとゴンザレスさんは得意気な顔をして言った。

「これは犯罪の操作に使われる魔法の粉なのさ。これを使うと振りかけた範囲内の犯人の痕跡を示してくれる。痕跡とは足跡、触った場所などなどだ。……実は一般人に見せるのはいけないのだが、君たちはまだ子供だし大丈夫だろう」

名探偵にしては抜けている気もするが、まあいいんだろう。

「それにしても、これの結果を見る限り犯行はプロの手口では無さそうだな」

ゴンザレスさんは付け足す。

見ると足跡は窓からベッドを伝って進み、曲がり、なんの迷いもなく目的の荷物の場所にたどり着いている。窓から荷物まではかなり遠い。夜のランプの明かりでは見つけられないほどだ。ここへのたどり着き方はプロのように見えるが……

不思議そうな顔をしているぼくらに向かってファントムさんは紳士な態度で言った。

「もしもプロの犯行なら、こんな痕跡は残らないのです。……どうも裏ではこれをかき消す魔法が開発され使われているのだとか……。」

「それに……」ゴンザレスさんが続ける。

「山賊などの危険なやからでもない。

やつらなら街ごと襲うはずだし、少なくとも君たちは殺されているはずだ。……夜襲ならなおさらな」

ゴンザレスさんはまるで 命拾いしたな! とでも言うような笑顔でこちらを向いた。

鬼の形相が待っていると思うと、とても生きた心地がしていないのは知る由もないと思う。

「それでしたら犯人は……」

ライクは考え込んだような言葉でつづける。

「内部犯。つまり、昨日食堂でおれたちの話を聞いていたこの宿に泊まっている人達のだれかということになりますよね?」



-------------------------------------


ゴンザレスさんとファントムさんはさらに情報を集めるとの事で宿屋に残った。

王都は名探偵の名のもとに旅立つ人たちに聞き込みをしている。

あの人はなかなか権力を持っているらしい。


「ライク分かった?」ぼくは問いかける。

「いや~全然」ライクはため息をつきながら言った。

「そもそも推理なんてしたことないしなぁ。名探偵のゴンザレスさんでも分からないのに、おれが分かるわけないだろ?」

ぼくは「そうだけどね」と相槌をうつ。

「まあ実際起こってしまったことだし、怒られても仕方ないだろ?」

ライクはなぐさめてくれたが、あきらかに恐怖の色が見て取れる。

「ちょっと、もう一回話を整理してみよう」

ぼくは怖い顔を振り払うように言った。

「まず、犯行はプロの者ではなく内部犯」

「それから、犯行は12時~8時の間。」ライクも付け加える。

「侵入場所は窓で、一直線に荷物の場所へ向かい、持ち去った。それは足跡から読み取れると。」

「……全く分からない」ぼくは頭をがしがしとかきむしった。

「そもそもあの宿には20人以上の人がいるんだよ……?

それなのに一体どうやって犯人を見つけ出すんだろう」

「あと他にヒントになりそうなのは帳簿くらいだよなぁ」

ライクは頭をひねらせ、思い出す。

「確かあの宿の帳簿は入るとき。出るとき。食堂に入るとき。出るとき。必ず書き込むはずだ。」

「う~ん……ああ、なんか怒られる気しかしなくなってきた」

ふと時計を見ると昼の12時を指していた。約束の時間まであと2時間しかない。

ぼくらは頭を悩ませながら宿屋へと戻る。きっとその顔は青ざめていただろう。

しかしそんな気分はすぐに消え去ってしまった。

「おお!君たち!犯人が分かったぞ!」

宿屋へ戻るとゴンザレスさんが笑顔で言った。

「本当ですか!!!」ぼくは目を輝かせながら言う!

「ぜひ聞かせてください!」ライクも同じ顔をしている!

ゴンザレスさんは「うむ。」というと、食堂に案内してくれた。食堂にはファントムさんを始め、宿屋にいた人達全員が集められている。

「それでは、みなさん」ゴンザレスさんは後ろ手を組むと、ゆっくりと話し始めた。



-------------------------------------


「みなさん」

ゴンザレスさんはコツコツと靴を鳴らしながら歩いていく。

「昨日の夜起こった事件については知っている事かと思います。あそこにいる少年達の荷物が盗まれました」

その言葉に食堂の中にいる人達はざわざわとうごめき始めた。

「それで……犯人は分かったんですか?」

食堂の中の1人が言う。

ゴンザレスさんは「もちろん」と言うと、少し笑いながら歩みを止めた。

「私が現場を調査したところ、足跡の痕跡が見つかりました。また、窓から侵入した事も分かりました。しかし、犯人はなかなか慎重な人物だったようです。他に痕跡は見つかりませんでした。」

ゴンザレスさんは振り返り、全体を見回しながら続ける。

「さらにこれと言った情報もつかめませんでした。」

じゃあ、と別の男が言った。「結局犯人は分からねえじゃねえかよ」

「その通り。」ゴンザレスさんは納得したように頷いた。だが、次の瞬間ゴンザレスさんの目つきが変わった。

「だが、すべてはあのアイテムが教えてくれます。そう……帳簿がね!」

ゴンザレスさんはかっこよく振り向き、宿屋の女将さんが持っている帳簿を指差した。

ゴンザレスさんは再び歩き出す。

「犯行時刻は昨日の夜12時から今日の朝8時。つまり、犯行は夜のうちに行われていた。

つまりだ。犯人は窓から侵入し、荷物を手に取り、そのまま出ていった!

また犯人は昨日少年と同じ時間帯にいた人物。

ここから導き出される結論は……」

ゴンザレスさんはかっこよく指を天に突き上げた!

「少年たちと同じ時間に食堂にいて、なおかつ宿を出たという記録が帳簿にないもの!

それが犯人だ!」

うおお!という歓声とともに宿屋の女将さんは帳簿をめくり始める!

なるほど!さすがゴンザレスさんだ!

「やっぱりさすがだね!名探偵と言われるだけの事はあるよ!」ぼくはライクにそっと話しかけた。

しかし、ライクの返しはそっけなかった。「そうかなぁ……」

ぼくは不思議に思ってつづける。「どうして?一体何が疑問なの?」

ライクは腕を組み、難しい顔をして言った。「普通じゃん!なんかこう、昔話みたいなすごい感じのを期待してたのに……逆転劇とかあるんじゃないのかなぁって……そう思わない?」

……ごめん。現実ってこういうもんだと思う。

「まあ、こんなもんだよ」ぼくはそう言って慰めた。確かに期待しちゃうけどなぁ。

「ゴンザレスさん!」その声は女将さんだった!ついに来るぞ……!犯人逮捕の瞬間が……!

「あの……すいません……ゴンザレスさん……

そんな人は1人もいませんでした……」

周囲にどよどよと動揺の声が広がる。なんだよ。はずれかよ。なんだあいつ。……そんな声も聞こえてくる。

しかし、一番驚いているのはゴンザレスさんだった。口ははずれるんじゃないかというぐらい大きく開いて、固まっている。額には滝のように汗があふれている。

「ん……ゴホン…………あ……あ……はあ……うん……すいませんみなさん。今のはみなさんの反応を見て、犯人をあぶりだそうと策を練ったもの。……そうですよね?」

ファントムさんのフォローを受け、ゴンザレスさんはやっと正気を取り戻す。

「あ……ああ。その通りだ。」

ゴンザレスさんは咳払いを1つすると、また歩き始めた。

「そう。これは犯人をあぶりだすための策だったのです。

真犯人は女将さん!あなただ!」

「なんだって!?」その言葉を発したのはライクだった。目がきらきらしている。まさに逆転劇だったからだろう!

ゴンザレスさんは額の汗をハンカチで拭きとり続ける。

「そう。足跡はフェイク。窓から侵入したと見せかけて、自分から疑いをそらしたんだ。

女将さんなら、部屋の鍵は簡単に入手することができる!そう、それを使って堂々とドアから入り荷物を盗んだんだ!」

「冗談じゃないよ!!」

女将さんが大激怒する!その迫力にはゴンザレスさんも押され気味だ。体格差を感じさせないその迫力。すごい女将だ!

「そんなお客さんの信頼を損ねるような事、この私がするわけないでしょう!!!」

「いやいや……これはその、推理に推理を重ねた結果……」

「うるさいわね!!それなら、私がやった証拠を持ってきなさいよ!!」

「証拠……う……」

……なんともきまずい空気が流れる。ゴンザレスさんの頭はフル回転しているようだ。それに対応するかのように汗が噴き出してくる。まるで円滑油のようだ。

しかし、何を思ったのかファントムさんが静かに話し始めた。

「ゴンザレスさん……。それならなぜドアから荷物への足跡が発見されなかったのでしょう……?

一般人には痕跡の消しかたなぞ分かるわけないかと……」

その瞬間、ゴンザレスさんの頭からボフンという音とともに煙が上がった。どうやらオーバーヒートらしい。

「そそそ、それはだな!なんらかの方法で女将さんはその方法を知ったんだ!」

「なんだって?それは何を根拠に言っているんだい?」

女将さんがものすごい形相でにらみつける。恐ろしい。

「……なんか、どうしようライク」この状況に困ったぼくはライクに助けを求める。

するとライクは笑いながらこう言った。

「それじゃあこのおれが、犯人を見つけようか」



-------------------------------------


「え?ホント!?」

ぼくはライクの言葉に飛び上がった!

「だってさっきまで分からないとか言ってたじゃないか!」

「うん。でもそれはさっきまでの話。今はもう分かった。」

ライクは微笑みながらこちらを向く。

「ゴンザレスさんの1つ目の推理の時、分かったんだ。

だから、これからすごい逆転劇が見れると期待したんだけど、それは叶わなかったみたいだな」

ライクは笑いながら歩きはじめる。それはさながらさっきのゴンザレスさんを見ているみたいだ。

「ほう。それではライクくん。君の推理を聞かせてもらおうか」

ゴンザレスさんはやっと落ち着きを取り戻したのか、汗をふきながら話しかける。

「ゴンザレスさんの推理は途中まで合っていた。

おれらが食堂にいた時、一緒にいた人達。その中に犯人がいるのは間違いない」

ライクは歩みを止め、指を鼻の前に置いた。

「しかし、そこから先。おれらはとんでもない勘違いをしていたんだ」

「勘違い……?」

ファントムさんが感心したようにうなる。

「勘違いとはどういう事ですか?」

ライクはまた歩き始めた。子供が話しているのに食堂の大人達は皆、息をのんで聞いている。

「思い出してほしいのは犯人の足跡だ」

ふむ……。ぼくはバカ正直に思い出す。

「荷物にまっすぐ向かっていた……だよね?」

ぼくが言うとライクは そう! と声をあげ、歩みを止めた。

「そう。それだ。」

「……どこがおかしいの?」

ぼくが首をひねるとライクは笑いながら言った。

「犯人の気持ちになって考えてみるんだ。夜、窓から侵入した犯人の気持ちを」

そう言われて考えてみたがさっぱり分からない。

しかし、ファントムさんには分かったようだ!

「そうか!窓から入った時、中は暗くて分からない!……うん、え……だから何でしょう……?」

ファントムさんの顔つきがまた変わった。でも確かにそうだ。中は暗くて分からない。だからなんだというんだ……?

ライクは続ける。

「そう。中は暗くて分からない。でも犯人は荷物までなんの迷いもなく歩いている……

考えてみろ。足元もろくに見えない状況でまっすぐ荷物を探し出すなんてことできると思うか……?」

……すごい……!確かにその通りだ!

「すごいよライク!本当だ!なぜ気づかなかったんだろう……!」

その時、ゴンザレスさんが一歩前に出て言った。

「ランプ……犯人がランプを使っていたとしたらどうなんだ?」

ライクはにっと笑うと いい質問だと言わんばかりの顔をして口を開いた。

「確かにその通りだ。だが、ランプにも照らせる距離の限界がある。

しかも荷物のあった場所はランプで照らしてもわからない場所なんだ。

そんな状況でまっすぐお目当ての場所に行くなんてよほど明るくなっていないと無理な話さ」

すると今度はファントムさんが一歩出た。

「もしかしたら部屋の明かりをつけたのかも……そうすれば荷物の位置を把握できます」

ライクは満足そうな顔をして言った。

「ちゃんと現場は調べたんだろ?部屋には足跡以外の痕跡はないと言っていたじゃないか!

もしも明かりをつけていたらそれなりの痕跡が残るんじゃないか?」

また周囲がざわついた。その爽快感からか、ライクも楽しそうだ。

「さて、それじゃ、どうして犯人はまっすぐ荷物の元へと歩いていくことができたのか?

それは簡単さ」

皆が息をのんでその姿を見守る。早く聞かせてくれ!という思いがひしひしと伝わってくる。

「そう、犯行は夜ではなく早朝に行われていたんだ!!」

周りから おおーっ!という言葉があふれる。

「そうか!朝方なら朝日が部屋の中を照らしているから、どこに荷物があるか分かる!」

ファントムさんが感心しながら言うと、ゴンザレスさんも続く。

「すごいな!我々は勝手に、犯行は夜に行われていたと思っていた……。でもそれは違っていたんだな!」

さあクライマックスだ!ぼくは心を躍らせた!

「そう。犯人は、おれらと同じ時間に食堂にいて、なおかつ早朝に宿を出たという記録が帳簿にあるもの!」

その言葉に女将さんはすぐに反応し、帳簿を目にも留まらない速さでめくりはじめる!

「わかりました!犯人は……あそこにいる小林さんです!!」

女将さんはビシッと指をさした!その方向には明らかに焦っている人物が立っている!

汗は滝のように流れ、顔は青白い。これですべて解決だ!そう思ってほっと胸をなでおろした。

だが次の瞬間、獣のような叫び声が鳴り響いた。その声は発した本人を奮い立たせる。

男は近くにあったテーブルを蹴り上げ、ライクに向かって突っ込んでくる。

危ない!このままでは殺される……!

しかし体は思うように動かなかった。まぶただけが最悪を避けるように動き出す。

ゴスっ。食堂に鈍い音が広がる。確実にいやな音だ。

ライクは死んでしまったのだろうか……。そんな予想が頭をよぎった。

いや、それよりも早く目を開けよう!急げ!目を開けるんだ!


……ぼくの目の前にライクの姿はなかった。

男は白目をむいていた。

さらに見るとゴンザレスさんに、もたれかかっている。

そこにはよくわからない光景が広がっていた。

「うおー!ゴンザレスさんすげー!」

静かな空間に知っている声が響き渡る。なんとライクはファントムさんに担がれながら笑っている!

どうやら先ほどの音は、ゴンザレスさんが男の腹を殴った音だったようだ。

やっと状況がつかめたところでゴンザレスさんが豪快に口を開く。

「いかがかな!諸君!名探偵ゴンザレスがまたもや事件を解決したぞ!がっはっは!」

そう言ってゴンザレスさんは男の腹から拳を抜いた。



------------------------------------------------


「結局ゴンザレスさんがすべて解決した事になっちゃったねー……」

ぼくは不満たらたらにライクに話しかける。

今は返してもらった荷物を背負って、予定の凱旋門に向かっている途中だ。

「まあ、しかたねーよ」ライクもつまらなさそうだった。

しかし、すぐに笑顔にもどった。

「でも、すっげー楽しかったぜ!またやりたいぜ!」

ライクはにっと笑いこちらを向く。

そうだ!結果はどうあれライクが解決したことに変わりはない。

ぼくはその事実だけでうれしくなった!

ぼくらは歩きながら話を続ける。そろそろ凱旋門が見えてくる頃だ。

「ところで、なんで犯人の小林さんはずっとあそこにいたんだろう……

朝に盗みをしたんだからそのまま逃げればよかったのに、なんで戻ってきたんだろうね?」

ライクは腕を頭の後ろで組むと空を見ながら言った。

「さあなー。現場に何かを落としたとか、そういうことじゃねぇのか?

おれにはわかんね」

ライクはまたにっと笑った。

そうだよね。何でも分かるわけじゃない。

「でもよかった!無事に戻ってきて!」

ぼくは荷物があるのを実感しながらライクの返事を待つ。

「…………」

しかし、返事はいつまでたっても返ってこない。なぜだろうと思って横を見てみるとライクは後ろの方で固まっている。

どうしたんだろう?ぼくはライクの横までもどり観察してみる。

ライクの目はうつろに凱旋門の方を向いていた。顔はどんどん青白くなっていく。

「何かあるの?」

ぼくは凱旋門の方に目をやる。

そこにあったのは、ぼくらが一番恐れていたものだった。

鬼の形相がこちらをにらみつけている。

ああ、もうだめだ……すべて終わった…。


ぼくらはその光景を前にただただ立ち尽くすしかなかった。


いかがでしたでしょうか……?

読んでくださりありがとうございました

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