第三章 虹を渡る
「虹のふもとには一生立てないよね。だって、こっちが動くと向こうも動く」
ある時、桜香がぽつりといった。彼女はときたま、こういった詩的な言葉を生み出した。
そんな虹の出た夏の日。その日は夏休み前日で、高校最初の夏休みを目前にした私はテンションのメーターが振り切ってしまった。
「きゃほほっ。ね、どこ行くっ?」
「ふふっ、千世ちゃん、変よ?」
桜香がきゅっと笑った。
私たちはその日、じっくりと話し合って海へ行くことを決めた。
「嫌だな……。私、泳ぐのだけはダメなんだよ」と乃衣ちゃん。
「じゃあ、泳がなくたっていいよ。……楽しいのにな」
「私、水着やだ。浜辺散策にしましょう」と桜香。
「えー?じゃあ、誰も海入らないの?ひどいよ。桜香、泳げるでしょ?」
「でも、やだ」
「乃衣ちゃんの味方するんだね。じゃあ、いいよ、泳ぐのなしね」
私は、なぜか泳ぐのは嫌いじゃなかった。むしろ好きだった。普段の運動に関しては、桜香ほどではないにしても苦手なのだが、水泳は好きだった。重力を感じないで浮き、ただ流れに同化することはとても気持ちよくて、水の中にいる時だけは本当の自分になれる気がする。
しかし、私の友人たちは、その気持ちがかけらもわからないようだ。
「見えたよっ」
バスの窓から見えたキラキラと反射を繰り返す海。私は潮の香りを大きく吸い込み、後ろの席を振り向いた。
「千世ちゃん」
乃衣ちゃんが小声でいった。彼女にもたれるようにして桜香が眠っていた。
私たちはとなりの市の海へ来ていた。電車で着いた駅から、海へ直通のバスへ乗ったのだが、バスで座ってすぐに桜香が酔ったといい出したのだ。
もともと乗り物が苦手な桜香は、何に乗っても酔うのだが、バスに乗らないと海へは着かないのだから仕方ない。乃衣ちゃんが持っていたレモンティーを飲ませ、「寝てなよ」といった。桜香はめずらしく素直に従った。
そして、いよいよ海が近づいた時になって、桜香は眠りに落ちたらしい。
バス停へ着き、私や乃衣ちゃんが立ち上がったりバッグを持ったりしていると、桜香が起きた。
「……着いた?」
「着いたよ」
私は桜香のバスケットを持ってやりながら答えた。
「気分はどう?」
乃衣ちゃんが訊く。
「大丈夫」
私たちは比較的空いている浜のパラソルの下にシートを広げた。
太陽は強く照りつけていて、風もカラっとしていて、海日和だった。そこそこ綺麗な海岸だったので、人も多かった。
「サンドイッチ、食べる?」
桜香はバスケットを開けた。
「おおっ、すごい」
私は思わず声をあげた。
見栄えのいい白の間に鮮やかな緑やピンクや黄色。やっぱり食べ物は見た目が大事である。桜香の料理を我が母にも見せてやりたいものだ。
少し早めの昼食を済ませた私たちは、荷物を海の家にあったコインロッカーに預けると、浜を歩いてみることにした。
「歩きにくいね」
「はだしになる?」
「そうしよっか」
サンダルを手に持って、私たちは砂の上を歩いた。ゆっくり。でも、決して止まることなく。その間にも太陽はジリジリと私たちの白い肌を焦がし続けていた。
桜香の体調が心配だったが、学校にいる時よりも元気なくらいで、時折笑い出したり駆け出したりしていた。「子犬みたいだよね」と乃衣ちゃん。
乃衣ちゃんはアメリカの国旗みたいなTシャツにデニムのショートパンツを着ていて、海をバックにすると、パっと目を引いた。
私はキャラクター物のTシャツと青い小花柄のミニスカート。
桜香は白いレースのトップスと黒いキュロット。レースと一緒に桜香も透けてしまいそうだった。
「桜香、日焼けしちゃうよ?今日はいいの?」
「日焼け止め、塗りまくったもの。大丈夫なはず。千世ちゃんこそ、色白美女なに」
「何それ?まぁ、うちらは生まれつき色白だもんね。乃衣ちゃんと違って」
私は桜香と顔を見合わせてクスクス笑った。乃衣ちゃんは、普通の肌色なのだが、私と桜香が病人並みに白かったため、三人でいると一人だけ黒く見えた。だから私と桜香は乃衣ちゃんをいじるネタとして、よくそれを持ち出した。
平和だったんだな、とつくづく思う。
しばらく歩くと、人気のない岩場へ来た。テトラポットへ移り、私たちは腰を下ろした。
潮風がそよそよと吹いていた。
「この海の向こうには何があるのかな」
乃衣ちゃんがふといった。
「千葉にぶつかるんじゃない?」
私は即答した。
「うわっ、冷淡ーっ」
乃衣ちゃんが顔を歪ませた。
「ずっと向こうの見たことのない世界が……とかいってほしかった」
「似合わねーっ」
私は早口でいった。……でも。
「いつか三人で行こうよ。海の向こうに。うち、世界を見たい」
「世界一周、とか?」と乃衣ちゃん。
「私……日本でいいよ」
桜香がぽつりといった。
「なんでっ?」
思わず私は声を荒げた。
「私ね、乃衣ちゃんと千世ちゃんがいてくれたら、どこだっていいの」
どこだっていい。乃衣ちゃんと私さえいれば。
それは桜香の本心から出た言葉だった。ひとつだけの願いだったのだ。
「ただ……」桜香は空中をすっと手でなぞりながらいう。「向こう側に何かがあるなら行きたい。虹を渡るみたいにして、海の上を越えて、どこかへ着けたら……」
何があるのだろう?
私たちには、よくわからないのだ。
だから、夢をみる。まだ見ぬ「いつか」に期待する。
突然、乃衣ちゃんが立ち上がった。
「ラムネでも飲んで帰ろうか?」
「うん」
私たちは来た時と同じように、ゆっくりと歩いて海の家まで戻った。
ラムネを飲んで、私は手をベタベタにして、二人に笑われた。いうまでもなく、開けることに失敗したのだ。
帰りのバスに乗ると、桜香は出発するより前に眠ってしまった。私と乃衣ちゃんも競争するかのように目を閉じていた。
まだわからない。
私、決めてたよ。いつか向こう側をすべて見て、何があるのかを見てやるって。
だから今はまだわからない。それでいいんだ。そう思っていた。
三章おしまい!
ぐだぐだかな?
事件が起きないからつまらないのか( ̄□ ̄;)!!
でも、メイン三人とも私は好きです。
ピュアすぎないイイコってかんじがして。
みなさんは誰推しですか??(笑)
気を取り直して。
いつものGARNETトークに。←
ゆりっぺが3rdアルバム「Crystallize~君という光~」で一番好きなのは「Marionette Fantasia」だそうです。
私もだよ!気が合う!
一人でガッツポーズです。
このアルバムは暗めの曲が多くてGARNET CROWらしいと思うのですが…。
Marionette~のダークでメルヘンなかんじとか、あの変拍子がツボです♪
今日はこの辺で…
ばいきゅ~(*^o^*)/~