第5話
ゆめが真剣な顔をして俺を見ている。
「どういうこと?」
「颯太くんは、俺の夢って言ってたけど、違うと思う。颯太くんが私の夢に来てるんだと思う」
「いやいやぁ。そんなことありえないって、そういう設定でしょ?」
「設定じゃないよ。だってほら、私はソファーを出すことができたでしょ? 私の夢だからできるんだよ」
確かに、何で俺にはできないんだろう。本当は夢って思い通りにならないのか? いや、前に夢を見た時、自分の思い通りにことが進んだ気がする。しかも、こんなにリアルな夢じゃなかった。
「じゃあ、ゆめの夢だとしよう。ゆめの夢ってややこしいな……。君でいいか! 君の夢だとしよう。俺は何で君の夢に入り込んでるの? そして、君は何で記憶がないの? 君は現実に存在するの? ファンタジーすぎない?」
ゆめは眉間に皺を寄せ、口をぎゅっと閉じている。次第に口が震え出し、目には涙を浮かべていた。
「えっ? ごめん!」と俺は言った。
「……分かんないんだもん。起きたら真っ白の世界にいて、自分が誰なのかも分からないし、私以外誰もいないし、何もないし、どうしようってなってた所に、颯太くんが突然現れて、これが夢だって分かって安心して……。現実なんて分からない。もうわけわかんないよ!」
ゆめが手で顔をおおって泣いている。
俺はゆめをただ見ていることはできず、手を出したり引っ込めたりを繰り返して、ゆめの背中にそっと触れた。
服の感触は分かるのに、ゆめの背中に触れているという感覚がなかった。
ソファーのレザーの感じも分かる。
ゆめの腕を掴んでみた。でも、感触がない。
そうか、現実でゆめに触れたことがないからだ。
優馬が言っていたことは合っているのかもしれない。
「なぁ。俺の友達が言ってたんだ。夢は記憶から作られるんだって。君は記憶がないって言ってたよね? だからこんな真っ白な世界の夢なんじゃない? あと、ワンピースとかソファーとかイメージして出せたんなら、頭のどこかに記憶があるから出せるんだよ。そのワンピースはいつも着ていたやつかもしれないし、そのソファーは家にあるものなんじゃない? 色んなものをイメージして出していけば記憶が戻りそうじゃない?」
ゆめが顔を上げた。
涙を流しながら、「そ、そうなの?」と言った。
潤んだ瞳で俺を見つめてくる。俺の口元が緩んでしまう。
「うん。ためしに色々出してみようよ」
ゆめが大きく頷いた。
「うん。あ、颯太くん、起きる時間じゃない? アラームが聞こえるよ。じゃあまたね」
ゆめが微笑みながら手を振っている。
目を開けると、スマホのアラームが鳴っていた。アラームを止めて、ふぅ、と息を吐く。
この夢、本当にゆめの夢の中?




