第8話
十七時、マクドナルド前に到着した。
本当に会えたらどうしよう、と考えると口元が緩む。
「さぁ、ゆめはどこかなぁ〜」
優馬が周りを見渡している。
「お前信じてないくせに、ついてくんなよ」
「信じてないけど、もし! もし来たらどんな子か見てみたいじゃん」
優馬がわざとらしく鼻の下を伸ばしている。
こいつふざけやがって。
その場で三十分経っても、ゆめの姿はない。
優馬は、店内で本を読みながら優雅にコーヒーでも飲んでいる。
俺はその場でさらに三十分待ってみたが、ゆめは現れなかった。
***
眠れない。優馬が珍しくコーヒーをおごってくれたせいだ。
早く寝て、ゆめに会いたいのに。
ひつじが一匹、ひつじが二匹、ひつじが三匹……
目を開けると、マクドナルドの前だった。
ゆめは膝を抱えて地面に座り、俯いている。
「ゆめ……」
「颯太くん……」と力のない声でゆめが言う。
「今日、来てくれなかったな。というか、君は現実には存在しないのかもな」
俺はゆめから視線を外す。
「ごめん。私ね、何度も試したの。起きようとしたの。でも、起きれなくて、ずっと夢の中にいるの」
俺はゆめに視線を戻した。
「え? ずっと夢の中? 眠ってるってこと?」
「ずっと眠ってるのかな……私」
ゆめが伏し目がちに答える。
「現実には存在するけど、ずっと眠ってて夢から覚めないってこと?」
俺は頭を抱えた。ただの夢なのか、現実なのか、ゆめはずっと眠っているのか、何を信じればいいんだ。
「私、この世に存在しないのかな? やっぱり颯太くんの夢の中で作られた人物なのかな?」
正直分からない。でも、ゆめがこの夢を自由に動かせるんだから、俺の夢ではない。じゃあ、どういうことだ?
「あー! 頭痛い! 考えても分かんねぇ! とりあえず分かってることだけ整理しよ!」
「うん」と頷いて、ゆめが上目遣いで俺を見てくる。
心臓がドクンと鳴った。落ち着け心臓。
分かっていることを整理しろ。
「えーと、まず、夢を自由に動かせるのは君だけだから、この夢は君の夢。次に、夢から覚めようと思っても覚めない。ずっと夢を見てる。そして、記憶がない」
「うん。私……ずっと夢を見てる。ずっと眠ってる。体が普通じゃないのかな?」
「……君、病気なの?」
「私、病気なの? 一生このままなの?」
ゆめが顔を歪ませて、今にも泣き出しそうだ。
「ご、ごめん! 不安にさせるようなこと言って……」
ゆめが首を横に振った。
俺は、ふぅ、と息を軽く吐き、話を続けた。
「なぁ。このマックの前にいるってことは、ここはたぶん君の生活圏内なんだと思う。だから俺はここから近い病院を手当たり次第行ってみる。絶対にゆめを探してみせるよ」
「やめて! 私が現実に存在するかも分からないのに無謀だよ」
「俺は、現実で君に会いたい。存在してるって信じたい。だから、君は夢の中で記憶を取り戻すの頑張ってよ。それにさ、君の名前が《ゆめ》だから、夢の中だとややこしいんだよ。現実で会って、ちゃんと名前を呼びたいじゃん」
ゆめが頷いて少しだけ微笑んだ。
「颯太くん、ありがとう。私も私が存在してるって信じる。颯太くんも存在してるって信じる」
「あ、そうか。俺も存在してるか君には分からないよね。俺は確実に存在してるから! 絶対会いに行くから待っててな!」
ゆめが歯を見せて笑った。可愛い八重歯が見えた。
俺も一緒になって笑った。
急にゆめが遠ざかっていく。手を伸ばしたけれど、届かない。
「ゆめー!」
ゆっくりと目を開けると、見慣れた天井が、窓から差し込んだ光に照らされていた。
いつもより明るい気がする。
あれ、アラーム鳴った?
スマホを見ると、八時半。
俺は飛び起きた。




