第2話
何もない真っ白な空間に、白いワンピースを着た女の子が立っている。黒くてストンと肩まで落ちた髪を揺らしながら俺に近づいてきた。
俺の前に立ち、女の子が少し上目遣いをして、じっと俺の顔を見てくる。
この子、誰だろう。
「あなたは、誰ですか?」
女の子が訝しげな表情をして訊いてくる。
「え? 俺?」
「はい」
「名前は、颯太」
「颯太……何歳ですか?」
「十六歳。高校二年生」
「私もそれくらいの年齢に見えますか?」
「うん。見える」
「そっか。じゃあ敬語じゃなくてもいっか」
「君は誰?」
「私は……分からない」
「分からない? 名前が分からないの?」
「うん。記憶がない」
「記憶がない?」
「うん。何も思い出せない。何で私はこんな何もない空間にいるのか分からない。あなたは何でここにいるの?」
女の子は少し首を傾げて俺を見ている。
切れ長の目をして、まばたきするたびに長いまつ毛が揺れている。
俺は顎に手を当てて、ここにいる理由を考える。
「俺? 俺は何でだろう……。家に帰ってシャワーを浴びて、ベッドに横になって、そのまま……これ、夢?」
「夢? 夢を見てるの?」
「あ、夢かもしれない。そっか夢か」
「じゃあ私も夢を見てるのかもしれない」
女の子は柔らかく微笑んだ。
「うん、夢だ。……何で君が夢に出てくるのか分かったよ」
「何?」
「君の顔、タイプだから」
夢なんだから何でも言える。
「えっ? 私がタイプ……」
女の子は困ったような表情をしていた。
「現実にいたら良かったけどなー。現実にいないから夢に出てくるのか」
「じゃあ、何であなたは私の夢に出てくるの?」
「いや、俺の夢だから! あ、そういう設定? お互いの夢の中で会うみたいな? 記憶をなくした女の子と夢で会うっていう設定ね。明日も君が夢に出てきますように」
俺は祈りのポーズをした。
「変な人」
女の子は、あはは、と口を開けて笑った。目尻が下がって優しい顔になった。そして、八重歯がチラッと見えて、俺はその八重歯をまた見たいと思った。
「でも、夢ってさぁ毎回違う内容なんだよなぁ」
「そうなんだ……じゃあ私も、明日颯太くんが夢に出てきますように」
女の子も祈りのポーズをしている。
俺の心臓がドクンと跳ねた。
「やっぱすげータイプだわ。ドキドキする。これ現実で出会う予兆なんじゃね? あーそうだったらいいわ〜」
「やっぱ変な人……。正直に言うタイプなんだね」
「夢だからな〜」
「あ、アラームか何か鳴ってない? 起きる時間だよ、きっと。じゃあまた会えたらね」
女の子は俺に向かって手を振っている。
目を開けると、自分の部屋のベッドの上にいた。アラームを止めて、天井を見つめる。
やっぱり夢か。
やけにリアルな夢だった。




