第一章 星の少女
「今年の星祭りは浴衣で行く?」
桜香が訊ねてきた。
「うーん……。うち、浴衣、持ってないし」
私は答えた。
「うち、あるけど、出すのやだ」
乃衣ちゃんも答えた。
桜香が怒る。
「信じられないわ。女子高生が浴衣、着ないのっ?でも、一人だけ浴衣嫌だから、ワンピにする」
「いいじゃん、桜香。桜香だけ浴衣でも。一番、似合うでしょ?」
私がいうと、桜香は睨んできた。そういう問題じゃないの、とでもいいたいようだ。
私たちが住む星空町では、古くから伝わる星姫伝説にちなんで、星姫の命日である八月二十五日に星祭りというお祭りが開かれる。
星空町は神奈川にある小さな町で、可もなく不可もない場所。
星祭りは、近くの町も参加する、この町では珍しく派手な行事。
星空町に暮らす子供は、毎年、必ず行くものだ。私も小さな頃から行っている。
私の名前は杉本千世。
星空高等学校二年二組二十二番。
小学校は第一小学校で、中学から星空高等学校と隣接している中学へ。
好きな科目は世界史。以上っ。
髪は脱色してパーマをかけている。目は垂れ目。背と鼻は高め。
一緒にいるのは一瀬乃衣と木梨桜香。
乃衣ちゃんは何でもできて、いわゆる器用ビンボーってやつ。数ヶ月前に髪を茶色にしたせいか、なんか薄い。薄いけど、優しくてみんな大好き人気者。星高のマスコットだ。ちなみにクラスは二年四組。
桜香は、なぜか基本呼び捨てで呼ばれている。根っからの文学少女で、日の光が嫌いで、髪の毛は黒いストレート。目は乃衣ちゃんと違って強い何かをたたえている。身長は三人の中で一番低い。それをいじると怒る。
私たちは少々夢見がちで、だけど毎日を一生懸命に生きている、普通の女子高生だった。
「ねぇ、何時にどこ集合?」
桜香が小さくジャンプをしながら訊いてくる。
「……桜香。明るくなったね」と乃衣ちゃん。
「へ?」
「明るい。ってか、その方が可愛い。前、怖かったよ、ちょっと。人がはね返されるかんじがした」
「可愛い?」
桜香はいつでも可愛くなりたがっていた。でも、上手く笑えなかったし、対人恐怖症気味だったから、暗い印象をもたれがちだった。しかも、桜香の好きな動物はハリネズミ、好きな植物はサボテン。「どんだけトゲ?」と乃衣ちゃんが突っ込むのも無理ない。桜香のまわりは見えない棘で覆われていた。
「うん、可愛い。……えっと、集合は……千世ちゃん、決めて」
「四時半に星空駅で。詳しいことは、またメールで」
私は、すぱっと答えた。
「流石っ。『決断の千世』だわ」
桜香が拍手をした。乃衣ちゃんも桜香も、優柔不断だったから、何かを決めたり企画するのは私の役目なのだった。
「今年は楽しくなるかな?」
「乃衣ちゃん、今年が最後よ?遊ばなきゃ」
桜香が、つややかな黒髪を結い直した。高校生にしては少々、可愛すぎるリボンゴムで飾られている。結び終わると、ため息。
「もう時間が……」
そういう桜香の目が潤んでいたように見えたのは私だけ?
「ってか、マジで時間なくない?」
私は教室の時計を見て思わず立ち上がる。五時四十二分。あと三分で最終下校時刻。夏だから空は明るい。ただ、時間を過ぎると、門を閉められてしまうので、早くしなければ。
慌ててスクバを掴むと、私たちはすごいスピードで校舎を出た。
「早っ、早いよ……。二人とも……」
ケホケホ。咳をしながら桜香が追って来た。
「セーフ」
私たち三人はニヤリと笑って顔を見合わせた。ここ数日、このギリギリ下校が私たちの日課のようになっている。
「はぁ……。こうも毎日、ダッシュはキツイよ」
「ごめんごめん。桜香、風邪?」
「え?……ううん。元気よ」
「最近、顔色が悪いよ?」
乃衣ちゃんが優しい声で訊く。恋人みたいじゃんっ。と、私は心の中で突っ込む。
「もともとよ。乃衣ちゃんより白いもの。……あっ、一番星」
桜香は少し暗くなり始めた空の一角を指差した。
夕暮れの赤が夜に飲まれていく、不思議な色の空に、小さな光がひとつ。
今にも消えそうなその光を見上げて。
この夏は楽しくなるだろう、と、漠然とそんなことを思った。
桜香。あなたは同じ空の同じ星を見て、ただひとり、永遠を願っていたんだね。
この時がずっと続くように、祈っていたんだね。
そうでしょう?
どうでしょう?
序章から第一章への振れ幅ハンパないですが(笑)
ファンタジーから日常に、一気に来ました。
この先はずっと三人の日常になります。
ちなみに 作者・ヨリはGARNET CROWの大ファンで、
ゆりっぺたち風の人々が出てくるお話も書いてたりしますww
このお話が終わったら投稿しようかな……?
とりあえずは「星降る町の彼女」をよろしくお願いします(^^)