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07 奇行

 一人の男がいた。その男の前に女がまた一人いた。

 一人の男はいつものように見る、目の前の彼女を見て言葉を失っていた。



 「…その格好、どうしたんだよ」

 「にあうー?」



 女は男見て笑う。くるりくるりと楽しげに彼女は回ってみせた。



 「ほんとにどうしたんだ、夜宵───…」


◇ ◇ ◇



 こいつドがつくほどの近眼だからコンタクトをしていたのは分かる。コンタクトをやめてメガネにしたのも別に気にしない。

 しかしなんだその眼鏡は。



 「…それは…、」



 俺がそれはなんだと問う前に夜宵はさっさと準備をしろよといって去って行った。

 その後俺は惚けたまま先程の彼女の姿を思い浮かべて頭を抱えた。



 (…ついに本格的にボケ始めたか…?)



 幼いときからの付き合いの彼女は何て言うかどこかおかしい。抜けているというか。


 彼女は結構臆病で寂しがり屋だ。優柔不断なところもある。しかし何に魔がさしたのかいつの間にかぽんっと投げ出すところがある。面倒くさがりでもある。考えることを放棄するのがアイツの悪いクセだ。なのに臆病者。それでいて最初の踏み込みが甘い。そんなやつ。今回もなにかあいつの怖いものがあってそれから逃げるための奇行なのだろう。途中で面倒くさくなるのがオチだが。


 しかしながらあの眼鏡はなんだ。

 時代を一人遡るかのような眼鏡である。

 まるで牛乳瓶の底。

 宵闇の空を凝縮したような瞳をぎゅっと詰め込んだ大粒の瞳と、瞬きする度に風圧がきそうな長めの睫毛が一枚のレンズの中に閉じ込められていた。

 いつもは綺麗な乳白色の肌、それもメイクか何かでぼろぼろに見せられていた。


 何がしたいのか甚だ疑問である。


 もとの面影を一切残さないような風貌に唖然呆然愕然仰天驚愕、つまりびっくりだ。


 (しかしまあ、途中で飽きるだろう)



 男は女が去り、5分ほど固まっていると5分後にはそんな面影を見せないほどてきぱきと行動する。 男は彼女の奇行はいつものことか、とあまり気にしないことにして女との高校生活に思いを馳せた。



 青原家の洗面所に一人の女がいた。


 「…わりと様になってる?」「なってねぇよ」


 自分一人しかいないと油断していた彼女は背後から近づく影に気付かず攻撃を許した。


 「いたい…」


 叩かれた頭を押さえて女はぼやける視界の中、いつの間にか後ろにいた男の影を捉えにらみあげてやる。

 「っ!」


 攻撃力はゼロに等しいと思いきや、思いもよらぬ援護射撃(上目遣い)に男は頭を抱える羽目になった。


 「雅!夜宵ちゃーん!もう行く時間じゃない?」


 「今行きまーす」

 男は自分の母に返事を返した女の旋毛を見ながら考え込む。

 自分の母は自分の名前を呼ぶときより女の名前を呼ぶときの方が幾分優しく聞こえるのだが、と。


 「何やってるのー?アオ行くよ」


 いつの間にか女は眼鏡を装着し、準備万端な格好でそこにたっていた。


 ちょっとだけ待ってもらい、リビングに足を進める。


 「母さん」


 「なあに?」


 自分の母に向き合う。


 これは思ったより緊張するな、と男は自分の母より奥の方を見て思った。



 「…行ってきます」


 その言葉に、いつもより重みを感じた。

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