6.兄ちゃん、団長を盾にする
「おい、ソウタ! これはどういう拷問……アチッ!?」
「拷問じゃないです。揚げ物は大人と一緒じゃないと危ないですからね」
「そっ……そうか。俺を頼っているんだな!」
僕の料理の中で、弟妹たちだけではなく、両親も大好きなのが〝鶏の唐揚げ〟だ。
揚げ物をする時は、両親と一緒の時しかしちゃダメだと言われていた。
だから、今は大人であるエルドラン団長と一緒に揚げ物をしている。
油避けの盾になっているけどね?
「アチッ……! 本当にこんな油の中に肉を入れてうまいのか?」
「僕を信じないなら食べなくても――」
「一生信じます!」
どれだけ唐揚げが食べたいのだろうか。
本当に悪役騎士団なのかと疑問に思ってしまう。
まぁ、実際は罪をなすりつけられた結果、悪役になってしまう騎士団なんだろうけど……。
詳しいことを弟に聞いたことがないから、何が原因で悪役になるのかまではわからない。
「僕が守ってあげないとダメだな……」
だけど、エルドラン団長の性格を知ると、悪役になってしまう理由が何となくわかってしまう。
この優しさが問題なんだろう。
「ん? ソウタ、何か言ったか?」
「とりあえず、エルドラン団長は唐揚げの面倒を見ててください」
「俺に任せて……アチッ!?」
面倒を見ててとは言ったが、油に顔を近づけろとは言ってない。
「ここから見ててください」
「おっ、わかった!」
少しだけ引っ張って、今の場所より一歩後ろに立たせる。
本当に手のかかる団長だね。
エルドラン団長に唐揚げを任せて、僕は野菜を切っているジンさんとゼノさんの元に向かう。
「ソウタ、どうだ! 俺も騎士としてちゃんと切れているだろ!」
「騎士は関係ないと思いますが……なんですかこれ?」
「いや、ソウタに言われた通りにやったぞ?」
僕は根菜類を一口サイズに切るように伝えたはずだ。
なのに、目の前にあるのは10センチメートル近くある大根だ。
いくらジンさんの体が大きいからって、これが一口に入るわけ――。
「入りそうですね」
僕の隣でジンさんは、大きく口を開けてサイズの確認をしていた。
本当に入りそうなのを見ると、ちゃんと伝えていない僕が悪い。
「えーっと……この後煮る予定なので大きいと味が染み込みにくいから、小さめでお願いします」
「あっ……そうか……」
ショボーンと落ち込むジンさんを見て、少し可哀想に見えてきた。
まるで耳と尻尾が垂れ下がった柴犬だ。
「ジンさんはよくやってますからね! 引き続きお願いしますよ!」
「はい!」
優しく声をかけただけで、ジンさんは復活した。
そして、問題はもう一人……。
「これってどこまでが皮なんだ?」
「えーっと……それはもう皮じゃないですね……」
「どういうことだ!?」
ゼノさんには玉ねぎの皮を剥くようにお願いしたが、残ったのは真ん中の芯だけだった。
たしかに細かく言わなければ、どこまでが皮かわからないかもしれない。
「茶色の皮が剥けたら、もういいですよ」
「わかりました」
一番器用そうなゼノさんが一番不器用なのかもしれない。
「ソウタ、全部揚げたぞ?」
「野菜切れたよ!」
「今度はしっかり残っているよ!」
しっかり説明すると、言ったことは無事にできたようだ。
何事も覚えは早いのだろう。
「みなさん、ありがとうございます」
色々と作業を手伝ってもらい、後は煮物を作りながら、唐揚げを高温で二度揚げしたら完成だ。
今日の夕食は鶏の唐揚げ、鶏肉と根菜の生姜煮、オニオンスープだ。
本当はご飯が良いけど、お米がないので、パンと食べても合うようにオニオンスープを用意している。
オニオンスープの出汁も、鶏肉を切り分ける時に出てきた骨を活用して鶏がらスープにした。
鶏がらスープとか作ったことなかったけど、思ったよりも出汁が取れてそうで一安心だ。
――ガチャ!
「おっ、なんだ!」
「帰ってくるところを間違えたぞ!」
玄関の方から声が聞こえてきた。
他の騎士たちも帰ってきたのだろう。
ちょうど良いタイミングなので、早速唐揚げを二度揚げすることにした。
「エルドラン団長、二度目はすぐに焦げるので気をつけてくださいね。食べる量も減って――」
「命懸けで死守する」
揚げる目安を教えると、エルドラン団長は唐揚げを二度揚げしていく。
唐揚げぐらいで命をかけなくてもいい気もするが、それだけ大事にしてくれているのだろう。
あとで食べることになるんだけどね……。
――ガチャ!
――ガチャ!
――ガチャ!
僕は急いで玄関まで向かう。
「そんなに開け閉めしたら、扉が壊れるでしょうが!」
「「「へっ……?」」」
騎士たちは声を揃えて、僕の方を見ている。
扉をガチャガチャして遊ぶなって、弟妹によく言っていたから、つい口出ししてしまった。
「くくく、あいつら怒られてぞ」
「ジンもさっき怒られたばかりだけどね」
ジンさんとゼノさんが、僕の隣にやってきた。
さらに騎士たちの視線は僕に集まってくる。
これは自己紹介しろってやつだろう。
「えーっと……はじめまして、ソウタです! 今ご飯を作ってるので、少しだけお待ちください」
僕は急いで調理場に戻った。
よく考えたら早く作らないと間に合わないし、ジンさんとゼノさんがここにいるってことは――。
「二人とも火から目を離したらダメですよ!」
「「はっ!?」」
コンロはいくつもあるため、唐揚げを作っているコンロとは別のところで煮物とスープを作っている。
ってことはエルドラン団長がいるコンロからは離れている。
弱火だけど火はついている状態だから、離れるなら一度火を止めないといけない。
僕を追い抜く勢いで、ジンさんとゼノさんが戻ってきた。
「あっ!」
僕はあることを思い出す。
「どうしたんだ!?」
すぐにジンさんも足を止める。
僕は再び玄関に戻り、騎士たちに声をかけた。
「帰ったら手を洗ってくださいね!」
外から帰宅したら、手を洗わないとばい菌が家の中に入ってくるからね。
でも、それを聞いた騎士たちは唖然とした顔をしていた。
「ジンさん……? 帰ったら手を洗いますよね?」
「いや、俺は洗わねーぞ?」
「はぁー」
僕はその場で大きなため息をつく。
まさかここから教えないといけないとはね。
「帰ってきたらすぐに手洗いうがいをする! それができない子は晩御飯抜きだからね」
それだけを伝えると、すぐに調理場に戻っていく。
僕の隣ではジンさんがクスクスと笑っていた。
でも、僕は見ていたからね。
「ジンさん、調理場に戻った時も手を洗ってくださいね?」
「んっ? なんでだ?」
「今、無意識にお尻を搔いてましたよ!」
騎士たち全員に手洗いを教えないといけないって思うと、弟妹たちに教えるよりも大変そうな気がしてきた……。
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