47.兄ちゃん、旨味を教える
「ほらゼノさんは髪の毛を乾かしますよ!」
お風呂から出ると、すぐにゼノさんの髪の毛を乾かしていく。
風魔法によるドライヤーにも慣れたのか、前よりも早く乾くようになってきた。
「ソウタ先輩は普段からあんな感じなんですか……?」
「ああ、ソウタは面倒見がいいからな!」
エルドラン団長は嬉しそうに僕の話をしているが、面倒見が良いという域を超えている気がする。
黒翼騎士団の掃除・洗濯・料理の家事を中心にやって、時折ゼノさんをお風呂に入れたりとまるで母親みたいな気分だ。
それはキッシュさんも思ったのか、僕を見る目が少し戸惑いと同情を帯びているような気がした。
今後自分が青翼騎士団に戻ったら、ここまでするのかと想像しているのだろう。
さすがに後務騎士だからと言って、僕もコンラッド団長やバリーさんの髪の毛を乾かしたいとは思わないからね。
「はい、ちゃんと乾きましたよ」
「ソウタ、ありがとう!」
お風呂に入ったからか、ゼノさんもシャキッとしている。
これなら夕飯作りもすぐに終わるだろう。
「エリオットさん、アルノーさんお風呂に入ってきてください」
エリオットさんとアルノーさんがご飯の準備をしていてくれたおかけで、メイン料理とスープを作るだけで済みそうだ。
パンは焼いている最中だし、サラダはエリオットさんが作ってくれた。
「肉じゃがにパンって不思議だけど……問題ないか」
和食とパンのコラボレーションだけど、せっかくアルノーさんが焼いてくれたから食べたい。
柑橘類の酵母も気になっているしね。
「キッシュさん、じゃがいもを剥いてください」
「じゃがいも……剥く?」
ひょっとしてじゃがいもを剥いたことすらないのだろうか。
確かに料理対決した時は、じゃがいもの皮がそのままだったもんね。
「ジンさん、ゼノさん!」
「なんだ?」
「ソウタ、呼んだかな?」
待機していたかのように調理場を覗いていた、二人が勢いよく近づいてきた。
「じゃがいもの皮の剥き方をキッシュさんに教えてもらってもいいかな?」
「ひょっとして……」
「今日は肉じゃがですね!」
「うっし!」
ジンさんは肉じゃがを作ってもらえると聞いて嬉しそうだ。
青翼騎士団の庁舎にいる時に約束しちゃったからね。
「チッ、今日はトンカツじゃないのか」
トンカツを作ってもらえなかったからって、エルドラン団長は不貞腐れた顔で鍋の用意をしている。
手伝ってくれるのは変わらないが、明日トンカツを作らないと、ずっと耳元で囁かれるやつだろう。
この間も一日中、僕を見るたびに〝油淋鶏〟と呟いていたからね。
「トンカツはお昼にカツサンド――」
「ぬぁー、さすがソウタだ! さぁ、肉じゃが作るぞ!」
トンカツをメインにすると、大量に揚げないといけない。
だからカツサンドであればそこまで大変じゃない。
まぁ、揚げるのはエルドラン団長だけどね。
「ソウタ先輩、黒翼騎士団は普段からこんな感じですか?」
「僕が来た時からそうですよ? みなさんいい人なんですけど、すぐに誤解されちゃうんですよね」
「ははは……」
キッシュさんは苦笑いをしていたが、街の人たちの関わりを思い出すと、本当に勘違いされていただけだ。
そのほとんどが騎士のイメージと無愛想な顔が原因だけどね。
「青翼騎士団も気をつけてくださいね?」
「すっ……すみません」
青翼騎士団のバリーさんたちが、レオの店で暴れたことはまだ根に持っているからね。
今度コンラッド団長に会ったら、無理矢理にでも食器を一新してもらおうかな。
自分たちがどうやって思われているのか、騎士だからこそ考えないといけない。
子どもたちのお手本であるべき存在だからね。
そう思うと赤翼騎士団は女性のみの騎士団だけあって、見た目も整っているし、態度も問題はなかった。
ただ、男性からの不人気な部分は黒翼騎士団を見ている時に気になった。
「じゃあ、じゃがいもの皮を剥いていきますよ」
大量にあるじゃがいもの皮をみんなで剥いていく。
「二人ともだいぶ上手になりましたね」
「俺には剣の才能があるから、これぐらい――」
「おい、ジンよそ見するな」
「あぁ……!」
包丁をうまく使えなかったジンさんやゼノさんだって、今は包丁を扱えるようになってきている。
基本的には包丁を使う作業しかさせていないのもある。
ただ、ゼノさんが危ないからと注意しているところを見て僕は嬉しくなった。
「ソウタ、褒めてもいいんですよ?」
「ゼノさん、チラチラ見てると危ないです」
うん、やっぱり意図があったんだね。
僕の感動を返してほしいな。
「じゃがいもの皮剥き終わったっす!」
「それにしても……」
「「お前、下手くそだな」」
「くっ……」
キッシュさんもじゃがいもの皮剥きをしていたが、半分くらいのサイズになっていた。
この世界のじゃがいもって成人男性の拳サイズだから、そこまで難しくはない。
むしろ僕みたいな手が小さな子どもの方が、じゃがいもの皮剥きは難しい。
「ほらほら、僕の後輩をいじめないの」
容赦ない言葉にキッシュさんも可哀想だ。
来たばかりなのに黒翼騎士団にいじめられたとコンラッド団長に言って、講習代が減ったら困るからね。
「ソウタ先輩……」
「「チッ!」」
キラキラしたキッシュさんの視線を僕は気にせず、肉じゃがを作ることにした。
ジンさんやゼノさんの反応からして、やはり青翼騎士団の人と仲良くなるには時間がかかりそうだ。
「じゃあ、野菜とお肉も切ってくださいね」
肉と野菜を切り終えたら、すぐに炒めていく。
出番はないのかとエルドラン団長がずっと見ていた。
ただ、ロールパンと肉じゃがって合うのだろうか。
和食なイメージが強いから、あまり合う印象がない。
「お肉と野菜を炒めたら、水と調味料を入れて煮ましょうか。キッシュさん覚えられますか?」
「これで終わりなんですか?」
「はい、簡単でしょ?」
肉じゃがって作業としてはかなり簡単な方になる。
僕も初めて覚えた料理だからね。
「スープは……」
「味噌汁が飲みたい」
「お味噌汁ですか……」
エルドラン団長の希望はこれまた味噌汁だった。
最近はポタージュスープにハマっていたからね。
「キャベツと玉ねぎのお味噌汁にしましょうか」
弱火でじっくり煮れば、キャベツの甘みと玉ねぎのコクが出てお出汁の代わりになるだろう。
お水の中に切ったキャベツと玉ねぎを入れて温める。
「キッシュさんって旨味って知ってますか?」
「旨味……ですか?」
首を傾げているから、きっと旨味のこともわからないのだろう。
「旨味って甘味、塩味、酸味、苦味に並ぶ重要な味なんだ。でも、はっきりと味がわかるわけではないけど、あればすごく美味しく感じるから覚えて置いた方がいいよ」
野菜を煮ている間に僕はキッシュさんに旨味について教えることにした。
黒翼騎士団員も興味深そうに聞いているしね。
「旨味には野菜に多く含まれるグルタミン酸、肉や魚に多いイノシン酸、乾燥したきのこに多いグアニル酸があるんですけど、これらを組み合わせるとすごく味に深みが出て美味しくなるんです」
「ほっ……ほぉ……?」
きっとキッシュさんも話が難しくて、半分以上はわかっていないだろう。
黒翼騎士団員も似たような反応だもんね。
「作りながら学んでいけば、自然とわかるようになりますよ!」
今回は肉じゃがに豚肉のイノシン酸、お味噌汁にグルタミン酸が含まれている。
旨味が一つでもあると、料理は美味しくなるからね。
「あとは味噌を溶けば、お味噌汁の完成ですね」
お玉に味噌を乗せて、素早く溶かしていく。
ふんわりと湯気に乗って立ち上がるキャベツと玉ねぎの甘い香りが、味噌の発酵の香りとマッチして、調理場の空気を和らげる。
「肉じゃがもそろそろ良さそうですね」
じゃがいももしっかり柔らかくなって、甘辛い匂いがお味噌汁に続いて追撃する。
ゴクリと唾を飲む音がそこら中から聞こえてきた。
その姿に僕は優しく微笑んだ。
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