45.兄ちゃん、ようこそ黒翼騎士団へ
黒翼騎士団に帰ってきた僕たちは、早速キッシュさんの適性をみていく。
「キッシュさんは何か魔法とか使えますか?」
ええ、何担当にしていくのか知るのが、僕の楽しみでもあるからね。
青翼騎士団は貴族の集まりって言っていたから、多少なりとも魔法を使える可能性がある。
だけど、キッシュさんは浮かない顔をしていた。
「俺は戦う力がないので専業シェフなんですよ」
「それは聞いてますよ。他の騎士団では役割分担をしているんですよね?」
黒翼騎士団は団員全員が戦闘騎士だが、他の騎士団には補佐をする後務騎士がいる。
僕はどちらかと言えば……いや、絶対に後者だろう。
自慢ではないけど、戦う力はないし逃げるだけの体力もないからね。
「はい。青翼騎士団は攻撃魔法が使えたら、戦闘向きと判断されて戦闘騎士になります」
どうやら青翼騎士団は剣と魔法で戦う万能型の騎士集団のようだ。
コンラッド団長は壁を一瞬で直したり、お皿を作ってくれたけど、青翼騎士団の団長ってことは相当強いのだろう。
それでもあの人は食器担当だ!
「ってことはキッシュさんは、攻撃魔法が使えないんですか……?」
「剣の腕なら少しばかりありますが、魔法が木魔法なので……」
「剣が使えるだけすごいですよ! それに木魔法ってまた便利そうですね」
僕はキッシュさんに詰め寄る。
剣だけが使えても、騎士として表舞台に立てないのはもったいないね。
騎士の補助なんて、体力もなく、家事しかできない僕でもどうにかなっているのに。
少しゼノさんとエリオットさんの視線が痛いけど気にしない。
魔法が使えるだけで便利……素晴らしいんだからね!
「いえ、木魔法は少しばかり成長を促す――」
「これにぜひ木魔法をお願いします」
僕は果実を水につけた瓶を取り出した。
もし、成長を促すのなら後務騎士として、かなり便利な人になる。
もちろん黒翼騎士団には必要不可欠だ。
少し呪文を唱えると、瓶全体が温かくなったような気がした。
「ははは、ほら使えな――」
「キッシュさん、すごいです! なんで今まで後ろでコソコソしてたんですか!」
僕はキッシュさんの手を強く握った。
当の本人は何も分かってはいなさそうだけど、木魔法は思っていたよりも便利だ。
「柑橘系の天然酵母って滅多に作れないです! 砂糖や蜂蜜を入れないと菌が増えないので、特にレモンみたいなクエン酸が多いものは天然酵母に向かなくて」
僕は嬉しくなって、ついつい瓶を抱きしめる。
りんごやベリー系の果物で天然酵母は作ることができた。
果実の甘味が少なくてもどうにかなったが、柑橘系は全く発酵する兆しがなかった。
それなのに瓶の中でプツプツと発酵してできる気泡が見える。
「……ってえええええ!?」
キッシュさんを見ると、目から涙が溢れ出ていた。
僕はすぐに遠くで見ていた騎士たちに視線を送るが笑っているだけで助けてくれなさそうだ。
むしろゼノさんやエリオットさんも釣られて泣いている。
「キッシュさん、すみません。きっと嫌なことばかり言って――」
「ありがとうございます。俺の魔法を必要としてくれて……」
どうやら僕の勘違いだったようだ。
きっと騎士団の中にいたら、攻撃魔法が使えないことに劣等感を抱いていたのだろう。
僕からしたら魔法が使えるだけですごいと思うけどね。
泣いているキッシュさんの頭を優しく撫でる。
少し驚いていたけど、そのまま撫でさせてくれるようだ。
でも、また新たに気になることが出てきてしまった。
「キッシュさんって……お風呂、苦手ですか?」
「へっ……?」
「髪の毛が、ちょっとベタベタしているので……」
触った髪はどこかお風呂に入る前のエルドラン団長に似ていた。
毛質そのものは悪くないのに、指にまとわりつくような皮脂の感触が残っており、少しべたつく気がする。
「後務騎士なので一週間に一回――」
「今すぐにお風呂に入ってきてください!」
「へっ!?」
僕の言葉にキッシュさんは戸惑いを隠せない。
だけど、黒翼騎士団の庁舎にいる限りは身なりを良くして、嫌われないように清潔を保つことが重要だからね。
キッシュさんも笑っていたらかっこいいけど、真顔で黒翼騎士団の隣にいたら悪役と間違われてしまう。
「エルドラン団長、ジンさん!」
「「俺たちにまかせろ!」」
「なっ……ななななななんですか!?」
エルドラン団長とジンさんがキッシュさんを持ち上げた。
キッシュさんは驚いているが、もちろんどうするかは決まっている。
「風呂に入るに決まってるだろ」
「風呂に入らないとソウタのご飯が抜きになるっすよ!」
「いってらっしゃいー!」
僕は騎士たちを手を振って見送る。
騎士たちもだいぶお風呂に入るのに慣れてきた気がする。
キッシュさんは、とりあえずエルドラン団長とジンさんに任せて、残った人たちで夕飯の準備をすることにした。
「ゼノさん、エリオットさん、アルノーさんがいるから……」
「ソウタ、私の頭は撫でてくれないんですか?」
ゼノさんはその場でしゃがみ込み、頭を向けてきた。
今日はやけに甘えたな気がするけど、どうしたんだろうね。
そんなに元婚約者に会ったのが辛かったのかな?
とりあえず、ゼノさんの頭を撫でて――。
「ねぇ、ゼノさん……?」
「どうした?」
「髪の毛が絡まってるんですが……」
さっきも頭頂部しか撫でていなかったが、髪の毛に指を通したらすぐに絡まっていた。
やっぱりこの人も僕が洗わないとダメなんだろうか。
本当に長毛種の犬……人間は大変だ!
「あっ……」
逃げようとしているゼノさんの肩を僕は掴む。
こういう時ってなぜか普段よりも力が入りやすいんだよね。
「エリオットさん、アルノーさん、パンを作っておいてください! あっ、新しくできた天然酵母も使っていいですよ!」
僕の言葉にアルノーさんは嬉しそうに柑橘系で使った天然酵母の瓶を手に取っていた。
もう彼はパン担当として、僕がいなくても作れるようになってきたからね。
「ほらゼノさん、お風呂に行くよ!」
「うん!」
ゼノさんの手を引くと、嬉しそうに歩いてきた。
あれ……?
ひょっとして、僕と一緒にお風呂に入りたいがために髪の毛を洗ってないとか……。
僕は少し怖くなってゼノさんの顔を見ることはできなかった。
「ソウタとお風呂! ソウタとお風呂!」
「はぁー、騙された」
声の感じからして、きっと満面な笑みで笑っていそうだね。
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