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08 クラス

 鷺ノ宮帝都高等学校は特進クラスのみ寮制である。


 特進クラスとは学校側からの推薦を貰ったものに対するクラスであり、推薦人数と同じの少数学級となる。

 しかしクラスは別でも通常授業はAとBで成り立つクラスに振り分けられている。


 とても少ない生徒数で鷺ノ宮帝都高等学校が運営していけるのは資本金が元から多大な額だったのと、卒業生の進路によるものだった。


 高校卒業後は次々に生徒は就職していく。行き先は不明だが卒業生からの寄付金はそれはもう膨大である。大学に行かずの生徒が多いにも関わらず、だ。


 そんな鷺ノ宮帝都高等学校の校舎は坂の上にある。 桜坂と呼ばれる春には満開の桜が咲く綺麗な道を10分程登っていくと見えてくるそれは校舎ではないが部活棟と桜宮寮というものだ。

 少数精鋭の鷺ノ宮帝都高等学校生徒でも部活動は盛んで、それぞれ部室がしっかりと割り当てられている。それがあるのが部室棟。どんと洋風の建物が横長に広がっている。

 それと肩を並べるようにあるのが桜宮寮。学校から徒歩5分の特進クラスのための寮だ。特進クラスは生徒数僅か30人。そのため一人一つの部屋があたり、トイレは完備。お風呂は男女別で共同。食堂は全員共同。ここのキッチンは好きに使うことができるためお弁当を作ることも出来る。


 と。そんな話を思い返しつつ私は校長や生徒代表の言葉を流し聞いていた。

 私のクラスはA。アオはゲームヒロイン共々B。

 ゲームヒロインには残念ながら会ってはいない。まあ会うつもりもさらさらないけれど。

 ちなみに攻略対象キャラは青、黒、灰が同じ学年で、灰と桃はそれ以外の全ルートクリアで出てくる隠しキャラ。ここは現実なのでしょっぱなから会おうと思えば会えるが、


 「…えっと…、なに?」


 今はそれどころじゃなかった。


 「…いや、君は、」

 「あ、はい宮乃です」


 いや会おうとはおもってないけど…。


 「宮乃、」


 クラスについた私は自由席だったので一番前の窓側に座っていた。その私の隣の方からの視線が痛くて仕方がなかった。私なんかした…?


 「下の名前を教えてもらっていいだろうか」


 「あー、」


 私やっぱりなんかしたのか。こんな知らない人に名前を聞かれるなんてそうとしか思えん。


 「…もしかして夜宵…?」



 …あぁ、うん、私なんかしたっぽいです。


 黒いさらさらの髪の毛はストレートで天使の輪が浮かんでいる。

 少し長めの前髪からは切れ長の瞳が鋭い眼光を放つ。触れたら刺されてしまいそう。

 きゅ、と結ばれたサーモンピンクの唇から紡ぎだされた言葉に私は耳を傾けた。


 「…アオの友達?」


 「…あぁ」



 それから話して見るに、彼も推薦入学だということが分かった。一度断ったのだが直々に理事長が来たので断ったと。

 あんの横暴理事長ほかのとこにも行ったのか…!



 「夜宵、か」

 「えーっと、君は?」


 「あぁ、黒澤 音弥という」


 一瞬考え込むようにした彼はそう名乗る。

 クロサワ。


 くろさわ…?

 黒、さわ……?


 黒!そういやこいつ攻略対象キャラだ…!

 頭の中で変換された漢字に内心穏やかではいられない。外面は平然を保たせる。最近養った演技力で内面をフォローするのだ。


 (うわあ。黒澤君、ね)


 そんなこんなで私は()度目となる攻略対象キャラと対面をいつの間にか果たした。望んでもいないのに。


 そしてクラスでは黒澤君以外から話し掛けられることはなかった。待っていたのに。


 しかし何故かしらどぎつい視線を四方八方から感じる。

 隣にこんなかっこいいやつがいるからか、と思うことにした。私が変だから、とかだったら泣きそう。一応制服の着方間違っていないか確かめる。



 うん、かっこいい。


 良い生地がつかわれた黒のブレザーにこれまた黒いワイシャツ。深紅のネクタイには銀の刺繍で自分の名前が縫われている。ネクタイピンがついていて、これは推薦、一般とで形が違うらしい。一般の人たちはさっきもらっていたがどんなのかはよくわからなかった。


 スカートはハイウエストのプリーツスカートなところが私は気に入っている。着るのは果てしなく面倒くさいが。

 ブレザーの左胸には鷺と桜がかたどられたエンブレムが鎮座している。これもなかなかかっこいい。


 着方は間違ってないよね。うん。



 「一緒に特進クラスまで向かおう」


 「い……う、ん」


 先生からの視線も気になったが、とりあえずオリエンテーションというやつが終わった。


 一緒に行こうという言葉に攻略対象キャラという概念が強すぎて条件反射で断るところだったがそんな気持ちは殴り倒し捻り技を決めてぽいっだ。


 高校初の友達を逃してたまるものか。


 私たちが向かう目的地である特進クラスがあるのは校舎のかなり奥である。


 校舎はロの字に出来ていて中央のだだっ広い中庭にある大木が私的にはお気に入りである。いつか登ってやろう。


 そしてこの校舎、絶対広すぎだと思う。生徒数に比べてこれはおかしいよ。


 1階は3年生の教室、移動教室、空き教室。2階は2年生の教室、1年生の教室、空き教室。3階は職員室、理事長室、会議室、生徒会室、保健室。

 特進クラスの教室は最上階の一角にあった。4階である。空き教室の割合が高すぎてびっくりだ。

 ゲームを進めていけば分かるが地下もある。といっても広すぎることにはかわりない。むしろさらに広くなった。


 しかしさきほどオリエンテーションで言っていて初めて知ったことだが入学募集人数を今年は増やしていたそうだ。

聞き流していたせいであまり覚えていないが確か20人くらい増えていた。クラスもCがあった。知らなかった。

 この時点でもうズレが生じている。


 私にはどうすることも出来ないズレ。


 「こっちだな」


 もうその記憶は鎖で雁字搦めにして鍵をかけて太平洋にぽいっと沈めてしまいたいくらいの気持ちなのに。

 私にはそれが無理なのだ。


 臆病な性格がそれを邪魔する。


 なにが起こるか分からないから、と。

 利用出来るものは利用しろ、と。



 「…夜宵?」


 「あ、お」


 どうかしたか、と眉間に皺を寄せながら私の頭を軽く撫でる手。

 私を現実に引き戻してくれる手。

 私はここにいるのだと教えてくれる温かな手。


 ふと記憶がよみがえるたびに思う。




 アオが傍にいてくれて良かった───…

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