第9話
はぁはぁはぁ、と息が切れる。
階段を登り、教室を目指す。階段を登り切って、息が整うまで深呼吸をする。
額から汗が垂れてきた。ブレザーを脱ぎ、シャツの袖で汗を拭く。呼吸は整ってきたけれど、汗が止まらない。
ため息をつき、足を進める。
一つ教室を通りすがり、教師と生徒達の視線を浴びて、隣の教室の前で足を止める。
ゆっくりとドアを開けると、教師と生徒の視線が俺に一斉に向けられる。
「ち、遅刻しましたーすみませーん」
ペコペコと頭を下げながら、自分の席へと向かう。
「あとで担任の所に行けよー」と教師が言う。
「はーい」
クラス中の視線が突き刺さり、脇にじわっと汗をかく。
席につき、ため息を軽くついて、教科書を広げた。机に突っ伏し、少し休憩する。
「颯太くん?」
目を開けると、ゆめが俺の顔を覗き込んでいた。
「びっくりしたぁ……」
「颯太くん、今日は制服着てる……」
自分の服を見た。
本当だ。制服を着ている。
「あぁそうか。俺、授業中に寝てしまったんだ」
「授業中に居眠りだめじゃん」
「そうだな。あはは」
「今はみんなは起きてる時間なんだね。やっぱり私はずっと夢の中だ……」
「うん……。何か思い出した?」
ゆめがじっと俺を見る。
「その制服……ちょっと待ってね」
ゆめが目を瞑っている。俺はゆめをしばらく見つめ、まばたきをした瞬間ゆめが制服姿になっていた。
俺と同じ茶色いブレザーだ。それと、フレームの薄い丸眼鏡をかけている。
「君、同じ学校だったんだ……」
「颯太くんと同じ学校なの? これ私の記憶から作られたってことだよね?」
「絶対そうだよ! ゆめのこと探しやすくなった! 絶対ゆめのこと探してみせるから!」
「うん!」
ゆめが八重歯を見せて笑った。俺も口元が緩む。
急に頬に違和感を覚え、手で押さえた。
頬に痛みが走り、一瞬瞼を閉じて再び瞼をパッと開くと、にんまりと笑みを浮かべた優馬が目の前にいた。手にはペンを持っている。
「何だよお前。なんか痛いんだけど」
「授業終わったのに〜まだ寝てるから〜ほっぺたに〜ペンをぐりぐり刺してたんだよ〜」
優馬がペンをくるくる回している。
「普通に起こせよ! あ、そうだ! ゆめがこの学校の生徒だったんだ!」
「なんだって?」
優馬が顔に手を当ててポーズをとっている。どこかで見たことある……あ、福山雅治主演映画のポーズだった気がする。
俺も同じポーズをとる。
「名前はゆめ、髪は肩までの長さ、丸眼鏡をかけている」
優馬が頷き、「よし、行くぞ!」と言って走り出した。
優馬を追いかけると、隣のクラスに入っていく。
俺は、「優馬!」と呼び止めた。
優馬が足を止め、振り返る。
「どした?」
「隣のクラスはさすがに、ゆめがいないの分かってるよ? あと、五組まで同じ科だから分かるよ? な? 六組から探しに行こう」
「いやいやいや、刑事は足で稼がないといけないんだよ!」
優馬が真顔で答え、隣のクラスに入って女子に声をかけている。
「お前は刑事じゃないだろ……」
優馬が、なぜか女子に壁ドンしながら話している。女子も満更でもなさそうだ。
俺はそれを廊下から冷ややかな目で見る。
何人かの女子に話しかけては壁ドンを繰り返し、優馬が戻ってきた。
「お前なんで来ないんだよ〜お前がゆめを探してるんだろ〜?」
「うん。なんか近づきにくくて」
「さては女子と話すの緊張するんだろ? 可愛いやつめ!」
「うるせーよ!」
「はは! このクラスは収穫なし! 次だ!」
優馬が廊下でスキップして、すれ違った女子とハイタッチまでしている。
優馬が振り返って、「おい! おせーぞ!」と言う。
俺は、息をもらすように笑って、優馬の所へ行った。
休み時間のたびに、優馬が女子に話しかけまくって、ゆめのことを訊いてくれたが収穫はなしだった。
「今日は収穫なしだったな」
「いや、俺は収穫あったぞ」と優馬が言う。
「は?」
「女子の連絡先ゲット〜」
「うん。おめでと」
「やだ。興味なさそう。明日は一年の所に聞き込みに行こうぜ!」
なんだかんだ言って、こいつ頼りになるんだよな。




