48.兄ちゃん、事情を知る
「みなさんできましたよー!」
僕が声をかけると、騎士たちは勢いよく走ってきた。
「おっ、今日は肉じゃがなのか!」
「肉じゃがとパン……それに味噌汁って合うのか?」
騎士たちも運びながら首を傾げていた。
和食を出す時はお米を炊くことが多いからね。
基本的にパンと合う洋食ばかり出していたから、僕も初挑戦だ。
「エリオットさんとアルノーさんもお風呂から出てきましたね」
「さっぱりしました」
お風呂から出てきたエリオットさんとアルノーさんはゆっくりとしていた。
「あれがエリオットさんですか……」
「私の顔に何かついていますか?」
「いえ、カチッとしたエリオットさんばかり見ていたので……」
同じ青翼騎士団だったキッシュさんにとって、髪の毛を下ろして気が抜けているエリオットさんをあまり見たことがないのだろう。
僕も出会った当初は気を抜く姿を見たことなかったけど、今はお風呂後は大体ボーッとしている。
シャンプーや石鹸を作ったことで、蜜蝋をしっかり落とせるようになったのもあるのだろう。
まさかワックスやジェルの代わりに、ミツバチの巣を溶かしてできた蜜蝋を髪の毛に塗っていたとは思いもしなかった。
「じゃあ、食べますか」
――パチン!
僕が席に座ると騎士たちは手を合わせる。
その音にキッシュさんは驚いていた。
「「「いただきます!」」」
大きな声で挨拶すると、我先に肉じゃがに手を伸ばす。
「うまいっ!」
「肉じゃが最高っす!」
久しぶりに和食を食べるからか、みんなの手も止まらない。
「早く食べないとなくなりますよ」
「あっ……ああ」
エリオットさんの言葉にキッシュさんも手を伸ばす。
「なっ……」
「ははは、ここでは早い者勝ちだからな」
だが、キッシュさんの目の前にあった肉じゃがはエルドラン団長に取られていた。
相変わらず食い意地が張っているね。
ただ、黒翼騎士団に馴染むにはこれぐらいが良いのだろう。
「くそ、俺にもソウタ先輩の肉じゃがを食わせろ!」
「食べたいなら自力で奪うんだな」
大皿に盛られた肉じゃがを囲み、フォークが二本同時に伸びた。
狙いは同じ照りをまとった大きめのじゃがいも。
――カキン!
金属同士が乾いた音を立て、フォークの先がぶつかる。
「中々やるな」
「後務騎士でも全く戦えないわけじゃないですからね」
互いに譲る気はないらしく、フォークは引かない。
片方が角度を変えて突き込めば、もう片方がそれを塞ぐ。
じゃがいもは皿の上で転がり、煮崩れそうになりながらも必死に耐えていた。
「……先に取ったのは俺だろ」
「同時です」
キッシュさんとエルドラン団長は大きなじゃがいもを同時に刺した。
やはりキッシュさんも騎士だから素早いね。
だけど――。
「こら! 食べ物で遊ばない!」
僕の声に二人ともピクリと止まる。
震えるエルドラン団長と首を傾げるキッシュさん。
「ソウタ、これは遊んでるわけでは……」
「ならテーブルが汚れてるのはどうしてですか? じゃがいもも転がって――」
「「すみませんでした!!」」
二人ともすぐに謝ってきた。
他の小さなじゃがいもがテーブルの上を転がっていた。
ここまでやったらそれはもう取り合いではなく遊んでいるからね。
「くくく、エルドラン団長もバカっすね」
「なんだ……ぬああああ! ジン! 俺の残していた肉を食っただろ!」
「残していたから悪いっす!」
二人が取り合っている隙に、ジンさんはエルドラン団長の皿から肉を食べていたようだ。
確かにみんな自分の皿をちゃんと持って……いや、守るように食べているもんね。
「ソウタ、私のじゃがいも食べる?」
「ゼノさんは自分の分を食べてくださいね」
「ショボーン……」
ゼノさんはチラチラと僕の方を見ていた。
まさか僕よりも大きな男性がショボーンって言うとは思いもしなかった。
今日のゼノさんはどこか子どもっぽいね。
赤翼騎士団にいる婚約者に会ったからだろうか。
少しゼノさんの様子を見つつ、僕もご飯を食べ進めていく。
「ロールパンと和食って思ったより相性がいいのかな?」
ロールパンと肉じゃがの組み合わせは意外にも合っていた。
肉じゃがの汁をロールパンに浸しても美味しかったし、肉じゃがを挟んでも惣菜パンにもなる。
それにお味噌汁も野菜の甘みで、どこか洋風のスープに感じた。
「ソウタ、これも結構いけますよ」
「エリオットさんも食通になりましたね」
エリオットさんは肉じゃがに少しだけ胡椒を振っていた。
確かに胡椒を入れると洋食に近づくから、パンとも食べやすいだろう。
少しずつ料理も覚えてきているから、そのうち僕が作らなくてもいい日がくるかもしれないね。
そう思いながら、いまだに静かに肉じゃがの取り合いをしている騎士たちを横目に僕も食事を終えた。
「じゃあ、洗い物は頼みました」
「しっかりやっておきます」
洗い物はキッシュさんとエリオットさんがやってくれることになった。
同じ青翼騎士団だったのもあり、話すことがあるのだろう。
「ソウタ、一緒に寝よう」
「別にいいですけど、僕のベッドだと狭いですよ?」
「なら私のところに来てください」
ゼノさんは僕の手を引いて部屋に戻っていく。
以前は勝手に忍び込んでいたのに、自ら一緒に寝ようって言ってくるのは初めてだ。
どこかいつもと違う雰囲気に僕も心配になってくる。
「ソウタはずっといてくれる?」
「ゼノさんが寝付くまでですよ」
「ブー!」
ゼノさんは子どものように口を膨らませていた。
そんなゼノさんの背中を優しく撫でると、僕をギュッと抱きしめた。
本当に僕の弟妹たちにそっくりだ。
お弁当を作らないといけないから、起こしたらいけないと思って僕は別の部屋で寝ていたからね。
しばらくすると、ゼノさんは静かに寝息を立てていた。
「ゆっくり寝てくださいね」
僕はこっそりと抜け出して、部屋に戻ることにした。
「なぁ、ゼノのやつやっぱり子どもの頃に戻ってるみたいだったな」
「婚約者を見たから過去を思い出したんっすかね?」
広間ではエルドラン団長とジンさんが晩酌をしていた。
他の騎士団員も部屋に戻って休んだのだろう。
相変わらずエルドラン団長とジンさんはお酒が好きだからね。
僕と目が合うとビクッとしていたが、特に僕は晩酌を禁止したわけではない。
翌日のお弁当のおかずを食べるのが問題なだけだ。
「明日のお昼はカツサンドだから、肉じゃがは食べ切ってもらって大丈夫よ」
「おっ……そうか!」
「へへへ、それはラッキーっすね!」
二人とも肉じゃがをつまみに美味しそうお酒を飲んでいた。
肉じゃがっておつまみとしても優秀だからね。
「そういえば、さっきのゼノさんの話ってなんですか? 僕も今日はやけに甘えてくるというか……子どもっぽく感じたんですが……」
エルドラン団長とジンさんはお互いに視線を合わせるとどこか困ったような表情をしていた。
「あー、まだ小さなソウタには話しにくいんだけどな」
「ゼノの親父さんがかなりの女好きなんっすよ!」
父親が女好きで愛人でも作ったとかそういう問題なんだろうか。
日本でも浮気のニュースはよく流れていたからね。
「貴族ならよくありそうですね」
「おっ……そうなのか? それにしても妻と側室が両手でもかぞえられないほどだぞ……」
「そんなにですか!?」
あまりにも多い人数に僕は大きな声を出してしまった。
チラッと後ろを振り向くが、ゼノさんが起きてきた様子はない。
「それは普通じゃないですよ……」
「そうだろ?」
「それにゼノの父親を取り合った影響でゼノが巻き込まれていたって話っす! さすがに子どもの頃から女の相手を――」
「それ以上はソウタには早いぞ!」
エルドラン団長はジンさんの口を両手で押さえた。
僕にあまり詳しく教えてはいけないと思ったのだろう。
見た目はまだ小さな子どもだもんね。
でも、少しだけゼノさんの過去を知れてよかった気がする。
「とりあえず今日のゼノさんは婚約者に会ったことが影響してそうですね」
「ああ、そういうことだな」
「しばらくは様子を見ておきますね」
僕は自分の部屋に戻ろうとしたが、心配になってゼノさんの部屋に戻ることにした。
小さい頃から家庭環境が崩れていたら、大人になりきれない部分が残ってしまっても、無理はないのだろう。
「本当に子どもみたいですね」
「ソウタ、モチモチだね……」
眠っているゼノさんの顔はフニャフニャになっていた。
僕がモチモチって夢の中で何をしているのだろうか。
「夜中にお餅と間違えて食べないでくださいよ?」
今日だけは仕方ないと思い、僕はゼノさんの腕に潜り込むように一緒に寝ることにした。
「さすがにソウタにもゼノが二重人格とは言えないよな」
「そうっすね……。子どもの時から朝と夜に逃げ場のない役目をさせられたら、心が分かれても不思議じゃない」
「俺たちがゼノを守ればいいさ」
広間ではまだエルドラン団長とジンさんがゼノさんのことを話していたが、ゼノさんの部屋からは詳しく聞き取れなかった。
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