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06 携帯

◇ ◇ ◇


 どうしよう

 ど う し よ う


 傷が目立つ白いケータイデンワ。こいつ、どうしてくれよう。


 ベットの上で膝を抱えて座り、目の前携帯を置く。電源は切ったままで私はじっとそれを見つめた。


 きっと、入れ替わったんだよなあ…。


 思い浮かんだのはぶつかったとき。

 あのときにおそらく落ちてお互い違う方を拾ったのだろう。


 それは多分黄金色の髪の人。

 頭の片隅に映る黄金色。あのとき目尻に見えたのは広い上げたとき。けれどしゃがんでいたせいであまり見えなくて…、私が彼が立ち上がるより先に振り返ってしまった。


 つまりだ。


 ……どーしよ…。


 とりあえず電源、電源いれよう。


 そうしてつけた電源の待ち受け画面に表示されたのは異常な数の着信履歴。その番号がすべて私の携帯番号なのにちょっと違和か、「ッうわぁ!」


 手に取った刹那携帯が震える。

 通話ボタンを思わず押していた。しまった。


 『あ?繋がった、「この電話は現在使われておりません」


 一応かかってきた場合のセリフを考えてリハーサルをしておこうと思っていたのに唐突な着信にびびって変なことを口走った。やばい。これはやばい。


 そして再びブチ切った。


 そこから鬼のようにかかってくる電話に恐怖を覚えて私は電話に出ることが出来なかった。そうして一日は終わる。


 (……どうしよう)


◇ ◇ ◇


 11時まで続いた電話。11時にはまたかかってくるのでは、という恐怖で結局私が寝付けたのは4時だった。


 (…完全なる寝不足)


 起きたのは再び電話がかかってきた時頃、6時だった。なんでこいつ、こんな規則正しい生活してんの!7時間睡眠だし!お肌にいい時間帯はきっちり寝てるし!


 「お前はニワトリか!」


 それが私の今日の第一声であった。ついでに言えば電話に出た第一声もそれだった。あ。


 『っお前、やっと出たかと思えば…!』

 「…こ、この電話は現在使われており、」

 『それは俺の携帯だっつの!』


 「…電話ってかけた方に通話料金かかるんですよ」

 『あ?あぁ、この携帯お前のかそれは悪かったな』

 「いいえ、では失礼しま、」『同じ携帯会社だと通話料無料だっつの!』


 そういえばそうだった。通話料金は杞憂だった。


 通話料金も切るタイミングも見失った私は途方にくれつつ相手側の声を待つ。


 『今日は暇か』

 「新手のナンパに引っ掛かる気はありませんが」

 『ちげーよ!』

 「冗談です」


 相手が思ったより私に気を遣ってくれているのにびびって思わず冗談が口を割って出た。


 「暇です」


 『…ぶつかった場所の近くに喫茶店がある。そこに4時間後集合』



 私に付け入る隙を与えない一方的な攻撃を食らった。おい。


 しぶしぶ私は起き上がり時間を確認する。うわ、まだ7時なってない。


 とりあえず私は身仕度をすることにした。


 顔を洗って歯を磨いて服を着替える。ご飯を食べてニュースを見て部屋に戻る。


 時間は8時前。

 どうしようと思ったが勉強でもするかと考え直した。


 中学の復習に取り組んでいたらいつの間にか時刻は9時半を過ぎたところだった。うわー。


 「いってきます」


 私なりに慌てて待ち合わせ場所に向かった。



 急いだ末、そこに着いたのは6分前上々である。


 目の前にあるアンティークちっくな素敵な喫茶店を目の前にこれか、と呟いた。


 間違っていたらどうしよう、とかほんとにこれか、とか色々考える。


 えぇい、面倒くさい。さっさと行こう。


 扉はカランコロンと音をたてて開いたのだった。

 それはあまりにも軽快で少し苛立った。


 「いらっしゃい」


 ぶっきらぼうな物言い。しかし渋みのある声が年季のはいったアンティークなお店に似合っている。


 店内には誰も居ないようなので奥の影になるようなボックスの席に座った。


 ちょっと薄暗いような空間にオレンジのライトがマッチしている。居心地がいい。


 店員さんからメニューと水を受け取り、メニューを開いた。


 あんまりお腹は空いていないがどうせならケーキでも食べようそうしよう。


 「すいません、ベリータルト一つ下さい。あとカフェショコラも」


 「はい」


 人は居ないので遠慮なく声を張り上げた。

 いたら恥ずかしいのでしません。


 しばらくはメニューやら飾ってある額縁やらを見ていたらいつの間にかタルトとカフェショコラが置かれていた。


 「いただきます」


 手をお手拭きで拭いてからタルトを一口、口にした。


 (……おいし)


 それはすでに20分近く遅れてる相手が気にならなくなるほど美味しかった。


 「っ!?」


 私が頭頂部の痛みに声にならない悲鳴を上げ、頭を抱え込んだのはケーキに夢中になっていたそのときだった。


 「待ち合わせ相手ほっといて呑気にモノ食ってるなんて図々しいな」


 寧ろ待ち合わせ時間をオーバーしといて私を殴るなんてそれこそ図々しくないですか。


 寸でのところでその言葉を飲み込んだ。

 本当は言いたかったのだが喉にケーキが詰まったので物理的に無理だった。


 私は水を飲んで喉も心も落ち着けると無言でさっと電話を差し出す。余計な口を挟むと口論になりそうだからである。


 ちなみに私は手より口が出るタイプだ。良いのか悪いのかは判断し難い。


 すると相手もさっと携帯を差し出してきた。1日ぶりの愛用携帯である。対して情は抱かなかった。だって目の前に立つ人物も同じ携帯を持っているのだから。


 「間違えて悪かったな」


 その言葉に少しびっくりしたが「いいえ」と返してケーキを一口。謝られるのはちょっと意外だった。


 「だがな、電話に出なかったのはお前がわりい」


 その言葉は意外ではなかったので「それはすみませんでした」さらりと流した。


 相手の額にぴきりと青筋が浮き出る。ちょっと危機感を覚えた。そうかりかりしないでよね。


 「工藤のオヤジ!チーズケーキとコーラ!」


 店員さん…、オーナー?工藤というのか。ていうか喫茶店にコーラあるの?


 「うわあ!あ、なんで食べるんですか!」


 ちょっと目を離した好きにタルトを彼が食べていて思わず黄金色のその頭をぺしり叩いた。

 手より口が出るといいつつ出るところはどこも出た。うん。

 私の皿から取るため前のめりになった体の無防備な頭をぺちぺち叩いた。


 「いてえ」

 「あ?」

 「あ?じゃねぇよ、口わりぃな」


 感化された。


 「あ?でございますわ」 「それは絶対ちげぇ」


 とかいいつつなに食ってんだ!フォークぶっさすぞ!


 そんなやりとりをしているうちに工藤さんがチーズケーキをそっとテーブルの端の置いたので先にフォークで食べてやった。


 「おっ前!俺のチーズケーキ!」


 「うむ。これは絶品ですねマスター」


 「ありがとうございます」



 いかつい顔をしたマスターがぽっと頬を赤らめる。

 か、かわいい…。


 なんか普段あんまり表情がないのにたまに照れるとか。かわいい。ギャップってやつだよ。かわいい。


 「うわ!私のチーズケーキ!」


 「おまえんじゃねえ!」


 それからのこと。

 私は彼の名前を聞くこともなく別れた。

 こんど一緒にケーキ食いに行こうぜ!といわれるくらいに何故か仲良くなっていた。え?なんで?


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